第81回-2 中央ユーラシア調査会 「最近の中央アジアにおいて注目されるいくつかの事柄」Japan-World Trends代表、元ウズベキスタン大使 河東 哲夫【2007/11/14】

日時:2007年11月14日

第81回-2 中央ユーラシア調査会
「最近の中央アジアにおいて注目されるいくつかの事柄」


Japan-World Trends代表、元ウズベキスタン大使
河東 哲夫

1. 中央アジア諸国にみられる専制性の強化
河東 哲夫     中央アジアでは、専制性強化がみられる。ウズベキスタンでは11月6日に自由民主党の大会があり、カリモフ大統領を大統領選に担ぎ出す決定がなされた。大統領選は12月23日で有力な対抗候補はおらず、憲法で三選が禁じられているものの、カリモフ大統領が三選されるだろう。カザフスタンでは5月に大統領の娘の夫、アリエフが、大統領になる野心をあらわにし、ナザルバエフ大統領によってオーストリアの大使として追放された。さらにナザルバエフ大統領は5月末、議会に乗り込み、1日で憲法を変えて、自分だけは大統領を終身務めてもよいことにした。8月には総選挙があり、与党1党が議席を全て占める結果となった。
 キルギスではバキーエフ大統領が、昨年末大統領の権限を弱めるために行われた憲法改正を、最高裁判所、憲法裁判所を使って覆した。そして10月21日には、自らつくった新しい憲法改正案を国民投票にかけ、勝利した。そして新しい憲法に従って「議会を解散する」と宣言した。これはかなり超法規的な措置といわれているが、議会の総選挙が近く行われる。タジキスタンについては昨年、大統領選が行われ、ラフモノフが再選された。彼は今年、ロシア的なものを除去しようとして自ら改名し、ラフモンとなった。大統領選の前に彼は、かなり野党を抑圧して力をなくさせた。現在は、ラフモン大統領に対する個人崇拝的な風潮が高まっているともいわれる。
 トルクメニスタンでは昨年(2006年)12月、ニアゾフ前大統領が心臓病で急死したとされ、2月にはベルディモハメドフが大統領に選ばれた。ニアゾフ前大統領の下で警護局長を務めたレジェーポフが後見人として全てを支配していると思われていたが、突然レジェーポフは逮捕された。これについては、一緒に商売をしていたニアゾフ前大統領の息子に裏切られたためといわれる。その後、内政は揺れておらず、ベルディモハメドフには力があるのだろう。

2. 大規模な出稼ぎによる送金と対外借り入れ
 中央アジア、ロシアは、マーシャル・プランのような思いがけない経済的な恩恵を受けている段階にあると思う。イラク戦争を契機に石油価格が一気に上昇し、湾岸諸国が潤っただけでなく、ロシアやロシアを通じて中央アジア諸国も潤った。しかしそのバブルが現在、はじけつつある。
 もう1つ中央アジアのブームだが、ウズベキスタンなどには、ロシア、カザフスタン等への出稼ぎ者がかなりの規模の送金を行っている。そしてカザフスタン、ロシアについては、対外借り入れがすごい。国内の金融機関が整備されていないため、国内の資金が有利な運用先を求めて外国に流出するので、国内で必要な長期資金は外国、とくにユーロ市場から借り入れてくる。短期で借りて、国内では高利で長期、貸している。また最近は、一部の国でインフレが激しくなっており、バブル崩壊の一歩手前にある。

3. アフガニスタンからの脅威増大、安保でのロシアへの傾斜
 アフガニスタンからの脅威の増大も伺え、これが中央アジアをロシアの方へ傾かせている。安全保障が脅かされても、中央アジア諸国は米国に依存するとレジームチェンジをされると思い込んでいるので、ロシアに傾斜していく。具体的な現れは、CSTO(集団安全保障条約機構)というワルシャワ条約機構の後身が10月中旬に首脳会議を開き、CSTO平和維持軍をつくることを決めたことだ。そして、「緊急事態委員会」もつくられている。
 もう1つ安全保障面で面白いのは、中国が煮え切らないことだ。8月には、7000人規模の上海協力機構(SCO)の共同軍事演習があった。これに関しては、ロシアがCSTOとの共同軍事演習にしてはどうかと1年前からいっている。にもかかわらず、共同軍事演習は実現せず、これはおそらく中国が抵抗したためだ。中国はアメリカに対する経済の依存度がロシアよりはるかに大きく、アメリカを怒らせるのは怖い。またアメリカも中央アジアでは、ウズベキスタンを失ってからカザフスタンに中心を置いているが、総体的戦略に欠ける。最近では、米国とトルクメニスタンとの関係進展が注目される。
 中央アジア諸国は安保面でロシアへの傾斜がみられるが、他の面では完全にロシアに傾斜するのではなく、大国を天秤にかけている。一番目立つのが、トルクメニスタンだ。ベルディモハメドフは至るところで天然ガスのパイプラインを引くことを約束し、どうなるのかと思う。またタジキスタンには、外国の援助が集まっているようだ。ウズベキスタンと比べて人権問題が少ないと思われており、地政学上も非常に重要なためだ。

4. マルチ面での動きとカザフ、ロシア経済の現状
 CISの首脳会議が10月初めに行われたが、私の印象では盛り上がりに欠けた。そして同時期に行われたCSTO会議だが、これは参加国がCISより少なく、ワルシャワ条約機構には到底及ばない。しかしここでは平和維持軍創設文書に署名し、緊急事態委員会設立文書の署名もあった。上海協力機構に関して中国は、中央アジアでの中国のプレゼンスは安全保障に及ばなくてもよいという姿勢を示してきた。中国としては新彊地方の向こうの中央アジアが政治的に安定すれば十分で、そこがロシアに治められていても、アメリカの影響下に入れられてしまうよりはましという感じだ。
 カザフスタンは外国から金を借りて、消費者・不動産ローンで経済を膨らましている。ロシアも現在、そのような構図にある。カザフスタンでは現在、累積の民間対外債務が850億ドルで、GDPにほぼ等しい。貿易収支はまだ黒字だが、輸入が毎年50%増えており、来年50%増えれば今年の輸出額を超えて貿易黒字も赤字になる可能性がある。サブプライムでユーロ市場における利子率が高くなり、カザフの銀行は借りづらくなったため、資本の流入が止まってバブルが崩壊、9月初旬には不動産価格が30%下落した。同時に世界穀物価格等のあおりでインフレが亢進して、9月には2.2%物価が上昇した。
 ロシアでも9月に食料品価格が急激に上がり、政府は食品会社と協議し、1月末までの主な食料品価格の値上げを10%以内に収めるという協定に署名した。10月にはマシモフ首相がズプコフ首相に電話し、食料品価格の上昇を「調整」したともいわれる。関税同盟ではないが、価格同盟、CIS価格同盟で、計画経済の復活になりかねない。利権が絡むのでおそらくそうならないが、そのような状況だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部