第12回 IISTアジア講演会 「21世紀最大の市場と日系企業」作家・ジャーナリスト 莫邦富 (モー・バンフ)【2007/06/21】

講演日時:2007年6月21日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第12回 IISTアジア講演会
「21世紀最大の市場と日系企業」


作家・ジャーナリスト
莫邦富 (モー・バンフ)

莫邦富 (モー・バンフ)1. 進む中国企業の海外進出
 日中関係は緊密になっているが、日本にとって中国が果たして敵なのか味方なのか、分析してみる必要がある。貿易立国の国、日本にとって今、中国は強力なライバルとして現れ、中国企業はどんどん海外へ進出し始めている。その1つは、ハイアールという会社だ。中国企業の海外進出は以前もあったが、全て国有の貿易会社などで、本当の意味での海外進出はハイアールがほぼ最初だ。中国のメディアはこれをひどく持ち上げたが、当時、CEOの張瑞敏氏と会って話を聞いたところ、「私たちは先駆者だと喜んではいない。むしろある種の孤独感を持っている」ということだった。中国企業が全体的に1つの軍として海外進出しなければ、1企業だけが進出しても評価されないという。
 そしてわずか数年後、2002年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで見本市を見学したところ、入り口に中国製のトラックがずらりと並び、また開催中には無名の中国メーカー、長城の車が多数売れたということだった。バイヤーをつかまえて、「なぜ無名な中国企業の車を買うのか」と聞いたところ、ドバイは砂埃がひどく、車は1年も使うと相当なメンテナンスが必要になるという。したがってオーナーらは頻繁に車を買い替え、1、2年持ち、安くて品質もある程度よければそれで十分だという。1、2年経つと、この長城の車は多数輸出されるようになった。また中国の自動車部品も輸出が増大し、中国の自動車産業は急速に発展している。中国製の自動車の海外輸出規模は、毎年倍増している。

 日本の皆さんがこれまで中国について語るときは沿海部に注目し、中西部は遅れているのであまり行かないという状況だったが、中部地域についてはそろそろ考えるべきだ。 中部地域の湖南省長沙市に平和堂という日本の中堅スーパーが進出し、非常に繁盛している。四川省成都市にあるイトーヨーカ堂も同様だ。中部地域には日本企業を含め、外資系企業がどんどん移行し始めている。もう1つ、皆さんは中国の人材に対する認識を変えるべきだろう。これまで中国の人件費は安いといわれていたが、中国は今後「中国製造」から「中国創造」へというスローガンを掲げ、急速に高付加価値の生産、製造に移行しようとしている。典型例は中国のニューソフトというITの大手会社で、人材不足のため自らITの大学をつくった。若い人にアメリカなどへ留学せず国内で学んでもらうため、つくったのだという。

2. 求められるビジネス・モデルの転換
開催風景 これまでは日系企業の多くが中国に進出する目的は、安い土地代、安い人件費だった。しかし中国では所得向上、国内総生産(GDP)の伸びもあり、市場としての重みがどんどん増している。一方、日中間の貿易額も2004年の時点で香港を含めてアメリカを上回り、中国は日本にとって最大の貿易国となった。日本貿易振興機構(JETRO)の調査によれば、中国に進出した日本企業の75%は黒字を計上しているという。ただ、これまでのビジネス・モデルが今後、大きく変わろうとしている。これまで日系企業の多くが中国でやってきた業種は加工貿易で、中国で簡単に組み立てて海外へ再輸出するなどというのが多かった。しかし加工貿易に対する中国政府の目に厳しさが増している。税金面での優遇を徐々に廃止し、より付加価値の高いものをつくるように誘導しようとしているのだ。さらに日系、外資系企業がよく進出してきた珠江デルタ、長江デルタなどの沿海部で、人件費などが高騰、これまでのビジネス・モデルでは利益が出にくくなり、製造基地の再移転を迫られる可能性も出てきた。
 経済協力開発機構(OECD)の推計によると、2006年の中国の研究開発費は、日本円で15兆6700億円に上り、日本の1290億ドルを超えて初めてリードするような形になった。先ほど挙げたニューソフトのように、新しい人材を養成しているところもあるが、今後ますます人材争奪戦が激しくなると思う。昨年末に中国の科学技術省が出した通達によれば、中国政府は今後、企業誘致よりも人材の誘致に力を入れるようシフトする。しかも優れた人材を誘致するため、国籍、人種を問わず、報酬には上限も設けないとしている。

3. 中国市場で苦戦する日本企業
 今後、中国と日本は競争をしつつ、持ちつ持たれつの関係で発展していくと思うが、発展のモデルは自動車業界はさておき、多くの分野ではエンド・ユーザー向けの販売段階からは中国企業が担い、日系企業は部材品を供給する役割をさらに強めていくと見られる。昨年末の中国の携帯電話所有台数は4億6000万台で、日本では1億2000万台だったと聞く。中国の携帯電話を見ていると、日本メーカーの名前は出てこないが、実際にはかなりを日本メーカーがつくっており、ブランドだけ中国のものになっている。
 なぜ日本企業がエンド・ユーザーまでやっていけなかったかと言うと、いろいろな原因がある。販売などは人海戦術、中国人消費者の心をつかむことも必要だ。例えば私が好きなビールに、キリンの一番搾りがある。これは中国で平仮名の「り」をとって発売されたのだが、売れなかった。この3文字を中国人に読ませると、「ファースト」、「フレッシュ」といった意味ではなく、「ざっと搾った」ビールということになってしまうためだ。またトヨタが中国で製造した車には、「覇道」という名前がつけられており、これは中国では横暴を意味する。広告のキャッチコピーを見ると、「俺は横暴だ。この俺をお前は尊敬せずにはいられない」と、喧嘩を売っているかのようだった。さらに中国で日本企業が発売した携帯電話を2002年に買ったが、中国語で入力ができず、ヨーロッパの言葉13カ国語には対応していた。中国語の辞書はすでに組み込まれていたのだが、ローマ字入力をして漢字に切り替えるという機能がなかった。これでは中国でのシェアはとれず、その企業は2年後には撤退した。

 中国は日本にとって、21世紀の最大の市場になるだろう。しかも日本に一番近いところにあり、そこからしたたかに稼がない手はない。今の私の生活基盤は日本にあり、中国に行くと中国の携帯電話を使うが、私の携帯電話は韓国のサムスンのものだ。これは中国の店にもう日本の携帯電話が売っていなかったためで、義理で韓国の電話を買う必要はないのに買ってしまった。日本の皆さんに、これを何とかしてほしい。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部