第71回 中央ユーラシア調査会 「現代アジアを読む」拓殖大学 学長 渡辺 利夫【2007/02/07】

日時:2007年2月7日

第71回 中央ユーラシア調査会
「現代アジアを読む」


拓殖大学
学長
渡辺 利夫

1. なぜ「普通の国」同士の関係になれないのか-極東アジアの不可思議
渡辺 利夫 1965年に日韓基本条約が締結され、日韓の懸案は完全かつ最終的な形で決着したことになっていたはずだ。中国との間でも72年に日中共同声明が出され、過去の決着は終わったはずである。そうであれば日韓も日中もごく普通の関係になってもよいと誰しも想像する訳だが、実際はそうでない。時間の経過と共に、ますますいがみ合いの度合いが強まっている。これは一体どういうことか。一言で言えば反日だが、両国には反日を構造化させなければ生き延びていけないような要因があるのではないか。
 韓国については率直に言って、反日姿勢が変わることをあまり期待しない方がよいと思う。朝鮮半島は分断され、南北対立の最前線に位置する変則的な形で国家形成を進めてきた。しかし冷戦崩壊と共に、韓国民は自分たちの国家の正統性に対し、胡乱な目を向け始めた。そして国家を超えるものとして、「血族共同体」の中に自分たちのアイデンティティを求める志向性を強めた。
 ロシア、中国、日本という大国に囲まれ、海洋勢力と大陸勢力がせめぎ合う地政的空間の中で、韓国民は生きてきた。また韓国では、父子関係を軸に血族を縦に継承していく原理が極めて強い。この家系的構図が国家にまで拡大されている。したがって「外勢」に民権が脅かされれば、韓国ほど強い反発をする国は珍しいのではないか。これを「反外勢ナショナリズム」と言っている。この「反外性ナショナリズム」は冷戦下では封じ込められ、冷戦崩壊と共に噴き出した。「反外勢」の内実は親北朝鮮で、同じ「血族ナショナリズム」で北と南に分けられたのだから統一しようということだ。盧武鉉氏の胸中にはいつも、統一という心理がうごめいている。
 この親北がひるがえって反米、反日となる。韓国では2004年に「反民族行為真相糾明特別法」が、超党派議員の共同提案により成立した。これは日本統治時代の対日協力者を探り出し、糾弾しようというものだ。反日もついにここまで来たか、と思う。日韓善隣を自己目的にした外交は成果を収めず、粛々と日本の国益を主張していくより他にないのではないかと思う。

2. 反日愛国主義路線の呪縛-日中関係
 私の中国との付き合いは20年間ほどになるが、初めの10年は温かいものを感じていた。しかし後の10年は「何か変だ」と思い続けている。この20年間の真ん中は95年にあたり、私は北京に長期間滞在したが、反日的なセンチメントが朝野に満ちて不気味な感じを与えられ続けた。中国共産党はその前年に、「愛国主義教育実施綱要」を提示していた。中国で愛国と言った場合、多分に反日を指す。中国共産党のアイデンティティの淵源が、抗日戦争勝利があるからだ。反日の社会的雰囲気を醸成するために、愛国主義教育を展開した。南京の虐殺記念館や盧溝橋近くにある中国人民抗日戦争記念館のようなものを中国では愛国主義教育基地と呼び、全国に400数カ所あるという。
 どうしてこのような愛国主義的教育をするのか。89年に北京で天安門事件が起き、共産党の権威、統治の力は明らかに低いものになった。さらに冷戦構造が崩れてソ連が消滅し、ソ連共産党も瓦解した。鄧小平氏を中心とする革命第二世代は、執権の中枢にいるのは不可能と考え、江沢民氏を上海から連れてきた。この頃の中国ではすでに市場経済がフル・スイングしており、求心力はなかった。その求心力を強めるにはどうすればよいかと悩み、江沢民氏は反日という手段に行き着いたのだろう。
 日中共同声明の際の日中政府間交渉では、歴史認識問題は出ていない。したがって歴史認識問題とは、後の時代になってつくられたのだと思う。反日的センチメントは中国人民の心に根付いており、それが事を厄介にしている。なぜ人民の心に根づいてしまったかという解釈は難しいが、おそらく中国社会に社会的不満層が膨大に出現し、その不満がある臨界点を迎えているためではないか。2004年の都市住民の年間所得は9422元であった一方で、農民の年間所得は2976元に留まり、格差は大きい。また農村から都市へ出稼ぎにくる多数の「民工」が1億人を超える規模でおり、最近は家族を帯同した都市移動が多いが、彼らは農民戸籍のままで年にやってきたわけであるから、都市戸籍の人々が享受するサービスを受けられない。都市社会に就業者の二層構造が生まれ、固定化されつつある。胡錦濤氏の時代にも中国の対日姿勢が変わらなかったのは、江沢民時代の反日政策の呪縛に縛られ、これを解くことができなかったからだと思う。反日的なセンチメントをつくり出しているのが中国社会に充満する不満だとすれば、胡錦濤政権になってもこれを解消できると楽観的に考えない方がよいだろう。
 またチャイナ・リスクに関して言えば、中国における投資増加率の過加熱は、なかなか収まらない。これはどうして収まらないかと言うと、キーワードは地方だ。中国には31の一級行政単位があるが、地方は中央の命令に聴く耳を持たない。過加熱に耐えかねて、北京五輪後あたりには中国が非常に厄介な事態に陥らないとも限らない。
 チャイナ・リスクという議論に若干関係があるかもしれないが、中国の長期的成長に対する楽観的見通しは危険だということが、人口論的観点からも言える。国連の中位推計によれば中国の合計特殊出生率は1.85で収束すると見られ、2030年ごろに14億5000万人で最大値となり、以降、減少期に入る。少子高齢化社会の負担に中国が耐えられるかどうか、ということも問題になる。中国経済の成長潜在力に対する楽観的な見通しが一般的にあるが、そうも言えないという1つの別のアングルを提供してみた次第だ。

3.インドの可能性-もう1つの経済大国の出現か
 昨年9月、10数年ぶりにインドへ行ってきた。ニューデリー郊外ではきらびやかなショッピング・モールを見かけ、周囲には瀟洒なマンションが建設されている。カルカッタ、ボンベイ、バンガロールなどでもそのような風景をよく目にした。インドの高成長の原因は、やはり中国と同様に外資が非常な規模で導入したことだと思う。またインドが民主主義政体の下で高成長を保ち大国になっていくことは、地域の安定性にとっても重要なことであるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部