2006年度アジア特別講演会 「中国外交の新アプローチと米国の対アジア政策」アメリカン大学アジア研究所長・国際関係学部比較研究学科教授 趙全勝【2006/05/23】

講演日時:2006年05月23日、場所:(財)フォーリン・プレスセンター

2006年度アジア特別講演会
「中国外交の新アプローチと米国の対アジア政策」


アメリカン大学アジア研究所長・国際関係学部比較研究学科教授
趙全勝

趙全勝中国のアジア太平洋地域における外交政策
 現在、中国は国際的危機問題に対して新たなアプローチをとろうとしている。従来、アジア太平洋地域における中国の外交政策には、歴史に基づいたアプローチ(history embedded approach)と国益主導型のアプローチがあった。
歴史に基づいたアプローチは東アジアにおいて一触即発状態の危険地帯と看做されている北朝鮮の核問題と中台関係をみる上で重要である。なぜならば、近代以降中国が結ばざるを得なかった南京条約や下関条約、そして1950年代に朝鮮半島において勃発した朝鮮戦争といった歴史的事実が、北朝鮮の核問題や中台関係といった現在における国際的な対立のルーツであるからだ。さらに、中国の日本に対する政策や感情、例えば60年代の日米安保条約締結をめぐる敵対的な対日感情なども、中国が経てきた歴史と照らし合わせると理解を容易にする。このように、歴史に基づいたアプローチは現代の東アジア地域における国際的対立問題の根本原因を探ることができる。
開催風景 しかし、中国は次第に自国にとって最も戦略的な政治経済上の課題を重視するようになり、アプローチは国益主導型すなわち国益優先の外交政策へと代わっていった。70年代に中国は旧ソ連政府と米国政府によるトライアングル関係を築き、それに伴って中国にとっての日本は大国である旧ソ連と米国の間で仲介の役割を果たす国という位置づけへと変わっていった。さらに70年代後半に始まった鄧小平氏による改革開放路線も相俟って、中国はますます国益重視の外交路線を取り近代化を最優先させる立場をとった。その際にODA供与をする日本は中国の近代化を支援する重要な国であった。また、中国は近代化を促進する上で韓国や台湾に対しても同様のアプローチを行うようになった。韓国とは国交正常化を機に様々な条約が締結されるようになり、台湾とも平和的に統一したい姿勢を明確にするようになり中台関係は経済的には密接な相互依存関係に入っている。このように、対日、韓、台関係は以前の政策よりも懐柔的かつ融和的な路線になった。
以上のようないわば正の面がみえる国益中心のアプローチであるが、一方では負の側面が窺える。中国は国益を重視するようになるようにつれてナショナリズムが台頭し、特に主権に関わる問題について強硬路線を取るようになってきた。それは台湾独立に対して中国は断固阻止する立場を貫き、それは反国家分裂法の制定や武力行使によって明らかだ。また対日本では尖閣諸島問題や東シナ海におけるガス田・油田開発問題を抱えている。これらはいずれも国益中心のアプローチを取ったために現われた負の側面である。

中国の新しいアプローチ
 最近垣間見えるようになってきた新しいアプローチは中国が主要国とコー・マネジメント、すなわち共同管理体制をとろうとしていることである。理論的にこの共同管理体制を可能にしていくためにはまず次のコンセプトが揃っていることが必要である。一つはステーク・ホルダーのアプローチつまり各国の国益というものが共通であり、共通の利害を有する諸国が連合を形成することである。
中国は97年のアジア危機以降、徐々に二国間アプローチから多国間体制や多国間の取り決めを行うようになった。その理由は、経済近代化を成功させる上で地域の安定化が不可欠であることと、北朝鮮が核兵器保有国となった場合、地域の新たなる核開発競争になりかねないという中国の危惧によるものだ。もし北朝鮮が核を保有し続けるならば、日本も核の保有を再考せざるを得なくなるのではないかという中国にとって望ましからぬ状況が出現することを懸念があった。また朝鮮半島だけではなく台湾問題を解決する上でもアメリカの協力が中国にとって非常に重要であると中国は考え始めた。中国がマイナスのイメージである中国脅威論を払拭し国際的イメージをプラスに転じるには、六カ国協議といった場で中国が責任のある国というイメージを強めることが必要だ。アメリカだけではなく、日本、ロシア、韓国とも多国間で管理ができるような問題については対応しようとする中国の新たな姿勢がでてきている。

日本における中国の新外交と米国の対アジア政策の意味
 中国がコー・マネジメントアプローチを追及していくと、この地域における日本の影響力や役割は相対的に小さくなっていくのではないかという懸念が出てきている。かつてのような中・米・日三国関係ではなく、ロシアや東南アジア、南アジアを含めた周辺諸国と米国との関係が中国にとってより重要であり、日本はその中の一つに過ぎない。つまり、中国から見た日本は以前より重要性が薄まっており、外交政策上の位置付けは格下げになっているのだ。これは日本にとって非常に深刻な問題である。日本が自国を中国にとって重要な意味を持たせるには、もっと戦略的な構想を持ち、共同単利体制の中でも受身の姿勢ではなく日本が果たしうる国際的な役割の重要性を提示する必要がある。中国から見ても国際社会から見ても日本の役割が弱体化することは危険性を孕んでいる。しかし、日本が素早く対応し戦略的思考をもち明確なビジョンを示すならば、国際社会の舞台おいて日本はもっと重要な役割および機能を果たすことができ、中国のコー・マネジメントアプローチにおいても日本が重要な一つの国として認識される立場となるのは可能である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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