第82回-1 中央ユーラシア調査会 「中央アジア地域経済協力の10年/15周年を迎えたラフモノフ政権」元アジア開発銀行タジキスタン事務所駐在代表 本村 和子【2007/12/03】

日時:2007年12月3日

第82回-1 中央ユーラシア調査会
「中央アジア地域経済協力の10年/15周年を迎えたラフモノフ政権」


元アジア開発銀行タジキスタン事務所駐在代表
本村 和子

1. 中央アジア地域経済協力の10年
本村 和子     10月末から3週間ほどタジキスタンを訪れた。ちょうど11月はじめに、今年はドゥシャンベでADB(アジア開発銀行)のCAREC(中央アジア地域経済協力: ADB事業のひとつ)大臣級会合が開かれたのでそれにも参加し、近年のCARECの活動が活発になっていることを実感できた。CARECは1997年にスタートした。当初のメンバーは、カザフスタン、キルギス共和国、ウズベキスタンの中央アジア3カ国と中国の新疆ウイグル自治区、モンゴルであったが、他の中央アジア諸国もADBに加盟後、CARECに参加した。タジキスタンはADBに1998年に加盟、1999年にはアゼルバイジャンが、また2000年にはトルクメニスタンが加盟したが、トルクメニスタンは地域経済協力に拒否反応があり、正式メンバーにならなかったため、現在でもオブザーバーの資格である。さらに2001年にADBに復帰したアフガニスタンがメンバーに加わったことで、CARECの活動はさらに充実した。会議にはメンバー国以外でも、中央アジア地域協力に関心のある諸国の参加が増えている。国際機関では、UNDP(国連開発計画)、IMF(国際通貨基金)、EBRD(欧州復興開発銀行)、世界銀行、イスラム復興開発銀行が参加し、またNGOも加わっている。
 CARECの活動は中央アジアと周辺諸国の地域経済開発協力を促進することが目的で、対象とする分野は運輸・貿易とエネルギーである。
 今回の大臣レベル会合の中心議題は2つあった。その1つは「運輸・貿易促進戦略」の採択である。同戦略では、中央アジアをめぐる国際輸送網を6つの路線で優先的に整備するために、今後10年で200億ドルの投資事業が計画されている。6つの輸送路とはいずれも中央アジアを通って1つはヨーロッパからカスピ海の北を通り中国・極東へ抜けるルート、2番目は地中海からカスピ海の南を通り東アジアへ抜けるルート、3番目はロシアから南下して中東と南アジアへ抜けるルート、4番目はロシアと新疆ウイグル自治区を結ぶルート、5番目は東アジアと中東・南アジアを結ぶルート、6番目はヨーロッパと中東・南アジアを結ぶルートである。もう1つ合意されたのは、CAREC研究所の設立である。目的は調査研究とトレーニング、情報交換と対話で、当面はCAREC事務局に担当者を置きバーチャルに活動、3年後にまた活動状況を検討して、どう運営するか決めることになっている。その他の主な決定事項は、デベロップメント・パートナーズ・フォーラムを年1回開くこと、そしてCARECメンバーにロシアとトルクメニスタンを加えるよう働きかけることなどであった。
 エネルギーセクターについては関係国の利害調整が難しいため、いまだ戦略が合意されるに至っていないが、合意に向けて作業を進めることが今回の会議で決まった。また2018年までにCAREC加盟国すべてのWTO(世界貿易機関)加盟を目指すこととなった。
 CARECの活動は、開始から10年が経過した。当初は中央アジアの政治・経済はともに不安定で、地域経済協力がどのように展開できるか見通しを立てることは難しかった。しかしどの国でも状況が改善され、地域経済協力の重要性が認識されるようになり、今ではCARECが地域の安定と協力を促進する一つの場となっている。

2. 15周年を迎えたラフモノフ政権
 タジキスタンでは5年にわたる内戦後、3年間の暫定和平期間の終わった2000年以降、経済復興が本格化し、2002-05年には貧困削減戦略(PRS)が旧ソ連の共和国の中で最初に実施された。2002年以降は治安も良くなったため二国間開発支援も活発になった。1990年代後半からIMF、世界銀行の途上国への開発援助戦略が大きく変化したことも、タジキスタンの復興支援にプラスになった。
 タジキスタンの成長率はこの10年間、年平均7%を上回ったが、この先3年間も年間7%前後の成長が予想されている。しかし1人当たりGDPは2006年にやっと1人1日1ドルというレベルになったにすぎないため、さらに本格的な経済開発を進めるにあたり、2006年には「国家開発戦略」が策定され、国際支援も強化された。着実な経済復興、活発な国際支援を背景にラフモノフ大統領は昨年11月の選挙で圧勝した。また国際支援にロシアや中国、イラン、インドなどの新興諸国が加わり、2006年には中国から総額10億ドルという、タジキスタンにとっては巨額の大規模借款が導入された。これに先立ち、IMFはタジキスタン向け借款の棒引きを済ませていたため、どう対応するか注目されたが、大きな反発はなかった。
 タジキスタンの優先課題は高成長を持続し、生活水準向上を急ぐことである。同時に金融市場の整備や医療・教育・社会保障の充実も進める必要がある。何をするにしても国内の資金には余裕がないので、今後も国際支援をうまく利用していかなければいけない。投資事業の実施は、その返済が懸念材料ではあるが、今のところは将来の展望を明るくする要素となっている。
 現在、タジキスタン政府が緊急に解決を迫られている課題は、綿花債務問題である。綿花生産に当たっては、まず農家が融資を受け、種や肥料を買い、次の収穫の後で借り入れ分を返済するというシステムがある。その過程ではこれまで、地元の仲介業者が綿花生産農家と金融業者や種子・肥料の買い付け業者との間を仲介していた。しかし2000年以降、農家の債務が膨らんでいることが問題となったため、ADBが2002年ごろから債務処理支援のための実態調査にかかった。その債務の性格上、当初これはプライベートセクターの問題と思われていたが、いまや債務総額が4億ドルを越す規模となり、政府も独自に対応できない状態となったため、ADBはプログラム・ローンによってリスケジュールを支援する準備を進め、政府とその調整に当たっていた。その最終過程で、実は中央銀行が中間業者の行う借り入れに保証を出していたという、IMFが厳しく禁止していたことが陰で行われていたということが判明したのであった。これによって現在、綿花債務問題解決にどう協力するか、またタジキスタン支援をどのように継続するかが国際機関や支援関係国の懸案となっている。政府にとっては、来春の作付けに必要な資金調達も喫緊の課題である。IMFの対応が注目されるが、いずれにしてもタジキスタンは今後少なくとも3-5年は厳しいマクロ経済構造調整を迫られることになろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部