平成19年度 第4回 アジア研究会 ●「グローバルR&Dマネジメント:先進国における通説のアジア新興国における適用性」慶応義塾大学大学院教授 浅川 和宏、●「資生堂の中国における研究開発」(株)資生堂 品質保証センター学術室 室長 中山 泰一【2007/11/22】

日時:2007年11月22日

テーマ「日本企業のアジア事業戦略」-アジア・イノベーション・システムとR&D-

「アジアにおける研究開発の動向とその意義:日本企業と政府への示唆」

平成19年度 第4回 アジア研究会
「グローバルR&Dマネジメント:先進国における通説のアジア新興国における適用性」


慶応義塾大学大学院教授
浅川 和宏

浅川 和宏 研究開発のグローバリゼーションに関する通説、一般的な考え方の数十年の蓄積に関心を持ってきたが、最近アジアの現象が顕在化し、これらの考え方が当てはまらないことを強く認識している。したがって、通説とアジアの対比を軸にお話したい。
 研究開発の国際化の背景には、技術の国際化や知識・コンピテンスの国際的な流動化、マーケットの国際化、競争のグローバル化などがあるが、完全な世界標準化はしていない。標準化が進む一方、地域化がある。国際化が進むのは、マーケット適応、そこにおける研究者、技術、知識、ノウハウへのアクセス、グローバル・コンピタンスの確立があるためだ。
 アジアの新興地域などでは、欧米日に見られる集積の前提が崩れる。通説ではリード・マーケットに行けば、サプライヤーは優秀でローカルフォローからイノベーション、R&Dが可能、市場もあるとされるが、これがどうも機能しない。そしてイノベーションの阻害要因も、先進国と同様のことが当てはまるのはごく一部だ。
 イノベーションにおけるアジア的問題点としては、▽技術的専門性や資金面の不足、▽リード・マーケットが遠方かもしくは小規模、▽国の産業政策の重点がキャッチアップ、▽イノベーション回避型組織文化、▽見えざる価値に対する考え方、などが挙げられる。これらは研究開発のグローバリゼーションに関して先進国、米欧日で研究開発の国際展開をした場合に積み上げられたものだ。しかし、現実に照らし合わせると逆だということがある。
 例えばR&Dの投資決定に関する通説には、▽コストと便益を慎重に検討したうえで漸進的に行う、▽知的財産権(IPR)不整備国は避ける、▽投資先はそのロケーションの現在までの実績、評価が大きな基準、などがある。これまでの米欧日のR&D投資のエリアを見れば、もっぱら実績中心だった。しかし中国、インドの場合はどうも、リスクを上回るメリットを評価する論調がある。
 このほか、自律・統制のバランス、オートノミーとコントロールの関係も重要だ。自律・統制に関しては、目的に応じてバランスをとることができるが、先進国におけるバランスとは異なるようだ。もう1つは固定観念と実態で、アジアはIPRインフラが遅れリスクがあるからダメ、海外が教師でインド、中国は生徒だ、中国は国際標準に無関心だ、R&D投資は現地市場、対現地市場向けでしか役立たないなどいわれるが、そのような状況になっていないことがわかってきた。盲目的に先進国流のR&Dマネジメントに関する通説を押し付けても、うまくいかない。また後発組から真摯に学ぶ姿勢が重要だが、これはとくに日本が苦手とする部分だ。日本の場合、グローバルR&Dに関してはアジアから学ぶことへのバリアが非常に高いが、ここは大きな問題だと思う。

