第1回 IISTアジア講演会 「グローバル経済戦略」経済産業省 通商政策局 国際経済課長 小林 利典【2006/05/16】

講演日時:2006年5月16日

第1回 IISTアジア講演会
「グローバル経済戦略」


経済産業省 通商政策局 国際経済課長
小林 利典

小林 利典■なぜ今、「グローバル経済戦略」なのか
 90年代後半以降わが国を取り巻く経済環境は変化し、「グローバル化」の示す意味も、多国間での高度にネットワーク化された国際分業体制を示す言葉に変化した。そして現在の東アジアは、国際分業ネットワーク体制や中国を筆頭としたアジア経済の台頭、そして、それに伴うアジア経済の世界市場への影響力の拡大といったそれぞれの事情が絡み合う構造となっている。

 21世紀に入ってからの様々な政府間のEPA、FTAといった経済的連携関係の強化は、企業努力や企業の取組によって生まれた東アジアの分業ネットワーク体制、マーケット形成に追随するかたちで整備されてきたと認識できる。 今後の日本の通商戦略を考えた場合、日本経済の成長を維持・拡大していくには、このグローバル活力をどのように活用するかが一つの観点となるだろう。もう一つ重要なのは、東アジアの中での日本の位置付けで、中国の経済的台頭の中で、日本が引き続きアドヴァンスを発揮するには何をすべきか、そして、存在感ある国となるために国際社会でどのような貢献をすべきなのかが、我々の出発点であり基本的な考え方である。

開催風景 以上のことから昨年の秋以降、「新経済成長戦略」として、産業競争力の向上、地域の活性化、中小企業活性化などの産業上の戦略と通商政策上の戦略としてこの「グローバル戦略」、それからエネルギーの戦略について議論し、策定してきた。そこで、戦略を考える視点として大きく分けると3つの視点がある。

 1つは、アジアとの共創である。現実的に進んできた東アジア経済統合を、法制度により効率的で成熟した市場経済圏とする。それをどのように作り、アジア全体を21世紀の世界の成長センターにしていくかである。さらに、日本がソフトパワーを活かし、海外から優れた資本や人材を引きつけ、より開かれた経済活動の拠点となり、技術だけでなく、文化、伝統など(日本ブランド)を海外に発信することである。

 3つめが、環境やエネルギー問題などグローバルな課題の解決に向けて、より戦略的なパートナーシップを構 築して貢献する、いわば世界とアジアの課題解決に向けた蝶番的な役割を担う視点である。そして、この観点から、地域統合の推進役を果たしてきた企業約300社から通商政策上の戦略には何が課題かということを探るべく、ヒアリングを行った。

■東アジア経済統合と日本のイニシアティブ
 東アジア経済統合が進む中、企業活力と日本のプレゼンスを良い意味で維持・拡大していくための1つがEPAの推進、そして、東アジアとの共創(日本の知恵・経験を体系化し、アジアと共有・進化する)である。例えば、日本の中小企業政策を体系化し、アジアでの標準戦略的なものとしてやっていくことを考えている。次に日本の投資家の声を組織し、ASEANに対して投資環境評価の改善を行うこと。3つ目は東アジア版OECD構想とODA戦略である。

 企業ヒアリングにおいて要望としてあげられたのが、企業のグローバル化に直接かかわるFTA, EPAなどの政策の行動計画の明確化であった。そのため工程表で明示をしようと現在作業中である。また、投資ビジネス環境の整備、個別にケース・バイ・ケースで対応し、国・市場別投資・ビジネス環境整備プランの策定によって産業界との情報共有の機能を強化しようと考えている。

 ソフトパワー(日本ブランドの向上)とハードパワー(産業競争力)の好循環実現には、イノベーション機能の強化としてR&D、研究開発環境の整備、機能強化が考えられる。また、知的財産保護に加え、海外での収益が日本にきちんと還流する仕組みも重要である。さらに、優秀な人材なり資本など外から受け入れ、日本からも出していくという双方向性が非常に重要であり、その意味で対内直接投資の促進が一つの柱となる。比較的注目した人材面では、優秀な留学生・研究生を招聘する構想を検討し、観光・集客サービスでは、日本ブランドの発信を重視し、イメージ戦略も含めて考える。また、地域戦略として、米国、EUとの関係、ロシア、GCC*諸国、発展途上国との関係を考慮すること、そして、グローバルな共通課題であるエネルギー、環境問題では、日本の世界トップレベルの技術とともに、制度の導入も含めアジアと世界の問題解決に貢献していくべきではないかと考える。 *GCC : 湾岸協力会議/Gulf Cooperation Council

