平成18年度 第2回 アジア研究会 「東アジア共同体とEPA-過去5年間のレビューと今後の方向性-」東京大学大学院総合文化研究科教授 小寺 彰【2006/09/19】

日時:2006年9月19日

テーマ「グローバル経済戦略-東アジアの統合と日本の選択」

平成18年度 第2回 アジア研究会
「東アジア共同体とEPA-過去5年間のレビューと今後の方向性-」


東京大学大学院総合文化研究科教授
小寺 彰

小寺 彰 最初に、5つの問題を提起する。第1にEPA(経済連携協定)交渉を始めて約5年が経過した今、今後の交渉に向けて5年間の経験をレビューする時期がきているのではないか。第2にEPAは最近、東アジア共同体と結びつけて議論されるが、東アジア諸国とのEPAは必要か。第3にどのようなEPAが望ましいか。この点は、高水準である必要はなく、中水準だが包括的なものが望ましいと考える。第4にEPA交渉はWTO(世界貿易機関)に置き換わるものか。置き換わるという議論があったが、EPAとWTOは機能が異なる。第5に「日中EPA」をどのように考えれば良いか。 日中EPAについては、他のEPAとは違って多面的なアプローチが必要になるのではないか。
 これらの問題を順にお話する。まずEPAとは何かというと、私はWTO体制の補完物だと考える。WTOはルールをつくる法律であり、EPAはそれを前提に作られる契約である。従って、EPAがWTOに置き換わることはない。非WTO事項については、EPAが新たな国家間規律をつくることになるが、WTO規律を外側から補完する役割を持つと理解すればよい。WTOの投資ルールはドーハ開発アジェンダで議題から落ち、当面つくられることはないが、約2500の二国間投資協定がこれを補完している。
 EPAの基本的性格として、以下の3つが挙げられる。第1に、現状変革性だ。多国間条約では現状を変革するものは多いが、二国間条約で現状変革性を持つものはまれだ。EPAはWTO上の制約で、関税を原則撤廃しなくてはならず、その点だけでまず現状変革性がある。アメリカとシンガポールが結んだFTA(自由貿易協定)では、知的財産権について新たな立法義務を課す、サービス分野についても自由化を実現するというように、様々な分野における現状変革を達成した。これはアメリカのFTAの一大特徴で、まさに高水準である。第2の基本的性格は、このEPAの水準、自由化の程度だ。私はEPAの最大の目的は、二国間の経済関係密接化を通じた友好増進であり、短期的な自由化促進より、中水準でも徐々に自由な経済体制を達成する方がよく、日本のEPAは実際にはそうなっていると思う。また第3にEPAのモチーフだが、日本のEPAは経済的モチーフが極めて強い。しかし日中EPAとなると、経済的モチーフだけでは十分はかれず、米中関係を念頭に置いて対処しなければならないだろう。
 事実上の経済統合がすでに東アジアにはできており、EPAはそのインフラとして重要だ。WTOはルールを設定し、マーケット・アクセスを達成するが、EPAはむしろ2国間の友好増進の場と割り切ることが必要だと思う。
 最後に東アジア共同体の話だが、これについては名前がよく出るものの、共同体とは何であるのかわからない。重要な何かを共有する団体というのが共同体の定義であるが、アジア諸国と日本が何を共有するのか。このあたりの議論が、見受けられない。東アジア共同体を前面に持ってきた場合、何を共有するのか、そして共有するものを特定すれば、そのための戦略としてEPAがどのように有効なのか。この点が確定しなければ、東アジア共同体と日本が推進しているEPAはリンクしないだろう。
(以上、発表)

【コメント】
岩本 功志・国際貿易投資研究所公正貿易センター所長:

岩本 功志 企業から見れば、EPAを早く結び、競争相手国に対して相対的に不利になるようなことは早く解決してほしい。政府にはエネルギー、鉱物資源の確保などについて、戦略的にEPA、FTAを結んでいただくようお願いしたい。さらに人材確保も重要であり、外国人労働者もそれなりに、しっかりした形で受け入れることを考えなければならない。

田中 繁広・経済産業省通商機構部参事官:
田中 繁広 WTOドーハ・ラウンドでは、先進国市場から途上国へと関心が移っている。また工業品の世界では、障害は非常に減ってきているが、農業分野が残っている。FTAとの関係で言えば、紛争やトラブルが起こったときの対応を考える際、FTAや2国間条約だけでそれを解決できるとは思えない。やはり、WTOで対応しなければならない問題も残る。FTAとWTOについては、二者択一のような議論があるが、ある種の振り子のような関係だと言える。

酒匂崇示・経済産業省経済連携課長:
酒匂崇示 政府で決定された戦略の中では、アジアを重視してFTAを進め、その後は資源国と人口の多い国との間で進めるといった方針が示されている。また東アジアFTA共同専門家会合が2005年4月に始まり、日本政府は会合に新たに3カ国を加えてASEANプラス6とすること、関税引き下げにとどまらず投資や知的財産の保護なども含むEPAにすることなどを提案した。さらに東アジアの統合の最も良い形を議論するため、「アジア版OECD」の設立も提案している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部