平成19年度 アジア研究会公開シンポジウム 「日本企業のアジア事業戦略」-アジア・イノベーション・システムとR&D-【2008/02/22】

日時:2008年2月22日

平成19年度 アジア研究会公開シンポジウム

「日本企業のアジア事業戦略」
-アジア・イノベーション・システムとR&D-


開会講演「東アジア経済統合と日本の役割」
黒田 篤郎 経済産業省通商交渉官

黒田 篤郎 世界の総人口の約半分、GDPの約4分の1を占める東アジアで、域内の貿易・投資・分業が近年非常に盛んになっている。例えば貿易額をみると、最近の5年間で日ASEAN間で1.5倍、日中間で2.5倍、中ASEAN間では3.7倍に増加し、またインドや豪州との貿易も増えている。これらの結果、東アジアの域内貿易比率は、制度的統合を進めたEU、NAFTAとも遜色ないレベルの57%に達している。
 日本からの貿易をみると、東アジアとの貿易が過半を占め、最大の貿易相手は今や中国だ(シェア27%)。投資をみると、従来の米欧への貿易摩擦回避型の投資から、今やアジアへの投資が約半分、そのうち28%は中国だ。直近では中国への投資は一巡し、ASEAN、インドなどへの投資先多様化が始まっているが。いずれにせよ、東アジアの中で貿易・投資の相互依存関係が深化し、日系企業を中心とする分業ネットワークが拡大していく中で、いかに東アジアを1つの自由なビジネス圏、経済エリアとして環境整備していくかが、この地域のリーダーである日本の役割であり、その最大の手段が経済連携協定(EPA)の締結だ。
 FTA後進地域だった東アジアでもFTA/EPA締結の動きが加速している。日本はASEAN主要国とは2カ国間のEPAをほぼ締結済みで、昨年末にはASEAN全体とのEPAにも合意した。またインド、豪州、中東湾岸諸国やスイスと交渉中で、韓国との交渉再開も期待されるし、さらにEUとも研究中である。
 その次に我々が準備中なのが、東アジアに関する2つの大きな構想である。1つは東アジアの包括経済連携協定(CEPEA)で、「ASEAN+6(日中韓印豪NZ)」で面的なFTAを作ろうというものだ。もう1つは、EPAにとどまらない様々な地域の共通課題の解決へ向け知恵出しをする「東アジア・ASEAN経済研究センター」(ERIA)という大きなシンクタンクを日本の貢献で作りつつある。
 このほかにも、例えば人材不足が最大の課題になっているタイでは最近、自動車部品分野での技術人材育成へのプロジェクトを日本とタイの官民が協力して始めているし、他方インフラの未整備が最大の問題であるインドでは、太平洋ベルト工業地帯整備の経験を伝えようという「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」を進めている。
このように、我が国は東アジア全体が、日本を含め東アジアの企業にとって自由で発展する経済基盤となるよう、EPAを始めとする様々な政策を進めている。この地域の発展こそが、今後の日本経済の発展の鍵を握ると考えるからである。

(以上、開会講演)

特別講演「東アジア共同体とAPEC」
山澤 逸平 一橋大学名誉教授、経済学博士

山澤 逸平 APECができたのは1989年で、当時は先進5カ国と韓国、ASEAN6で外相、経済相会議を開くというあまり派手でないやり方で始まった。天安門事件の直後で中国は参加できなかったが、2年後に台湾、香港と共に参加した。非常に盛り上がったのは1993年に米国の主催で首脳会議が始まってからで、中でもEPGという賢人会議が自由化を中心に据えた提言をし、さらに自由化、円滑化、経済技術協力を謳った「大阪行動指針」が制定されたほか、1996年にはそれを行動に移す「アクション・プラン」もマニラでつくられた。この93-96年までが、APECが一番盛り上がった時期だ。そこで他の国もどんどん参加を申し込み、現在は21カ国になっている。しかし97、98年にアジア危機があり、流れが変わった。
 自由化についてはAPECではなかなかうまくいかなかったのだが、円滑化の方は共同で実施することによりかなり進展した。ペーパーレスでの通関手続きや、基準認証での制度の違いを統一していくこと、商用ビザ、ビジネス・ビザは特別扱いにして非常に早く出すといった面でAPECは大きな効果を上げた。しかしこのような地味な活動からメディアの関心は離れ、APECから東アジア共同体へ明らかなパラダイムシフトが起こっている。
 東アジア共同体の方では、「ASEAN+3」の首脳会議が99年に開かれ、東アジアにおける協力に関する共同声明が出された。その中で初めて東アジア共同体構想が出てきた。東アジア共同体は必然の方向だが、その実現には問題が多い。ASEAN,ASEAN+1, ASEAN+3,EASと同心円的な地域協力の枠組みができて、それをASEANが操縦席に座って動かそうというのだが、発展途上国だけのグループで動かすには限界がある。APECには先進国が入っているから、いろいろできる。また東アジアでは政治体制の相違や国境紛争、中台対立、米国との関係等、政治・安全保障共同体ができず、経済共同体を制約する。APECはこの面でも役立つ。APECは来年はシンガポール、2010年は日本、2011年はアメリカが主催する。これら有力な主催国のイニシアティブで、以上挙げたような問題がどう展開するか、楽しみにしている。

