第65回-1 中央ユーラシア調査会 「資本主義に向かう中国」(株)野村資本市場研究所 シニアフェロー 関 志雄【2006/08/10】

日時:2006年8月10日

第65回-1 中央ユーラシア調査会
「資本主義に向かう中国」


(株)野村資本市場研究所 シニアフェロー
関 志雄

変化する中国の社会主義
関 志雄     本日は中国の資本主義化を軸に、中国経済の現状と課題について報告する。中国は1970年代末期に鄧小平の下でいわゆる改革開放路線へ転換した。それから四半世紀以上にわたり平均10%近い高成長を遂げている。これは社会主義を堅持したからではなく、むしろ段階的に社会主義を放棄してきた結果である。中国政府も、社会主義は時代とともに進化する、といっているが、その定義は甘くなっている。中国では、社会主義の重要な柱である計画による資源の配分と国有企業を中心とする生産手段の公有制も変化している。

中国における漸進的改革
 ロシアや東欧とは対照的に、中国は資本主義を短期間で実現しようとするショック療法を採用せず、時間をかけて漸進的改革を進めた。1992年の南巡講話を経て社会主義市場経済の建設が目標となり、90年代の半ばには中小型企業を中心に民営化が始まった。1997年に第15回共産党大会で決めた「国有経済の戦略的再編」という方針を受けて、民営化は大型国有企業にも及ぶようになった。改革開放当初の78年には工業生産に締める国有企業の割合は約80%であったが、改革開放と共にこの比率は下がり、現在は25%ぐらいにまで下がっている。多くの大型国有企業は、株式制改革を経て上場企業になったが、その発行済株数の三分の二を占める国有株と法人株は市中での流通が認められていないことがネックとなって、証券市場は期待される民営化の受け皿としての役割を果たしていない。幸い、2005年に本格化した非流通株改革により、ようやくこの問題は解決に向けて大きく前進しており、これをきっかけに大型国有企業の民営化が加速するだろう。すでに、中国建設銀行と中国銀行が香港上場を果たすなど、国有商業銀行も民営化に向けて動き出している。

社会主義から資本主義へ
 マルクスによれば、本来イギリスのような発達した工業国で労働者革命が起こり、社会主義国になる。しかし、中国はそうした段階を経ずに、生産性が低いまま社会主義になり、1949年からの30年間悪平等的な政策を採り、結果、経済発展は挫折した。そこで、鄧小平が復活後に社会主義の初級段階論を持ち出し、社会主義の実現には高い生産力が前提となるため、まず生産力を高めなければならない。だが、歴史を調べても私有財産と市場経済しかないので初級段階はこれでいくとした。しかし中国の現状は、労働者階級と資本者階級が同時に創出されるという原始資本主義の段階にある。そうであれば、目指すところは成熟した資本主義である。成熟した資本主義への条件を簡単にまとめれば、①人治から法治へ、②一党独裁から民主主義へ、③公有制から私有制へ、④効率一辺倒から公平重視へ、となる。

拡大する地域間格差
 中国の胡錦濤・温家宝政権では、2020年までに「全面的な小康社会」を建設することが目標となっている。孔子の時代から最も理想的な社会は大同社会だが、そこでは生産力の問題は解決済みであり、人々は争う必要がない。小康社会はそれに次ぐ2番めの理想的社会で、生産力の問題はまだ解決されておらず人々は争う。胡錦濤・温家宝政権になってから、国民の生活水準向上から置き去りにされている人々に関する問題意識が強まっている。格差は社会不安だけでなく、消費低迷にもつながる。資本家階級ができつつあり一部の高額商品は売れているが、農民の生活がよくならなければ、消費全体は盛り上がらない。輸出増大は、貿易摩擦も招く。
 こうした地域間の所得格差の是正には、三つの政策が重要ではないかと考える。一つ目は国内版の自由貿易協定、FTA。中国では省と省の間に色々な貿易障壁が残っており、自由に、モノ、ヒト、カネが流れていない。二番目は国内版の雁行形態。現在工業化の波に乗っている沿海地域も、いずれ土地、賃金が高くなれば、労働集約型産業はやっていけなくなる。その時、海外ではなく中国内陸部に工場を持っていく。三番目は国内版ODAで、日本の地方交付税制度の様な形で、豊かな地域から徴収した税金の一部を、遅れている地域に再配分する。
 第11次五カ年計画に掲げられた5つの調和には、この(1)都市と農村の発展の調和、(2)地域発展の調和に加え、(3)経済と社会の発展の調和、(4)人と自然の調和のとれた発展、(5)国内の発展と対外開放の調和、が挙げられている。これを達成するためには、改革を深化させることを通じて、公平と成長を促進する制度作りが欠かせない。

今後の中国の成長と台湾問題
 2050年の時点で、中国を巡る三大ニュースを振り返るとすれば、一番目は一党独裁の終焉、一番目を前提条件にした台湾との平和統一が達成されることが二番目に来て、三番目はアメリカを抜いてGDPが世界一になるという出来事が並ぶのではないかと考える。
 高成長と為替レートが強くなるという相乗効果で、一人当たりのGDPでアメリカを抜くのは私の生きている間は絶対無いでしょうが、中国の人口はアメリカの4~5倍位と考えれば、トータルでは2040年くらいで抜くという可能性は充分あるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部