第82回-2 中央ユーラシア調査会 「バキエフ大統領訪日に関係して」国連大学長上級顧問/中央アジア・コーカサス研究所長 田中 哲二【2007/12/03】

日時:2007年12月3日

第82回-2 中央ユーラシア調査会
「バキエフ大統領訪日に関係して」


国連大学長上級顧問/中央アジア・コーカサス研究所長
田中 哲二

1.「中央アジア+日本」支持をアピール
田中 哲二     キルギスの第2代バキエフ大統領が初来日したが、大統領の訪日に合わせていろいろな話し合いが進み、驚くようなプロジェクトが立ち上げられたという感じはない。基本的には、初代アカエフ大統領が3回日本に呼ばれおり、2代目の大統領が一度も来日していなかったので他の中央アジア諸国の大統領の訪日の順番から言っても初の招請をしたということのようだ。バキエフ氏は滞日中、公式には「中央アジア+日本」の対話路線を支持し、その枠内で協力してやっていきたいと盛んに発言していた。また日本からのODA(政府開発援助)については、キルギス側の対外累積債務の危機的状況から、あまり多くは望めないことは十分理解しており、むしろ民間経済交流をもっと活発化させたいといろいろな会合やスピーチで言っていた。またなかなか成り立たなかったのだが、ロシア東欧貿易会のレベルで日本の経済人(商社のトップレベル)との会合をあえて持ったり、事前に大統領室経済顧問を派遣して投資セミナーを開催し、大統領自らキルギスで民間投資を受け入れる体制が整ったことを盛んにアピールし、「日本からぜひ投資してほしい」と繰り返していた。

2. 難しい国内での安定性維持
 キルギスの政治面をみると、ご承知のように、米同時多発テロ事件(9.11)以降、米軍を中心とする西側の軍隊が駐留を続ける一方、首都を挟んだ反対側には実体はロシア空軍であるCIS防衛軍が併存している。結果的にみると小国の弱い立場を逆手にとって米・ロ両軍を国的に併存させる事によりバランスを取り、得るものは得ているという状況を出現させている。上海協力機構(CSCO)の構成国でもウズベキスタンやロシア、中国は「もう米国に中央アジアにいてもらう必要がない」とあからさまにいうが、キルギスでは暗黙視に、「米国にいてもらっても結構」という姿勢を示している。現実に米国の軍隊の駐留は、空港使用料など経済面で大きな意味を持っているということである。中国、ロシアという域内大国と大きな対立が生じない限り、積極的な発言をせずに、米軍の駐留を延長していければよいという考え方だと思う。
 さらに、元々クーデターによって前大統領を追い落としたバキエフ政権なので、その安定性がここへ来て確保されたのかどうか気になる点だが、なかなか難しい状態が続いているという印象を受けた。10月21日に新憲法草案の国民投票が行われ、大統領、政府側の提示した草案が一応可決された。今回の大統領スピーチによれば、76%の国民が新しい憲法草案を支持しているという。別な席では6割強が支持したという言い方もしているが、こちらは投票権を持っている国民の80%が投票所に行き、うち約80%が憲法草案に賛成した。したがって0.8×0.8=0.64で、国民の6割強が賛成したということになるらしい。そのような意味では事前に、野党にある程度妥協した形を整えた新憲法草案が支持されたということだ。
 しかし今、日々キルギスから来る情報をみると、閣僚の任命替えを頻繁に実施しており、3月に任命替えしたばかりの首相(もともと野党の党首)も、地方に視察に行っていた際に銃撃に遭ったというような血生臭い話には事欠かない。大統領が「大半の国民の支持を受けている」といっているほど、状況は甘くない気がする。6月に大統領府を訪ねた時にも緊張感は相当に高かった。
 今回大統領に随行してきた人たちをみると、経済交流のことを議論しに来たという割には、経済人はほとんどおらず、外務省関係者や大統領府のボディガードなどが多かった。訪問団名簿をみてすぐに気付いたことだが、ボディガードが11人もおり、私たちが主催した歓迎パーティーでも彼らが大統領を囲んでいた。ボディガードのチェックは厳しく、キルギス国内の雰囲気をそのまま東京に持って来てしまったという感じであった。しかし、キルギスの経済情勢をみると、GDP(国内総生産)は、2005年はおそらくマイナスであったが、2006年はささやかだがプラス2.7%に転じている。そして大統領が来日する直前に発表された2007年1~9月の速報では、プラス8.5%と大幅に上昇している。内容を聞くと、今、経済状態が過勢気味の隣国カザフスタンからの直接投資が、この1年半で圧倒的に増えたためだという。

3. ミクロ部分での協力求める
 大統領自身の出席の下で、「投資セミナー」を開催した。私も主催者の一人として応援スピーチをした。キルギス側から日本人の企業家、投資家が絡んでいるものの投資例が報告されたが、ポリシリコンの生産、レアメタル開発、ガラス製造会社、蜂蜜輸入、そしITソフトウェアのアウトソーシング等の会社が現地で立ち上がりつつあるということであった。キルギス独立後、16年間に日本企業の進出は、大企業は商社を除いては皆無だが、少しずつだが、アイディアを探して日本の小さな企業が現地に参入し始めているということではある。6月に大統領自身から信頼されていたことと、大統領が来日するような機会でもなければチャンスはないということで、「日本・キルギス交流協会」を急遽立ち上げた。以前存在した、日本・キルギスの経済合同委員会にしても、日本・キルギス友好協会にしても、ODAの細川と共に活動を停止してしまったことを大統領は内心怒っていた。この種の団体に関しては経済関係が強い国に対しては会員も寄付金も集まりやすいのだが、キルギスの場合、有償ODAはほとんど動かず、輸入する商品は少ないということで、企業家や経済人という形で参加してくれる人はほとんどおらず、人集めに非常に苦労したが、それでもそれなりの歓迎ムードを出せたと思う。
 政府間の開発援助協力では、今キルギスに対しては無償援助を中心に、一村一品運動による地域振興やバイオガスの技術供与、障害者の社会進出促進プロジェクトなど非常にアイディアに満ちた独立した小プロジェクトが盛んに実行に移されている。私がやってきたような経済政策全体に対する意見交換を行うチャンスなどはあまりなさそうだ。日本側からは、国連安保理の常任理事入りの支持要請など、国連メンバーの一票として支持してもらいたいという感じが強い。キルギス側としては、表面的には「日本+中央アジア」という大きな枠組でいろいろ協力してもらいたいが、むしろミクロのところで困っている部分や、無償で出来るところをもう少しやってほしいというのが本音のところかと思う。
 大統領が経済人と懇談したときに、日本の経済界に進出してきてもらいたい分野として、鉱山開発、太陽光発電用のポリシリコンの開発、レアメタルの開発、水力発電の開発、そして農産物加工(とくに加工技術と包装技術)、さらに牛肉、マトン、馬、トウモロコシ、果物、蜂蜜、ポテトなどの育成・栽培と、それらの食品加工を繰り返していた。このように、規模の大きい巨額の投資案件ではなく、民間レベルでのミクロ、着実なステップバイステップの協力を要請している。逆にいえば当面それしかできないということを認識しているのかもしれない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部