(以上、特別講演)

基調報告「インド・イノベーションシステム現地調査報告」
角南 篤 政策研究大学院大学、准教授

角南 篤 インド各地のインキュベーション・センターを抽出し、それぞれのセンターの特色をみながら、どういった産業、企業、人たちによってこれらがスタートしているのかをみた。私が回ったのはほとんどが南西部だった。バンガロールのオックスフォード・タワーズには、多くのベンチャー企業が入っている。インフォシスなど大きなアウトソースのソフトウェア企業はよく知られているが、ここに入っているのは全てシリコンバレーにバックアップされた小さなベンチャー企業だ。その中でアパラ社というところに行ったが、ここはストーレージ・ソリューションを中心とした先端的な技術をもとに起きた会社で、シリコンバレーのレジェンドといわれるインドの起業家が92年につくったものだ。現在は約30ミリオンの売り上げで、今後は大手に技術提供したいといっていた。
 シリコンバレー発インド系企業家でぜひ紹介したいのは、タイというインド系起業家のネットワークだ。95年にシリコンバレーで設立され、世界11カ国にある。バンガロールにも支部があり、世界的なグローバル・ベンチャーのビジネスをメンタリング、ネットワーキングしている。つまり人材育成のためのボランティア組織だ。大学内のインキュベーション・システムでは、インド経営大学院大学ではいわゆるフィランソロフィストのアメリカ人の金持ちが寄付をし、インキュベーションを世界中に広めようとつくったものがある。そしてインド工科大学ムンバイ校のインキュベーションは、会社が成功した後にはセンターに対していわゆる株式を渡し、それによって財政を支えるという変わったものだ。
 日本企業ではスズキやホンダなど自動車関連が、インドに多く進出している。日本からみるとインドはまだフラット化していない世界で、両国間の交流ではまだまだ留学生、研究者の数も少ない。インドに進出している日本企業も300社程度で、中国と比べて非常に少ない。現在はデリー-ムンバイ・プロジェクトが進められており、今後はここを中心に人材育成やR&Dなどを進めていくことがポイントになるのではないか。

(以上、基調報告)

《パネルディスカッション》
「R&Dの国際化を考える視点」
コーディネーター/松尾 隆之 高圧ガス保安協会理事

松尾 隆之 パネルの議論の出発点として、イノベーション、R&Dの国際化に関する課題を3つ挙げたい。1つは「選択と集中」、「グローバルな相互補完・連携のネットワーク(Global Knowledge/Value Network)」というキーワードである。後者については、OECDの国際比較指標(STI Scoreboard)をみても、R&Dのグローバリゼーションに関連して「自分にないコンピタンスを持った優秀な相手、企業、人材と(自らの組織・国境を越えて)相互補完的連携」の視点は遅れているのではないかと思う。2つ目はアジアの経済連携が生産・販売から、これに近い開発を含めたR&Dに深化している中で、イノベーションを含めたアジアの成長を日本の知識経済に向けた成長や産業・経営のグローバル化にどう取り込んでいくか、という視点である。アジアの将来の成長を考えると、資源・エネルギー制約、地球環境問題が深刻であり、アジアの産業構造をいかにサステイナブルなものに変えていくか、という視点が、将来のマーケット創出も踏まえ、重要ではないか。第3点は、技術の側面でもこれからの技術開発・事業化のブレークスルーは、いろいろな分野の技術を融合することが求められており、「縦割りを超えた技術融合と技術・経営資源の融合・Synergy」のマネジメントを考えなくてはいけない。「相互補完的な相乗効果を発揮できうる連携とは?」については、R&Dの発展段階(基礎から事業化・競争段階)、融合分野や製品サービス別のGlobal Supply/Value chain等の状況、競争状況(地域別、成長マーケット含め地域別、Spill-overの経済効果等)、経営資源の相互補完効果(資源や人材獲得・積極活用の誘因等)等複合要因により、「競争と協調」の戦略(どこで競争してどのように協調・連携していくか)が異なると思う。
 次に、イノベーション・R&Dの国際化に関連する政策課題をこれまでの研究会での議論を含めいくつか例示すると、1つは人財ハブ化である。ヒト、モノ、カネ等経営資源の中でも、アジアを含め優秀な人材をいかに世界から引きつけ、国境を越えて相互補完の人的ネットワークを構築していくか、という課題である。第2は、相互補完的連携によるシナジー効果を上げるグローバル経営能力の向上(ヒト・経営資源のSynergy/networkとグローバル経営理念や現地化など)が企業にも大学にも研究所にも求められると思う。第3は、アジアにおける持続可能な産業構造への変革を目指して、地球環境問題への対応やエネルギー・セキュリティーを含め環境エネルギーのパートナーシップで協調していくという政策課題である。第4は、従来のプロパテント政策を超えて、イノベーション指向のグローバルな知財政策・管理(グローバル特許、共同シェア、R&D目的の適用除外等)が必要になっている。また連携を推進していくためには、安全保障輸出管理含め研究セキュリティーのガバナンス強化が前提である。国際標準化戦略については、欧州諸国の連携に遅れをとってきた現状にも鑑み、研究開発段階から将来の標準化を牽引できうるように、少なくともアジアで連携しながら、どのように欧米含めグローバルに合従連衡していくか、という視点が重要な政策課題になると思う。