「資生堂の中国における研究開発」


(株)資生堂 品質保証センター学術室 室長
中山 泰一

中山 泰一 化粧品の研究開発では、お客さまが求める機能と感性を両立させる必要がある。資生堂は東洋人の肌研究で長年の蓄積があるので、中国や日本の技術を培って品質の信頼を得ている。
 中国における研究施設設立の目的だが、1つは中国事業拡大に伴う現地事業支援だ。これは現地でなくてはできないこと、中国の人がよいと感じる使用感、そして現地の気候に合わせた商品開発ということだ。そして生産現場が中国にあるので、研究と生産を近づけるという意味での商品開発のスピードアップがある。さらに資生堂の化粧品の場合、多くの原料を日本から輸出している状況があることから、タイムラグやカントリーリスクの低減を目的とした中国産原料の探索・開発も主要な活動である。またもうひとつの目的は、中国特有の文化資産である中医学の研究とその研究成果のグローバル事業への活用である。
 中国事業への貢献では、1つは商品開発の機能、生産部門、販売部門への支援、そしてお客様センターへの支援機能、薬事、特許、学術の機能を持つ。商品開発では処方開発だけでなく、お客さま研究や皮膚科学、現地の原料開発、製品の官能評価も必要になる。そしてグローバルな事業への貢献では、中医学研究、それに関する生薬素材の開発、中国市場の商品情報が必要で、そのような機能を持つ研究所を立ち上げた。具体的にはお客さま研究から始め、中国の方の皮膚や化粧の調査、徹底的な嗜好性研究から行い、それを元に商品企画、さらに中国の原料や仕様、基準に基づいて製品開発を行った。
 化粧品会社の研究開発施設を設立するに際して検討すべきポイントは、(1)設立場所、(2)設立形態、(3)運営面になると思う。設立場所は一義的には、北京、上海のどちらかだが、化粧品原料のメーカーの40%は広州にあり、広州という選択も一理ある。(2)の設立形態では、独資にするか合弁にするかというポイントがあり、資生堂は独資だ。そして一番頭を悩ませてきたのは、(3)の運用面だ。法規制についていうと、各種許認可の取得、法規制への柔軟な対応があり、とくに中国の場合、整備途上の法規が多いことと、運用上の曖昧さが多いということがある。さらに、人材確保や税制の問題もある。
 人材の確保については、日本や資生堂に関心を持つ人材を優先的に採っている。そして研究員を辞めさせない対策、研究員が辞めてもよい準備という2つの観点からの対応が重要になる。このほかバックアップ要員の確保、情報セキュリティの強化などがポイントになる。機能性と嗜好性の両面を有する化粧品研究では、お客さま研究が不可欠だ。また現地の研究機関との関係性確立は重要で、運営にあたっては中国の人材確保・労務管理がポイントになる。さらに文化の違いを理解しないことによるミスは、避けなければいけない。

【コメント】
松尾 隆之・高圧ガス保安協会理事/前 産業技術総合研究所国際部門長:

松尾 隆之 各国のイノベーションシステムの強みや弱みについての客観的国際比較はOECDのデータ(STI Scoreboard等)や関連作業が参考になるが、R&D国際化の各国・地域モデルとして一般化するのは難しい。むしろ研究機関・研究者にとってグローバルな競争の中で重要な戦略は、限られた資源等を自らのコアコンピタンスに集中し自らの能力により磨きをかけるとともに、相互補完的に相乗効果を発揮できうる(欧米のみならずアジア・BRICS含め有能な)相手と如何に連携していくか、ということである。また、分野別やR&Dの発展段階(基礎から製品化・市場化まで)により「競争と協調」の連携戦略は自ずと異なってくる。技術融合化のブレークスルーが求められ、知識経済社会に向けた競争が激化する中で、大學・研究機関や企業も、より一層、異分野を含め国境を越えた知的ネットワークの連携を図り、アジアを含め優秀な人材を世界から引きつけていくことが重要になると思われる(国際的人材ハブ化)。知財・特許についても、従来のプロパテント指向を越えて、グローバルな市場を睨んだイノベーション指向の戦略が重要になってくるのではないか。グローバル特許、プロイノベーション指向(Technology Diffusion)の研究目的適用除外の在り方や関連知財統合化マネジメントやクロスボーダー特許含め国境を越えて知財をシェア(相互補完)していく連携も関係する。また、相互補完的国際連携のためには、各主体の国際的な研究セキュリテイのガバナンス強化やきめ細かな国際標準化戦略(R&D段階から市場化を睨み、日欧アジアどのように合従連合していくか)も重要である。とくにアジアの環境エネルギーパートナーシップ含め、誰かがキーマンとなって異分野含め技術融合や技術とグローバル市場の連携役、国際的なValue Chainの合従連携を進めていくことが重要だと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部