■東アジアEPA構想
 EPA構想の背景には、05年以降のアジアのプレゼンスの高まりが上げられる。東アジア域内の貿易関係の結びつきは急速に進んでおり、域内の貿易依存度が高い東アジアにおいてEPA、FTAを積極的に結ぶことが重要である。現在ASEANを軸に、様々なEPA、FTA交渉が進み、最初のFTAが05年に中国とASEAN間で発効された。韓国とASEANのFTAは今年の半ばに発効する予定であるが、日本はサービス、投資のルール、知財のルールを含めた包括的なEPA交渉を来年の3月をめどに進めている。インド-ASEAN、豪州・ニュージーランド-ASEANのEPAも07年が合意目標である。日本とのEPA交渉はシンガポール、そして、マレーシアは調印・署名が終わった状態であり、タイとは基本合意調印・署名を残すのみである。フィリピンは合意に近づいており、インドネシア、ベトナムは交渉中である。また、EPAは07年には日本との交渉国が出揃う。

 そして、次に東アジア地域の広範な経済連携を実現するため、ASEANと日中韓、インド、豪州、ニュージーランドの16カ国での質の高いEPAの交渉入りを08年に目指す。その経済効果は、日本のGDPを5兆円押上げるとの試算もあるが、ASEAN+ONEなどだけではなく、地域全体を対象とした包括的なEPA締結は経済的メリットを増幅させる。それと同時に、東アジアに効率的で成熟した市場経済圏を確立しようとする日本の意志を示し、日本のポジションを示すという意味合いにおいても、この東アジアEPAは非常に大きな意味があろう。

 注意すべき点は、東アジアEPAに含めるべき要素として、中国先行の東アジア版FTA(自動車、家電製品を対象外)型のモデルではなく、デジタル家電・自動車などに連なる原材料分野を中心とした、国際機能分業をさらに進化させる貿易自由化であることが絶対条件であることだ。また、FTAには含まれない投資・知財などの分野でのルール整備も含め、取組みを進めることも重要である。そして、環境・省エネや産業人材育成などの経済協力を推進し、東アジアのバランスある発展と競争力ある産業基盤づくりを目指すことが大切である。

■東アジア版OECD構想
 東アジア版OECDは、東アジアワイド(ASEAN+日中韓+印、豪、NZ)のEPA推進で貿易・投資の自由化を図るだけでなく、域内の経済・社会にかかわる幅広い課題について研究・分析し、政策提言する統合推進の原動力となる機関を確立するという構想である。経済統合が効果的に進展していくためには、いろいろな意味のバインディングが必要であるが、現状をみると、東アジアでのEPAはある意味、非常に強いバインディングの仕組みをもつ、一方、政策フォーラム、ASEAN+3や閣僚会議などは、一種お祭り的な非常に緩やかなバインディングといえる。このように現在の東アジア地域には、両極端のバインディングしかない。現実に経済統合を進めていくには、中間のバインディングである政策協調のアプローチが必要である。そして、この政策協調のシステムに必要なものの1つは、政策協調の意思決定をする「政策フォーラム」である。また、2つ目にはこれをフィールドバックし、フォローアップする政策フォーラムを支える常設の事務局機能があげられる。3つめは、政策イシューに対し調査・分析し政策提言するシンクタンク的な機能である。

 OECDは、この3つの機能を持ち、戦後の先進国間の政策協調をするシステムとして非常に上手くいった例である。 東アジアについてみれば、政策の意思決定機能は、ASEAN+3の首脳会合、外相会議、経済大臣会合、東アジアサミットなどの政策フォーラムがある。2つめの政策フォーラムの常設機関としてはASEAN事務局が機能している。しかし、3つめのシンクタンク的な機能がこのエリアにない。このシンクタンク的な機能を日本がつくっていこうというのが東アジア版OECD構想である。現状では事務局とフォーラムだけなので、これにセンターをつくり、政策提言の形で協力を行い、これが上手くシンクロしていけば、機能として一体化し、このフォーラムが政策提言、あるいはフィードバックしていくこととなる。そうなれば東アジア版OECD的な機能になっていくのだと考えている。これはまだ先の話ではあるが、これらによって、東アジア経済統合と制度化を進めていくのが良いのではないかと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部