「グローバル企業のアジア戦略」
パネリスト/中谷 吉彦 立命館大学教授

中谷 吉彦 アジアのR&D展開ということで、主として私が以前いたエレクトロニクス関係の業界に絞ってお話し、課題提起、政策提言に結び付けたい。
 エレクトロニクス業界は、1990年代前半にバブルがはじけてから低迷状態に入った。90年代半ば、海外へのR&Dが本格化したが、多くは欧米への展開だった。その後、デジタル化の進展に伴うソフトウェア開発量の急激な増大による開発パワーの補完、また、特に日本企業において遅れていた開発、設計の現地化などの要因で、アジアへの展開、とりわけ中国へのR&D展開が加速されるようになった。
 最近の1つのトレンドとして、日本に限らず今後海外における産学連携をしようということで、海外大学等との「産学官連携」の現地での拠点化に向けたR&Dシフトがある。またやはり欧米は「質」を追求するR&D、アジアは「量」を追求するR&Dということが、今後の1つの大きな課題、モーティブ・フォースになるのではないか。ただ1つの問題は人事的な意味での現地化で、とりわけ責任者の現地化が日本企業では遅れている。
 R&Dの経費の問題に関していえば、欧米とアジアでの研究の総経費は非常に違う。したがって欧米はある程度少人数にして、本当に目的のあるものだけに絞り、あとはアジアに集中していくというのがエレクトロニクス業界における大きなトレンドではないかと思う。
 これまでアジアへの展開はどうしても日本中心のハブ・アンド・スポーク型のマネージメントで、これが現地化が進まないことのメンタルなベースになっていたが、このような日本中心の考え方ではなく、あくまでも最適地、最適な人をハブとしてループをつくり、全体的なループをネットワーキングするといった新たなマネージメント・システムを考えていかなければいけない。

(以上要旨)

「アジアにおける研究開発の動向とその意義:日本企業と政府への示唆」
パネリスト/浅川 和宏 慶應義塾大学大学院教授

浅川 和宏 研究開発の国際化に対する一般的な通説に対し、インド・中国を中心としたアジア進出における現実がどれだけ乖離しているか確認したい。また多国籍企業がアジアに進出するうえでの課題、チャレンジと、インド、中国におけるR&Dというテーマを扱ったメッセージにギャップがあるのではないかということを2段階で、フィールド調査ではなく文献調査した。
 米欧、そして日本企業が研究開発を国際展開するうえでの通常のパターンに関し、アジア進出の場合は必ずしもその論点をそのまま受け入れることはできない。例えば投資決定を過去、現在の実績ベースでのみ行えば、どうしても不満足な結果になる。したがって将来の可能性を重視して行うことが肝心だ。2点目に現地のR&D拠点の役割が漸進的、段階的に発展するかを考えると、現地の経済社会の発展、および技術革新の加速が目覚しい現状を考えれば、漸進的、段階的アプローチはとれず、非連続的なアプローチが不可避だ。3点目に拠点の役割だが、A拠点は主に探索的、革新的なイノベーション、B拠点は主に既存技術を活用するという役割で、エクスプロレーション型とエクスプロイテーション型といってよいかもしれないが、そのような区分けはうまくいかないのではないか。これもやはり発展段階の加速化と関連があるのではないか。4点目にオートノミーとコントロールのバランスだが、アジア地域でも重要であることに変わりはないが、欧米日における対外拠点のオートノミーとコントロールのバランスの場合には拠点の発展段階に応じ、イノベーションの役割が異なる。
 2つ目の話は10項目ぐらいあり、現地における固定観念があり、例えば知財問題、特許の問題、人材の問題などだが、これらをあまり固定観念でみるべきではないということだ。
 まとめをすると、1つはR&Dの国際化に関して、先進国をベースにした通説がいろいろあるが、アジア進出の場合には通説を最低限にする必要がある。2点目には中国、インド、その他のアジアに対する過度の固定観念を避けつつも、その独自性を適切に評価する必要性があるのではないかということだ。

