平成20年度 第1回 アジア研究会 ●報告1「アジアのシームレス物流」帝京大学経済学教授 高島 正之、●発表2「ミャンマーの労働力の現状と今後」特定非営利活動法人メコン総合研究所事務局長 岩城 良生【2008/07/23】

日時:2008年7月23日

テーマ「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」

平成20年度 第1回 アジア研究会
報告1「アジアのシームレス物流」


帝京大学経済学教授
高島 正之

高島 正之 わが国の依って立つところは「技術立国日本」ということで、これは経済産業省でも打ち出しており、あるいは「モノづくり大国」という方向が正しいだろうと思う。日本の技術開発力には大変優れたものがある。その一方で、「投資立国」というのがあり、日本も人口減少時代を向かえ、今後ますますそうなっていくだろう。
 通商白書に基づけば、2005年に貿易収支と所得収支が逆転している。また日米英の所得収支額を見ると、日本が一番多い約1033億ドルで、英国は499億ドル、米国は16億ドルと極めて低い。所得収支は外からとってくるものとこちらが払うものの差なので、日本には投資をしてくる人があまりいないということだ。その背景は何かだが、いうまでもなく日本の市場は成熟化してきてきる。また今後の人口動態を考えると、市場が大きくなることはない。そうなるとアジア諸国のダイナミズムをいかに取り込むかが、重要なテーマになる。
 日本の1億人の市場を少し拡大し、アジア大に広げて考えなければいけない。それに合わせて産業構造を決め、個々の企業は経営資源の配分を考えなくてはならない時代になっている。アジアの国々の間では、水平分業、いわゆるメッシュ化といわれる網の目のように入り組んだ関係が広がっている。日本企業がアジア諸国に自ら進出して工場をつくり、それによって外国での所得が増えるという形が増えている。日本だけが繁栄しても、アジアの市場が萎んでしまうので、共存・共栄が大変重要だ。
 日本の国際競争力を計るため、社団法人「日本プロジェクト産業協議会」でJADEXという指標を作った。それによると日本は脆弱な2位で、アメリカには遠く及ばない。そして後ろにはひたひたと迫る中国があり、それが今の日本の状況を示していると思う。技術力や経済基盤は今は強いが、はっきりとした弱みは、対内投資が少ない、観光客も来ない、日本へ呼び込む力が弱いという点だ。またチャンスとしては、今後、知的財産の蓄積、環境技術といったものが武器になっていくだろうし、リスクはインフラ、教育といった点に見られる。
 今後、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)が進むに従い、われわれもアジア大のマーケットで活躍しなくてはならないように、いやおうなくなっていくと思う。そのときには今日本の国内で製造業が強みを発揮している物流、いわゆるジャスト・イン・タイム、看板方式というものを支えているのがITと物流なので、これが伴わなくてはいけない。今のように事業自体がアジア大に広がるとすれば、当然シームレス物流という形で、アジア全体に物流のシステムが組み立てられなければいけない。そのような視点に基づいて、先般行われたIISTの現地調査に参加した岩部氏から、一次情報を提供していただきたい。

 岩部 恒三・アジア物流開発株式会社専務取締役:ミャンマーで行った調査によると、 現地では実際に道ができ、橋もかかっているが、色々な問題が存在する。例えばトラックが高速で走るため、道路は傷んできている。また道路が住民の生活道路にもなっており、安全面での対策も必要だと感じた。また東西回廊ではベトナム-タイ間については日系物流業者による双方向の輸送が始まっているが、ミャンマーサイドは手つかずの状況だ。ミャンマーからの輸送は非常に時間がかかり、とくに山岳道路の道路状況は極めて悪い。また輸送の途中で生じる積み替え作業でもフォークリフトなどはなく、手積みしているような状態だ。そのほか通関手続きなど、調べてみなければよくわからないことも多いが、情報を持っているところがあまりない。ミャンマーにはすでに日系メーカーが数社出ており、実際に作業に困っていると聞く。

開催風景1


発表2「ミャンマーの労働力の現状と今後」


特定非営利活動法人メコン総合研究所事務局長
岩城 良生

岩城 良生 ミャンマーの総人口は5,540万人で、これは2006年現在の推定だ。推定というのは1983年以降、ミャンマーでは人口に関するセンサスを行っていないためだ。15-59歳の労働人口が現在、3,274万人程度と見られ、これは総人口の約6割に当たる。また15歳未満の人口も全体の32.57%を占め、今後の労働力も期待できる。
 労働人口のほとんどは農民だが、ヤンゴンやマンダレー周辺には工業団地もある。2005年には国内に、77の政府系の労働事務所(TLO)があり、工業団地や工場で働きたい人たちはここに登録し、雇用主もここを通じて採用する。しかし登録しても就職先が見つからない人が増えており、全体の約8分の1か9分の1程度しか就職できていないと見られる。
 では、就職できない人たちはどこへ行くのか。ミャンマーからはこの数年、多くの人が海外へ出ているが、その正確なデータはどこからも得られない。1985年には外から観光客が入ってきて数万人のミャンマー人が海外に出るという感じだったが、2005年にはその数十倍以上が出国するようになっている。そのほとんどが、ミャンマー人の海外流出だ。データに登録されているだけでも、おそらく200万人ほどが出ているのではないか。出国で多いのは陸路で、それらの人たちはタイや隣接している5つの国へ流れていると思われる。
 ミャンマーの労働力は豊富だといったが、実際には海外流出が20年前から始まっている。1988年にはビルマ式社会主義が崩壊し、その後は軍事政権の誕生によって第一次の頭脳流出が始まった。これは現在、「88年世代」といわれる世代だ。その後2000年代になって、米国やEU(欧州連合)の経済制裁による影響、ミャンマー国内の不景気によって労働者級の人たちによる第2弾の海外流出が始まった。その出国者数は、2001年からどんどん増えた。
 正式なデータはないが、タイには現在60-80万人のミャンマー人がいると見られる。職業としては、労働者、3Kの仕事が多いが、その一方で、大学教授や国連機関に務めている人たちもいる。そして最近、多く流出しているのはシンガポールだ。シンガポールにも約20万人のミャンマー人がいるといわれ、タイとは異なり、技術を持っている人、エンジニアやIT技術者、看護士などが多い。そしてシンガポールで技術やノウハウを高め、それから第三国、とくにアメリカ、オーストラリア、カナダなどへ移住しようと考えている人が多い。さらにミャンマーの工業団地からの社員の流出も始まっており、企業は人材不足に直面している。
 私もその1人なので、あまりそれが悪いとはいえないが、海外に出ている人たちが何かの形でミャンマーの今後の国づくりのために役立てることを期待したい。

開催風景2
(文責:貿易研修センター・講師肩書は講演当時)

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担当:総務・企画調査広報部