平成18年度 第4回 アジア研究会 「東アジアの国際分業と日本企業」法政大学経営学部助教授 天野 倫文【2006/11/14】

日時:2006年11月14日

テーマ「グローバル経済戦略-東アジアの統合と日本の選択」

平成18年度 第4回 アジア研究会
「東アジアの国際分業と日本企業」


法政大学経営学部助教授
天野 倫文

天野 倫文     昨年、約8年間の研究成果を、「東アジアの国際分業と日本企業」という本にまとめた。この本の視点は、まず東アジアへの生産シフトを産業空洞化ではなく、東アジア全体で形成されている国際分業への適応という視点から捉えたいというものだ。そしてもう1つは、アジアへの国際化を企業成長の重要なプロセスと位置づけ、この地域への国際化戦略や国際分業の展開が今後の日本企業にとって必要だとする。これらを考えるため、(1)進出先国・地域における「立地優位性の追及」、(2)「分業の便益」の戦略的利用、(3)本国側の「比較優位創出」、(4)産業集積における関係構築―に関する仮説を立てた。90年代以降、グローバル化が進んだという認識があるが、国際比較では日本の国際化投資に占める比率はそれほどでもない。日本の会社の対外直接投資は円高、為替レートに敏感に反応して外的に決まる部分が多いが、いわゆる受身的な対応の議論だけでは済まなくなってきている。
 国内との兼ね合いで言えば、直接投資は、国内で競争力がなくなったから海外に出て行くという「国内生産代替型」と、より積極的に市場や資源を獲得しに行こうという投資の2類型に分けられる。国内生産の成長率に与える影響は、「国内生産代替型」ではマイナスに出るが、後者はプラスに出る。これまでは対外投資というと、日本ではゼロサム論が強かったが、成長を志向する海外投資の条件を検討する必要がある。いわゆる「成長の経済」、「規模の経済」、「経験の経済」、「範囲の経済」のような企業活動の競争力の基盤となる効果を、現地でつくり上げていく必要がある。
 データを調べると、国内で事業構造転換を進めている会社は、国際化にも積極的だということが見えてくる。一方、「事業転換失敗型」で空洞化に直面するような会社は、海外展開にも消極的だ。すなわちフロンティアを広げることに積極的な会社は、実は国内でもよい循環が起きており、海外事業展開を進めると同時に国内でも事業構造転換をスムーズに行える。空洞化は海外生産転換を積極的に行った会社よりも、実は海外生産展開をなし得なかった会社で生じ、そのような会社は既存の事業にしがみつく。その事業が国際的に競争力を失う中で、空洞化が起きる。収益率の変化との関わりを見ても、海外に出てしっかり地盤を築き、国内でも構造転換を進めた会社は、海外生産転換を進めるプロセス、さらには進めた後に、いずれも収益率上昇が見られる。一方、海外生産展開を怠った会社は、収益率が低落傾向になる。適応行動をした会社とそうでない会社の間に、10年ぐらいの間で差が出ている。
 産業集積の重要性と関連して、1つの例を挙げる。パソコン周辺機器の多くはインテルが標準化戦略をとった後、台湾企業にやられたが、ハードディスクドライブ(HDD)産業は例外で、いわば日米対立がアジアで起きている。ただしアメリカ企業は、日本企業より優位なポジションにある。これについてアジアに進出した時期を見ると、日本企業とアメリカ企業の間で約15年の差がある。80年代のアメリカ企業はクラスターを意識し、シンガポールに進出した。これらの企業が目指したのは、エンジニアの獲得だ。一方、日本企業はエンジニアリングのほとんどを国内で行い、結果としてアメリカ企業の間接費が低下した。それらのエンジニアはほとんど華僑で、90年代にこの産業はタイ、マレーシア、中国へと拠点が拡散したが、それを推進したのも華僑だ。日本企業の進出のタイミングは95年以降で、これは円高によるものだ。ここに為替を意識した展開をとった会社とクラスターの形成を考えた業界との差が鮮明に出ている。通常はセット・メーカーが先に進出し、部品メーカーは後についていくが、日本の総合電機メーカーを途中から見限り、アメリカのHDDメーカーについて行った部品メーカーが今、高収益を上げている。広い意味でのクラスター形成と、それに対するコミットメント、そしてクラスター関係を自らつくっていくという姿勢が問われる時代になりつつあるということだ。
(以上、発表)

【コメント】
川田 敦相・日本貿易振興機構海外調査部主査:

川田 敦相 国内でうまくいっている企業は海外でもうまくいく、というのは面白い分析だ。また日本企業のアジア展開、ASEANなどでの展開に関しては、97年のアジア通貨危機の影響がかなり大きかったと言える。多くの日本企業は東アジアに地域統括拠点のようなものを設置しているが、そのリーダーシップや調整機能を、日本本社側が率先してとる必要があるのだろうか。また日本企業、メーカーの方々によれば、東アジアの分業で、マーケットまたは生産拠点として、中国が最も重要と認識されていると思う。

吉田 泰彦・経済産業省通商政策課企画調査室長:
吉田 泰彦 東アジアの域内貿易比率はこの20年、上昇している。東アジアとの貿易結合度も高く、その比率は近年引き続き上昇しており、地域経済としての一体性、補完性は高まっている。日本企業はこのような東アジア経済で製造部門を中心に展開しており、日本の高機能部素材を中国で最終製品に組み立てて米国市場等に輸出するといった分業関係を進めるとともに、日本の東アジアの他の国からの中間財の輸入を拡大するなど、日本を含む東アジアにおける生産ネットワークを構築、深化している。こうした中で経済産業省では近年、アジアを軸足にした通商政策を進めている。

開催風景
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部