(以上、要旨)

「中国・アジアのインフラ型産業の発展と日本企業の海外事業戦略」
パネリスト/天野 倫文 東京大学大学院准教授

天野 倫文 2006年度をメインに中国の金型産業を中心とした地域間比較調査を行い、かなり広範囲にわたって中国のインフラ型産業、金型産業の調査を行った。金型産業全体の生産と輸入、輸出の総額の推移をみると、とくにここ5年ぐらい中国の金型産業の生産高は非常に伸びてきている。また若干だが輸出も増えている。地理的分布では、やはり華南の規模が相当大きく製造業のオペレーションでアジア全体のセンターになっている。しかし今は、ここから華東や北部、内陸へのさまざまな企業家のスピンアウト等を通じて、インフラ構造が整備されていくということが起きている。中国の金型産業の技術水準は、まだトヨタや日産などが満足できるようなレベルには正直、達していないと思う。ただ非常に速いスピードで技術を学んでおり、5年、10年後には確実に重要なパートナーになるという印象を持った。
 またフィールド調査で中国系・台湾系・日本系の金型企業の技術能力に関する国際比較を行ったところ、技術的にはやはり日系の金型メーカーが上位に立つが、台湾系、とくに中国に進出している台湾系は、日系とかなり近いレベルにあることがわかった。実は台湾の中国におけるこの分野でのプレゼンスは、非常に大きい。
 日本のサプライ・システムをみると、二次サプライヤー・クラスの中小企業はまだ中国への進出をためらっているところがある。そこのビジネス・チャンスを台湾が持っていっているともいえる訳で、中小企業の国際化の促進という観点からも今後検討しなくてはいけない課題かと思う。

(以上、要旨)

「東アジア国際分業の再編と日本企業」
パネリスト/丸屋 豊二郎
(JETRO)アジア経済研究所研究企画部長

丸屋 豊二郎 東アジアの経済連携は、緊密化している。1995-2005年の貿易結合度、つまり世界輸出(入)に占める当該国の輸出(入)シェアに対して対象国の当該国への輸出(入)シェアが何倍になるかをみると、全て1以上となっており、東アジア4極(日本、中国、韓国、ASEAN)の結びつきが非常に強いことがわかる。とりわけ日本から中国、韓国、ASEANへの輸出が多く、また中国の輸入が非常に伸びて結合度が高まっている。
 こうした東アジア経済連携を牽引しているのは、日本と中国だ。 中でも貿易関係を見る限り、中国のプレゼンスは今、非常に高まっている。中国は東アジアのアブソーバーとなっている。しかし、中国の輸出入をリードしているのは、中国に進出している外資系企業だ。中国貿易の約6割は外資系企業によるものであるが、日本、韓国、台湾、ASEANとの貿易では7割を超える。また日中貿易をみると、最近10年間、機械産業が牽引している。それまでの日本が部品を中国へ輸出して中国で加工、組み立てたものを輸入するといった垂直貿易から、最近では部品の双方向貿易が急速に進展してきた。そして、日中貿易に占めるハイテク製品の比率も上昇し、日中貿易は高度化してきている。
 しかし、最近では中国投資環境の悪化、それに日本から中国への投資一巡、投資の日本回帰などで、日中経済関係は高度化のスピードが緩慢になっている。とりわけ中国では知財権保護を今後徹底していかない限り、日中間の貿易構造を高度化していくのは難しいのではないか。東アジアでも同様のことがいえると思うが、域内貿易をさらに緊密化させ、かつソフィスティケートさせていくには、知財権保護を含めた投資協定やEPAなど制度面での整備も必要になるのではないか。

開催風景
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部