第62回-2 中央ユーラシア調査会 「リビア在勤を終えて-最近の同国情勢」前駐リビア特命全権大使 塩尻 宏【2006/05/22】

日時:2006年5月22日

第62回 中央ユーラシア調査会
「リビア在勤を終えて-最近の同国情勢」


前駐リビア特命全権大使
塩尻 宏

カダフィ革命体制と欧米との対立
塩尻 宏     北アフリカの地中海沿岸にあるリビアでは、エジプトのナセル大統領が唱えたアラブ民族主義に触発された青年将校、カダフィ大佐が1969年に革命を起こし、現在までカダフィ体制が続いている。リビアは1970年代に他国に先駆けて石油国有化を進め、欧米諸国と対立する1つの要因にもなった。1970年代にはまた、世界各地の民族解放運動をリビアが支援したことが、欧米諸国とのもう1つの対立要因になった。80年代には、アメリカがリビアの首都トリポリなどを爆撃し、リビアに仕業と見られるテロも各地で起きた。旧西ドイツでの米兵を狙ったディスコ爆破事件やスコットランド上空で起きたパンナム機爆破事件やなどにより、対立はエスカレートしていった。

大量破壊兵器の放棄
 2003年12月19日、リビアは大量破壊兵器計画を放棄することを宣言し、話題になった。メディアではカダフィの大変身などと取り沙汰されたが、既に2003年6月からリビアは変化していた。直接民主主義体制のリビアには、国民の意思決定機関である全国人民会議と、そこで決定したことを執行する全国人民委員会という機関がある。この全国人民委員会の責任者を首相ポストと認識しているが、2003年6月から今年3月までの約3年間、経済テクノクラートのガーネム氏がこのポストに就いて経済改革を行った。2003年8月には、ロカビー事件の補償合意が遺族との間で成立し、フランスのUTA機爆破事件の補償問題も同年9月に合意が成立した。これを受けて同年9月12日には安保理で対リビア制裁が正式に解除された。大量破壊兵器計画の放棄宣言はその4カ月後になされた。
 最初にリビア側から英国のブレア首相に対して大量破壊兵器に関する協議の申し入れがあったのは2002年10月頃であった由である。重大な問題であったためリビア側の真意を確認する必要もあり、2003年2月頃から米・英・リビア間で情報機関レベルの秘密協議が続けられ、同年12月19日の発表に至った。2003年3月には、米軍のイラク侵攻があり、リビアはイラクと同じ目に遭うことを恐れて手を上げたと言う説明もあったが、実際には2002年秋までには既にリビアの決断がなされていたことになる。
 カダフィが方向転換を決意した背景には、90年代に入りソ連崩壊によって国際情勢が根本的に変化し、70年代からリビアが支援してきた世界の民族解放運動が終息したこと、その結果、リビアが孤立してまでこれ以上各地の民族解放運動を支援する必要はなくなったと悟ったことがある。また、大量破壊兵器に関しては、カダフィ自身が、多大な経費と年数を費やしても、結局はモノにならず、大国と対抗するのには役立たないことが分かったと言っている。

今日のリビアにおける問題
 リビアは人口5~6百万という小規模な国でとは言え、長年にわたる革命体制の下で続けてきたやり方を変えるのには時間がかかる。リビアでは、当時に比べて貨幣価値が4分の1程度になっているにもかかわらず、1981年当時の公務員給与が今も適用されている。これがあまり問題にならなかった背景には、大規模な補助金政策により基礎生活物資が極めて安価に抑えられている事情がある。ガーネム首相はこの補助金を抑制して公務員給与を引き上げようとしたが、全民国民会議での承認が得られないまま物価が徐々に上がっている。
 また、リビアでもcorruptionの問題は日本のビジネス関係者にとって悩みの種であり、是正されるべきであるが、現地に居た私は別の感じ方をしている。国からの給与だけでは暮らせないとすれば、収入を補うために副業や便宜供与で見返りを得なければ生活を維持できない状況であろう。このような状況で、corruptionの問題を厳格に追及するのは、リビア人にとって気の毒な感じもする。
 カダフィ体制がこれだけ長く続いている理由の1つは、彼は自分の宮殿を作ったりはせず、清貧に甘んじて非常に身奇麗であることが挙げられよう。しかしながら、リビアの国家収入と予算の関係は非常に不透明であり、これを変えていくことも必要であろう。
 改革を進めるには、36年あまり続いてきた革命体制を支持してきた人々の立場を変えていく必要もあるであろう。2006年の3月初めに、保守勢力の革命体制擁護派から良く思われていなかった改革派のガーネム首相が更迭されたが、彼は3年間近く改革を進めたが上手くいかずに退かざるを得なかった。ガーネム前首相の下ではほとんど発言権がない副首相クラスであった革命擁護派のマフムーディ首相が後を継いだが、カダフィがいる限りは、国際社会との関係正常化に向けた動きは変わらないと思われる。ただし、改革を進めて行くには国内の革命支持勢力の影響力と権益を抑制していかなければならず、微妙な舵取りを迫られている。

アメリカとの関係改善
 アメリカとの関係では、米国務省がようやくリビアをテロ支援国家のリストから外し、大使館レベルで関係を築く段階に来ている。しかし、アメリカ国内ではリビアに対する疑念や不信感はなかなか消えず、デリケートな問題になっている。その背景には、ユダヤ・ロビーとオイル・ロビーのせめぎ合いもある。オイル・ロビーは米国の石油企業が早くリビアに復帰することを期待し、ユダヤ・ロビーはイスラエルと過激なリビアとの関係の先行きに何らかの梃子を残しておきたい思いがある。この様な事情から、アメリカとリビアの関係には微妙なものがある。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部