第17回 IISTアジア講演会 「アジアの動向と日本の政策」(株)インド・ビジネス・センター 代表取締役社長 アジア経済研究所長 島田 卓【2007/12/07】

講演日時:2007年12月7日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第17回 IISTアジア講演会
「日印ビジネスの将来展望-望まれるあるべき姿-」


(株)インド・ビジネス・センター 代表取締役社長
アジア経済研究所長
島田 卓

島田 卓1. demographic dividendの二面性
 インドは世界最大の民主国家といわれ、25歳未満の人口が11億の半分いるという話だ。インドのいわゆるよい点、人口が多いことによって配当がもらえることを「demographic dividend(人口配当)」といっているが、私はこれについては二面性があり、もしかするとインド最大のリスクではないかと考える。
 インドは民主国家であることが本当の意味でまだ機能していない国で、私は逆に10年ぐらいは独裁国家にしてしまった方がよいのではないかと思う。そうすれば二桁成長など簡単だ。今のような自分たちのためだけの泥臭い政治ゲームをやっていても9%前後の成長をしてしまう国など、中国なみに独裁国家にすれば、軽く10数%の成長に達すると思う。
 インドでは25歳以下が人口の半分を占めるが、日本の労働人口は2030年までに1000万人減るという。インドでは1200万人の労働者が毎年、労働市場に入ってくる。インドといえばITといわれるが、昨年ITで吸収できた労働人口は30万人程度で、国連の統計によると人口の33.5%がまだ1日1ドルも稼げない状態だ。そのような大きな問題も抱えている。
 インド中央銀行総裁のレディー氏は「人口が多いことによる配当をどんどんもらえるといわれるが、黙っていても配当は来ない。毎年1000万人以上の労働者への雇用機会をつくらなくてはいけない」と言っている。ではそれが可能かというと、無理だ。1200万人のうち約30万人はよい大学を出て英語も話せ、IT業界が吸収してくれるが、残りの1千万人以上の多くはおそらく小学校も出ておらず字もろくに読めない。このような人たちをどう救うかだ。

2. 求められるヒューマン・パワーへの投資
開催風景 インドの経済構造はいびつで、GDP(国内総生産)の約6割を観光業やITアウトソーシングなどサービス産業(第三次産業)が占め、残りの4割強を製造業と農業で分けている。農業人口は就労人口の6-7割といわれ、GDPの18%程度しか稼いでいない。製造業では、各州に職業訓練学校があるが、予算が少ないため機械は古くろくな先生も来ない。ここで勉強した後、働いても月給は5000-10000ルピー程度、5000ルピーとは1万5000円だ。ただし、その辺の労働力をうまく使え、ITなどと融和できた場合のインドには、太刀打ちできないだろう。
 1961年にケネディ米大統領が、経済の巨人といわれるハーバード大学のジョン・ガルブレイス氏をインドに送り込んだ。インドではインド工科大学(IIT)をつくっても、お金もなければ先生もいなかったが、これに目をつけた。そしてIITにてこ入れし、優秀な頭脳をシリコンバレーへ持っていった。1960-80年代にそのような人たちが流出して累積し、80年代のIT革命を起こした。そのような国家戦略に基づいたヒューマン・パワーへの投資を行ったケネディは、先見の明があった。日本でもこのような政治家に出てきてほしい。現在、日本からインドに出ている企業はまだ500社ぐらいにとどまっている。
 私が1991年にインドへ行ったとき、インドのソフト輸出は約1億ドルだったが、現在は300-400億ドルで、2010年には600億ドルとなる見込みだ。またインドは自国で使う原油の4分の3を輸入しているが、ソフトの輸出はあと2、3年で600億ドル程度になり、原油価格が高騰していても、1バレル=100ドルぐらいなら、これで原油の輸入がまかなえることになり、このような国は世界に例を見ない。
 日本では昨年の中小企業白書をみると、約7万社が廃業しており、これは後継者がいないためだ。一方、インドでは、十分な就労機会がない。また30年後に日本では、さらに1000万人の労働力が減り、インドでは毎年それ以上の労働人口が生まれてしまう。 2025年の人口をみると、20-24歳までの若者は、インドでは1億人で中国では8000万人、日本では600万人となる見込みだ。今の日本の小・中学生がインドと張り合おうとすれば、16倍のがんばりをしなくてはいけない。これはどうみても、無理だ。
 しかし、インドの中央銀行総裁、レディー氏によれば、巨大な就労人口はインドにとって「人口配当」だが、これが巨大な不労人口になれば「配当」は「悪夢」に変わる。インドにとって喫緊の課題は、雇用創出で、問題はあまり力のないモノづくりの基盤整備だ。

3. 心の壁を取り払い、ビジネス拡大を
 小泉元首相がインドへ行かれたとき、シン首相が歓迎レセプションで意味深長なことをいっていた。それは「日印の皆さんが持っている心理的な壁を取り除き、本来両国で築き上げられたかもしれないビジネスの親交を深めませんか」というものだ。聞き流されてしまったかもしれないが、インドの方は日本とのビジネスが拡大しない1つの要因として、日本人がインドに対する悪しき先入観を持ち、それをベースにインドを理解しようとしていると考えている。それを取っ払い、あるがままのインドを評価してほしいということだ。
 今年、嬉しいことに、トヨタがバンガロールに日本以外で初めて工業技術学校をつくった。ここで若者60人が、目を輝かせて一生懸命技術を習得しようとしている。これには数千人の応募があり、60人の純朴な田舎の若者たちが選ばれた。3年間の全寮制で、全てトヨタ持ちだ。これは10年で600人になり、おそらく10年後に効いてくる。

 過去3年でインドから外国へ流出したIT技術者のうち6万人が自国に戻っているといい、これも大きな力になるだろう。しかし今インドに望まれるのは、製造業の整備基盤、それによる雇用造成、それによる富の再配分、貧困削減で、私にいわせればITではない。日本が技術を支援して労働機会が生まれれば、その方たちが所得を得て一部が使われる。それによって富の再配分が行われれば、環境問題への関心も高まり、貧困も少なくなり、人口問題も解決される。日本はまだ、この歯車を回す力、ノウハウを持っている。ただし10年、15年後はわからない。日本がインドをみるとき色眼鏡でみる可能性があり、その眼鏡を変えてほしい。色のない眼鏡でインドをもう1度みてできることをしてあげれば、日印はよい関係が築けるのではないか。これは日印に限らず、アジア全体の環境、平和問題にもつながる気がする。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部