第16回 IISTアジア講演会 「世界経済のゆくえとアジア」(株)三井物産戦略研究所所長 (財)日本総合研究所会長 寺島 実郎【2007/11/21】

講演日時:2007年11月21日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第16回 IISTアジア講演会
「世界経済のゆくえとアジア」


(株)三井物産戦略研究所所長
(財)日本総合研究所会長
寺島 実郎

寺島 実郎1. 3%台の成長を続ける世界
 21世紀に入って7年が経過しようとしているが、この間われわれは実体経済が年平均3.5%程度の割合で成長する時代を生きてきた。この3.5%という実質成長の持続をどう評価するかは非常に重要で、3、4年前から、「今われわれが生きている時代は、人類の歴史始まって以来の高成長の同時化局面にある」と表現するエコノミストも出てきている。だからこそ、持続可能な成長に向けて問われる3つのE、ECONOMY(経済)、ENVIRONMENT(環境)、ENERGY(エネルギー)のバランスがとれていなければいけない。
 そしてこの間の世界貿易の年平均成長率は、実質7%だった。つまり実体経済の成長をはるかに上回る2倍の成長で、物流経済、世界貿易が今世紀に入り拡大した。また世界株式市場の時価総額は、年平均14%で拡大した。「何かこの経済は変だ」という不安感が頭によぎるのは、大変よい感をしている。つまり実体経済をはるかに上回る金融経済の肥大化というのが、今われわれが生きている時代の特色なのだ。
 エネルギー価格は著しく上昇している。1999年の日本の原油入着価格は1バレル17ドル20セントで当時の円ドルレートで1928円だった。07年8月には、この価格が1バレル73ドル62セントとなり、円ドルレートに換算すると8592円となり、4倍以上の価格高騰となる。しかし、その割には日本経済はパニックになっていない。理由のひとつは為替の円高へのシフトだ。1973年の石油危機のとき、為替レートは1ドル=271円、79年には219円だったが、現在1ドルは110円前後で、日本は自国通貨の価値を2倍にした。また、日本はこの30年間で、エネルギーの利用効率を37%改善し、2020年までにさらに30%改善する目標だ。そのような理由があり、パニックになっていない。

2. エネルギー価格高騰と世界のマネーゲーム化
 では、石油価格が4倍にもなったのは何故か。まず供給側の要素として、中東の地政学的不安の高まりがある。イラク戦争、サウジアラビアの潜在不安、またイランに対する制裁のようなものがイランの原油国際市場への輸出量を減らす可能性をもたらす、あるいはイラクのクルド地区がトルコによる侵攻を梃子に供給力を失えば、などの情報だけで、エネルギー価格が跳ね上がる。さらには需要側の要素として、BRICsの石油需要拡大がある。しかし価格が4倍にもなるほど、世界にエネルギーの需給ギャップが生じている訳ではない。
開催風景 エネルギー価格が100ドル水準に迫って乱高下している状況で、WTI(West Texas Intermediate)に関する報道が繰り返されている。WTIの実需は1日わずか70万バレルで、また昨年、世界中で生み出された石油を全てかき集めても8600万BDなのだが、その一方で昨年WTIという名前の下に取引された石油は1日あたり3億バレルを超えた。要するに、実需、実供給の関係で価格が決まっているのではなく、コンピューターの中を短期資金が駆け巡るマネーゲームの対象としての石油取引が飛躍的に拡大したのだ。
また日本は12年連続、公定歩合が1%を割る状況で、日銀がゼロ金利を解除し、今年2月には0.25上げて、今は0.5になっている。一方、米国ではサブプライム問題で凍りつき、4.75まで一気に0.5下げ、さらに0.25下げたものの、金利水準は4.5%だ。欧州も4-5%の水準で、オーストラリアやニュージーランドは8%台だ。そうなると、日本で円資金を調達できる人は、国境を越えて外に持ち出し運用すれば、為替リスクはあっても金利差だけで少なくとも3-4%の利鞘は抜ける状況が続いている。そのような形で日本の超低金利を梃子に、外へ吸い出されていっている金を「円キャリー」と総称するなら今、国際社会を飛び交っている数字は「円キャリー1兆ドル」というものだ。したがって、「問題は日本だ」ともいわれる。
 米国のサブプライム・ローンの規模は1兆3000億ドルで、13-15%ぐらいが焦げ付いているといわれ、その規模は日本円で2、3兆円ぐらいだ。これは世界経済がこれほどインパクトを受けるほどの額ではない。しかし、ややこしくしているのは証券化だ。つまりサブプライム・ローンの債権を埋め込んだ証券が、世界中の過剰流動性に売り込まれ、訳がわからずものすごい勢いで世界の過剰流動性が向かった。そしてそのようなものに対する信用は、一切向かわなくなり、ぐっと引いた。引いた金はエネルギー市場に流れ込み、8月から20ドルも石油価格が上がる構図になっている。
 日本の企業物価指数は2000年を100とすると、07年8月には素材原料が192.8、中間財は115.0だった。問題は最終財で、消費者と向き合ったビジネス・モデルの企業の価格体系は92.2で、8%デフレだ。耐久消費財は79.1が78.9に、非耐久消費財は103.7から104.1になった。耐久消費財とは家電機器のようなもので、これは今世紀に入って価格が2割以上落ちている。「このような状況下で金利を引き上げられない」という雰囲気だが、外部からの圧力に挟まれ、日本の位置は難しい。その間、世界の過剰流動性ゲームはますます加速し、自分が低金利を梃子に外へ持ち出した金が、自分に襲い掛かってくるような状況だ。

3. 中国の台頭と日本の貿易構造の変化
 日本の貿易総額に占める比重を見ると、2006年度は対米貿易が17.2%まで落ちた。それに対し、中国との貿易は年度では17.4%で、日本の戦後史上初めて対米貿易よりも中国との貿易が上回った。アメリカでも中国との貿易は、日本との貿易を上回っている。北米大陸と中国を結ぶ物流は、日本海に入り津軽海峡を抜け、「日本海国土軸」という言葉が出るほど、状況が変わりつつある。戦後の日本人は、太平洋側を表と呼んで日本海側を裏と呼ぶような習性を身に付けてしまった。戦後60年間において、日本にとって貿易とは主にアメリカとのもので、ひたすら海の彼方のアメリカだけを見つめていく半世紀以上を過ごしているうちに、このような感覚が芽生えたのも不思議ではなかった。ところが今、われわれが直面している状況は、「21世紀はこのような時代になるでしょう」というときに、「きっとそうなるでしょう」というとぼけた話でなく、すでに日本の貿易構造がそうなっているように、裏と表という感覚を反転するぐらいの発想で向き合わなければ、日本の21世紀は構築できないだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部