2007年度アジア特別講演会 「タイの専門家が語る ASEANの将来」 ASEAN、日本と経済統合の将来」横浜国立大学 客員教授 タノン・ピッタヤ 【2007/06/06】

講演日時:2007年6月6日、場所:横浜開港記念会館講堂

2007年度アジア特別講演会
「タイの専門家が語るASEANの将来」ASEAN、日本と経済統合の将来」


横浜国立大学客員教授
タノン・ピッタヤ

タノン・ピッタヤ1. 求められる経済・金融市場の統合
 グローバリゼーションが進む中、世界はこれまでにないほど早いスピードでつながりつつある。欧州共同体(EC)は、欧州連合(EU)として統合を成功させてきた。これは金融統合、経済統合を地域で進め、完全に自由で開放された市場をすべての加盟国のためにつくるものだった。
 一方、アジア諸国は経済、金融市場の統合という試みで、大きく遅れをとっている。われわれの地域を強化するには、経済統合への適切な戦略を緊急に考える必要がある。そして過去四半世紀において、アジアでもっとも成功した統合はASEANの形成だ。歴史的にはASEANは、東南アジア条約機構(SEATO)が変化したものだ。この組織は元々、東南アジアの5つの加盟国が地域の共産主義国の支配をかわすため、統合を政治的に進めたことでできた。しかしながら政治的脅威はなくなり、各国の指導者らは既存の強力な政治関係を活用して共同の経済、ビジネスの設立に関する政策で経済的な協力を強化してきた。中でも最も重要な措置は、1992年のASEAN自由貿易地域(AFTA)設立だった。AFTAの下でさまざまな取り組みを行い、関税率を引き下げようというプログラムがあった。これは包括的、実質的には、すべての輸入に対して関税を、2010年までに元々の加盟国である6カ国でゼロにしようというプログラムで、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムのCLMV4カ国に関しては、2015年までにゼロにしようというものだ。
 AFTAは、地域間の貿易、サービスのための組織、協定だったが、それ以外にもASEANは投資、通関手続きの調和といった分野で経済的な協力を実施してきた。今後10年で5億人以上の人口を抱える市場として、単一の経済主体になり、アジアにおける総合的な生産のハブになると考えられる。ASEAN憲章の草案も作成され、最終的な統合段階が検討されている。
開催風景 しかしシンガポールを除く加盟国はまだ、開発途上国、後発開発途上国の段階にある。相対的に国民1人当たりの所得は低く、極度の貧困状態にある人口の割合も高い。工業化の鍵は今も技術の導入・輸入、外国直接投資になっている。ASEANは構造的弱点を認識し、拡大戦略を採用してきた。そして貿易、投資の協力という点で、他の東アジアの近隣諸国との統合を進めてきた。
  さらに興味深い点は、ASEAN諸国も互いに外国直接投資や地域における経済的支配、比較優位を求めて産業を進めようと競争し合っていることだ。結果として、二国間の貿易・投資協定の草案が作成され、多くの主要な国々との間で調印されてきた。この二国間協定によって、短期的には貿易の市場がより開放され、競争力も高まる。長期的には、協力をより進める共存体制に向けた前向きな一歩になる。このような協定を交渉、締結することで、非常に貴重な経験、知識を蓄積できる。これによって将来的な多国間協定に向けた前向きな姿勢が生まれる。

2. 日本、中国、韓国が果たす重要な役割
 アジアでもっとも進んだ経済国の日本は、貿易、投資を通じてアジア経済の中でも経済的恩恵を受けてきた。過去30年で日本はアメリカ、ヨーロッパに代わり、ASEANにとって最大の製造の投資を行うようになった。また日本が長期的に投資を約束したこと、巨額の財政的支援を行ったことで、ASEANは1997年の経済危機から復活、10年も経たないうちに経済的成長を取り戻せた。ASEANと日本の貿易、投資関係は拡大し、経済連携協定(EPA)へと変化している。
 日本の役割に加え、韓国や中国もASEANでより重要なプレーヤーとして存在感を増している。韓国は貿易と投資において日本と同じ道程をたどり、現在、積極的に電気・電子製品で市場に参入している。中国は今、ASEANの補完的パートナーであるとともに、強力なライバルでもある。

3. 今後の統合に向けた戦略
 5月の1週目には、正式なASEANプラス3の会合が京都で行われた。チェンマイ・イニシアティブ(CMI)以来のASEANプラス3における経済、金融の協力における協力の進捗には、非常に有望なものがある。そしてチェンマイ・イニシアティブから出てきた2つの主要な金融面での動きがある。1つは2国間通貨スワップ協定で、これはBSAネットワークと呼ばれ、現在、米ドルで800億ドルを超える。2つ目は、アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)で、これは地域の資本市場を発達させようというものだ。2国間通貨スワップ協定を金融安定のため、多国間の取り決めにしていこうと協調し、原則合意に至っている。これは最終的に、アジア通貨というものにもつながっていくかもしれない。またアジアの債券の発行にも、関心が高まっている。
 東南アジアの統合は主に、AFTAの設立といった制度によって進められてきた。一方、東アジアの統合は、メーカーや貿易、企業によるビジネスの契約によって推進されてきた。このように牽引力が2つで異なることは、経済統合に対するASEANの政治的意思にも反映されている。そして東アジア諸国の間には慎重な政治的姿勢が、今も見られる。
現在2つの主要な統合戦略が、この意味において採用されている。最初の戦略は、ASEANが二国間のFTAをつくっていくというもので、日本、中国、韓国と進められている。 これはASEANプラス1のスキームと呼ばれる。意外だがかなり進捗があり、ASEANと日本、ASEANと中国、ASEANと韓国という形で近い将来、自由貿易協定が実施されるのではないか。これが成功していることから、ASEANはアジアの三大経済国を統合するネットワークづくりをし、橋渡し的存在になると考えられる。最終目標は東アジア経済共同体の設立だ。まず日本、中国、韓国とASEANが統合し、オーストラリア、ニュージーランド、インドといった国々とも連携を深めていく。
 もう1つのより直接的な戦略には、ASEANプラス3、東アジア・サミットといった対話を進めていくやり方がある。ASEANプラス3の交渉における主な障壁は、3カ国間が政治的に非常にセンシティブという点だ。また、保護主義の度合いも強い。さらに農業部門では、先進国による補助金の問題もある。東アジア諸国の間ではさまざまな違い、多様性があることを認識し、よりオープンな形で対話をしていかなくてはならない。
 東アジアの統合プロセスは、ヨーロッパのそれとは異なり心と心の理解によって、注意深く進めていかなければならない。世界経済の環境が流動的になる中、ASEANの活動を継続し、日本、中国、韓国という3カ国を説得、経済統合の推進力としてより具体的、制度的な方法で合意できれば、と期待される。「グローバルに考え、ローカルに行動せよ」と言われるが、地域の経済成長と安定の鍵になるのは、「グローバルに考え、リージョナルに行動せよ」というものではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部