第69回-1 中央ユーラシア調査会 「中央アジア出張報告:現地企業指導の現場から」社団法人 ロシアNIS貿易会 ロシアNIS経済研究所 調査役 輪島 実樹【2006/12/18】

日時:2006年12月18日

第69回-1 中央ユーラシア調査会
「中央アジア出張報告:現地企業指導の現場から」


社団法人 ロシアNIS貿易会 ロシアNIS経済研究所
調査役
輪島 実樹

輪島 実樹 私の所属しているロシアNIS貿易会では過去4年にわたり、中央アジア地域を対象に製造業育成のための支援事業を行っている。この11月、支援対象となる企業を選定する事前調査のため、カザフスタンへ赴いた。現地では6社をまわった。

1. (社)ロシアNIS貿易会による企業支援事業
 われわれが製造業育成を事業目的としているのは、それが中央アジア諸国共通の課題であるとの認識からだ。現在、中央アジアでは2つの格差が拡大している。1つは制度的格差、つまり市場化の度合いで、市場化に消極的なウズベキスタン・トルクメニスタンと、他の3カ国との差は既に著しく開いている。もう1つはいわゆる資源国とそれ以外の国の間の経済格差である。カザフスタンでは1人当たりGNI(国民総所得)は3000ドルに近いが、タジキスタンでは約10分の1の約300ドル台にすぎない。
 当会の中央アジア向け支援事業には現在2つのラインがあり、1つは政府開発援助(ODA)、もう1つは石油特別会計によるものだ。前者は主に非産油国、後者は産油国を対象とし、前者はウズベキスタン、キルギス、後者はカザフスタン、アゼルバイジャンに対して実施してきた。いずれも2年間を1クールとし、現地政府と協力して進める。まず、カウンターパートである現地政府機関と十分協議し、その国の経済基本政策に合う製造分野を選択する。推薦や公募により候補企業を集め、書類選考の後、事前調査により事業対象企業2社を選定する。今回のカザフスタン訪問は事前調査である。本日は、その出張報告に、事業実施国の中でカザフスタンと非常に対照的であったウズベキスタンの話しを交え、ご報告する。

2. ウズベキスタンでの事業結果
 ウズベキスタンでは現地政府との合意で、自動車部品製造と家電製造分野の企業を対象とすることになり、最終的にはタシケントで配電盤を製造している企業と、サマルカンドの冷蔵庫工場の2つを事業対象に選んだ。前者はソ連時代には発電所向けの配電盤をつくっていたが、連邦崩壊で売れなくなり、主力製品はトラクター用ケーブルになっていた。他にもブレーキランプ・カバー、プラスチックのおもちゃ、軍用のパイプベットなど、手持ちの機械でできるものを手当たり次第に製造、生き残りを図っている状況にあった。一方、後者の冷蔵庫工場は、最大年産能力25万台に設計されていたというまさにソ連型の大工場だったが、連邦解体後は巨大すぎる工場・設備に苦しんでいた。
 これら2社を対象にコンサル指導を実施、2年後の状況は対照的なものとなった。前者の配電盤工場は操業停止状態に陥ったが、後者の冷蔵庫工場は新たに外国から製造ラインを導入、新型冷蔵庫の生産を開始したのである。その過程で当方は工場の生産管理の一番基礎にあたる部分、効率良いライン配置の提言や5S等の指導を実施することができた。
 両者の勝因と敗因だが、配電盤工場の方の問題点は、主力製品が中間財だったことだと思う。納入先のトラクター工場が代金を払えなくなったことが、取引先を自由に選択出来ないウズベキスタンでは致命的だった。しかも政府に任命された“役人”である社長は、事業途中で姿を見せなくなり、さらに同社の株式の大半がロシア企業に売却されてしまった。これに対し後者の冷蔵庫工場の方は、製品が最終消費財であったため、自力でマーケティングをする余地があり、代金回収の可能性も高かった。また社長がウズベキスタンにしては珍しく“経営者”としての意識が高い人物で、国家から大型の発注を獲得するなどした。社長のキャラクターの違いも、両者の明暗をわけた大きなファクターであったと思う。
 政府の企業活動に対する管理・制約が極めて強いウズベキスタンでは、企業経営やマーケティングなどの指導は不可能なところがあるが、生産性向上や品質管理については可能で、十分支援出来る。企業の学習意欲は非常に高い。政府がひとたび企業活動を自由化すれば、成長の可能性は非常に大きいと思われるが、その見通しはたっていない。一方、ウズベキスタン政府に日本はドナーとして非常に重要視されているため、支援事業に対する政府の対応はよい。このようにウズベキスタンとは、われわれにとっては、大変なやりにくさとやりやすさが同居している国ということになる。

3. カザフスタン企業の活発な活動
 カザフスタンでは、支援分野は分野としては機械製造、特に石油産業関連機械ということで現地政府機関と合意した。今回、現地側から推薦された6企業を訪問したが、いずれも経営状態は素晴らしかった。
 たとえば南部のケンタウにある企業の変圧器工場。現在、カザフスタンではインフラ整備事業が盛んであるため、建設現場用の大型変圧器の需要は高いと言う。最大の悩みはロシア製品との競合であり、もう1つは、僻地にあるために人材を確保しにくいこと。本事業に対し、新人獲得のためのプログラムをつくってほしいと非常に理にかなった要望を述べた。
 またカスピ海岸、アクタウにある機械製作工場は、もとは油井ポンプや関連部品の製造をしていたというが、それでは外国企業やロシア企業にかなわないため、ポンプの改修、修理などサービス部門へ転換を図っていた。カザフスタンでは、石油産業に携わる外資系企業は、必要な資機材・サービスの一定割合を現地企業から調達するきまりがある。同社はそれを利用し、カスピ海底開発にサービスで参入しようという戦略をたてていた。カザフ企業には、この様に市場の動向・条件を見て柔軟に業種や製品を転換する能力が既にあるのだ。
 事前調査全体を通じての感想は、まずカザフスタンの場合、ウズベキスタンとは対照的に、政府が不熱心であること。一方、企業は非常に元気で活発に活動している。経営者たちが言うことも実に“まとも”というか、既にわれわれ西側の感覚に非常に近い。よい企業が育つ環境を生み出しているのは市場化の進展であり、制度的な自由さであろう。銀行・金融制度の発達により資金調達が比較的容易であること、景気のいいロシアと関係が強いことも有利に働いている。当方の支援事業も、これまでの国々とはかなり違った展開になるものと期待している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部