第3回 IISTアジア講演会 「中国・インドの躍進と日本の取り組み」(株)東芝 取締役 元駐インド大使 元駐中華人民共和国大使 早稲田大学大客員教授 谷野 作太郎【2006/07/18】

講演日時:2006年7月18日

第3回 IISTアジア講演会
「中国・インドの躍進と日本の取り組み」


(株)東芝 取締役 元駐インド大使 元駐中華人民共和国大使 早稲田大学大客員教授
谷野 作太郎

中国とインド
谷野 作太郎 近年、世界の市場、工場として目覚しく発展する中国と、ソフトウェア産業、医療面等において急速な発展がみられるインドが国際的注目を集めている。2003年に出版されたゴールドマン・サックスのレポートはGDPの大きさのみで分析したものではあるものの、50年後の世界でこの2つの大国はアメリカと並ぶ経済大国として国際経済の中核に存在することになるだろうと述べている。モノ造りに存在感を示す中国(チャイナ)とソフトウェア面で強いインド(インディア)を合わせて「チンディア」という造語があるように、国際経済においてこの2つの国は大きな影響を与えているといえる。

2.中国
開催風景 中国の優位点のひとつはビジネス界の人材がいずれも企業家精神に富み、若く勢いがあることだ。政界・官界においても若手が多い。その理由として文化大革命の影響のではないか(オールドとヤングの真ん中の一代が飛んだ)と思うが、経済界においても、例えば全国規模の量販店の経営に関わる某カンパニーのトップ達は皆30代。こういうことが中国では珍しいことではない。また、空港や高速道路といったインフラの整備もかなりのもので、空港などは機能面においても日本よりも進んでいる。
 他方、未熟な点をあげるとすれば、WTO加盟によって改善が進みつつあるものの、模造品が当たり前のように横行していることと、司法が強くない(三権分立がない)こと、言論が極度に制限されていることである。三権分立に関して言うと、中国では党が全ての物事を指導し決定するため、その結果全てが堂の指導一辺倒になってしまう。また、中国にはこれから、大国としてふさわしい自覚やマナーを持って欲しい。このことが知財の問題(ニセ物の横行)を解決することにもつながるだろう。
 中国は78年の改革・開放以降大きく変わったが、それに伴い影の部分も顕在化した。貧富の差、エネルギーの問題、環境問題などは日本の新聞でも取り上げられているところである。中でも、日本の後を追うように急速に進んでいる高齢化社会の到来、社会保障や年金、医療保険といった社会保障のシステムがまだまだ未整備なだけに深刻な問題である。このような改革の開放政策の影の部分への取り組みは現政権にとって大きな課題である。
 日中間の「歴史」の問題は①要は日本はあの不幸な一時期の「歴史」を歪曲したり、これに対し開き直ったりしないということ(その結果、国際社会が日本を見る目線はかえって下がるばかりである)、②他方、戦後の日本の歩みはまさに過去の「歴史」に対する真摯な反省にのっとったものである。このことを中国も韓国ももっと知る努力をしてもらいたいということである。首相の靖国参拝という一事をもって日中間において大切な政治のトップ同士の交流を氷漬けにしてしまった中国のやり方は大人気ない。第二次世界大戦後ドイツとフランスは、両国が戦後を共に歩んでいくために63年にエリゼ条約を締結した。これは両国最高政治レベルで署名されたものであり、条約では最高首脳は年に2回、外務大臣や軍事専門家や参謀総長は年に4回会うことなどが義務付けられている。こうした政府レベルの交流から民間は村レベルまでの幅広い交流が両国でなされ、青年交流などは毎年15万人の規模でやっている。一方、日本と中国は今年やっと千名余り高校生の交流(中国高校生の日本訪問)の予算が決まったばかりである。日中は戦後のドイツとフランスの関係からもっと多くを学ぶべきである。

3.インド
 インドの優位点は優秀な人材やIT産業(ソフト)や医療面においてみることができる。インドの優秀な人材はアメリカの大学でもプロフェッサー、弁護士といった職業についており、またシリコン・バレーでもエンジニアとして活躍している。また、インドには心臓手術で世界的に有名なアポロ病院があることからも伺えるように、そうした医療面の技術や製薬技術において高い水準を誇っている。最近話題となるのはITソフトウェアであるが、これが世界に通用する高いレベルであることは周知の事実である。日本でもいくつの企業がインドに若い技術者を派遣してソフトのプログラム開発技術を習得させているが、彼らは日本の大学で教えてくれなかったことを習得できたと言っている。さらに、インドの司法制度はレベルが高く、これもインドが誇れることであろう。特にインドの最高裁は”active judiciary”といって、政治や行政がさぼっているところをみつけだし指導している。
 他方、インドのウィーク・ポイントは随分よくなったとはいえ、まだまだ諸種過剰な規制がはびこっていることで、これが官僚をのさばらせインドの経済発展の速度を弱めている。現在インドは連立内閣ということに加えて、共産党に外からの閣外協力を仰いでいることから、例えば国営企業の株の放出を巡る対立があるように、自由化・規制緩和を通じての経済発展が思うようなスピードでいかない面がある。インドは91年から経済の自由化が始まり、これに伴う規制緩和や自由化によって以前よりは良くなってきたものの、こうした問題はまだいろいろと残っている。

4.対中、対インド、ビジネスの心得
 日本が対中、対インドのビジネスを展開する上でまだまだ不十分なところとして指摘されるのが事前調査、しっかりした契約書の作成、権限の委譲(本社から現地へ、日本人から中国人・インド人へ)ということある。国土の広い中国やインドではビジネスを展開する土地権について詳細な事前調査を行う必要がある。外資政策、ビジネス環境など、或いは地方によって違う消費者性向などを徹底的にリサーチすることが重要だ。現地の人々の権限の委譲や人事管理の場合、日本から来た人が一貫した方策もなく中途半端な権限を振り回すことによって、現地の優秀な人材がくさってしまうということが往々としてあるという。社会貢献はよくやっている。日本企業はもっとこの点を積極的にアピールする必要がある。
 インドは日本に対して大変好感を持っている。しかしそれがビジネスにおいて通用するとは限らない。貿易量をみても、日印貿易が50億ドルであるのに対してすでに中印貿易は150億ドルである。生活環境や衛生面だけではなく、社交性に富みおおらかなインドと、社交下手で細かいところばかりを気にして容易に物事が先に進まない日本とは、ビジネスカルチャーの面でも両極端である。このような両者がビジネスのカルチャーを合わせることは中々容易なことではないとすれば、少なくとも現場でもっとインド人に任せたらよい。中国人も、よく「問題は小さい」とか、「問題などない」と言う。インド人は「ノープレブレム!」が常用語。中国人やインド人から泣き言を聞くことはあまりない。日本としてもっと学んでよい点である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部