第86回-2 中央ユーラシア調査会 「湾岸雑感-カタール、バハレーン、ドバイ」(有)ユーラシア・コンサルタント代表取締役 清水 学【2008/05/26】

日時:2008年5月26日

第86回-2 中央ユーラシア調査会
「湾岸雑感-カタール、バハレーン、ドバイ」


(有)ユーラシア・コンサルタント代表取締役
清水 学

1. 地域金融センターを目指す湾岸諸国
清水 学     3月下旬に湾岸諸国のバハレーン、ドバイ、カタールとエジプトを回った。湾岸諸国は現在オイルダラーで潤い、開発ブームであるが、同時にどの国もいずれ枯渇する石油を考慮に入れて、いわゆる石油に依存しない経済への移行を課題として掲げている。GCC(湾岸協力会議)のメンバーである6カ国(バハレーン、アラブ首長国連邦、カタール、サウジアラビア、クウェート、オマーン)のうちオマーンを除いた国々5カ国は、いずれも地域的な金融センターになろうとしている。バハレーンは金融の面では一番経験がありオフショア・バンキングの分野で、中東では老舗という優位性を持っている。ただ石油、ガス資源がほとんど枯渇しており、自国の石油収入なしでの金融だけで自立できるかどうかという問題がある。なおバハレーンは小さな国だが、金融関係で働いている人はバハレーン人だけで1万人ほどにのぼる。
 次にドバイであるが、アラブ首長国連邦(UAE)の有力構成国であるが石油はさんしゅつしない。UAEの石油産業の中心はアブダビであるが、アブダビから直接的・間接的に恩恵を受けている。ドバイは2004年9月にドバイ国際金融センター(DIFC)を開設し、これはオフショアであるが、それを2005年9月にドバイ国際金融取引所(DIFX)を拡大した。現在は国内証券取引所を傘下におくドバイ取引所の下部組織になっている。ドバイの地域金融センターになろうという野心は、国際間の各証券所の勢力争いとも重なったかたちで展開している。ドバイが積極的にアプローチしているのは、アメリカのナスダックであり、ナスダックとドバイと提携を深めようとしている。
 他方カタールは2005年5月、カタール金融センターを発足させた。カタールは現在、ロンドン証券取引所(LSE)の株式を10数パーセント保有しており、同時にロンドン証券取引所の方もかなり熱心にカタールにアプローチしている。カタールの場合、一人当たり所得が湾岸ではトップで、昨年の段階で6万2000ドルぐらいという高所得国だ。金融力をバックに、カタールも有力な地域センターになりたいと頑張っている。
 サウジアラビアも最近、地域金融センター育成に熱心だ。湾岸という狭い世界で金融センターが数多く併存することは不可能で、おそらくどこかが没落し、どこかが勝つだろう。あるいはうまくいった場合には、一種の分業関係ができると思うが、今はどこも大体メニューが同じだ。その1つは、イスラム金融である。ただ今後、石油とガスを背景にしている国と、石油とガスが必ずしも十分でないところとの間で金融市場育成という点で格差が出てくるかもしれない。 

2.インフレ対策を妨げるドル・ペッグ
 もう1つの話題はGCCの今後である。地域統合としては一応共同市場を発足させたが、域内貿易の比重はネグリジブルである。2010年に共通通貨を導入する計画になっているが、具体的な日程は先送りされており、中央銀行の所在地も決められていない。
 現在、最もセンシティブな問題の一つは、物価上昇の加速化の問題である。1つの要因は、湾岸諸国通貨がドル・ペッグ制をとってきたことである。金利政策を通じるインフレ対策はドル・ペッグ政策維持と矛盾するため、せいぜいできることは預金準備率を若干引き上げたり、銀行の融資額を若干縮小するという程度に限られている。したがって、ドル安の影響をもろに受けて輸入インフレにさらされている。
 ドル軟化の否定的影響には、対外資産の目減りという問題安もある。その中でドルペッグ制を離脱したいという話も、時折インフレ対策として漏れ聞こえてくる。今までクウェートだけが唯一、2007年5月にドル・ペッグ制から通貨バスケット方式に移行したガ、ドルの比重が高い点は変わっていない。なぜ湾岸諸国がドル・ペッグ制を離脱できないかというと、安全保障を含むアメリカとの関係があると見られている。湾岸では政治と経済が深く絡み合っている。

3. 注目すべきカタールの全方位外交
 次にカタールについてみたい。カタールの天然ガス埋蔵量は世界第3位であり、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国になっている。カタールのハマド首長(国王)を、非常に注目すべき人物だと思っている。1995年6月27日に無血クーデターによって、当時の首長(国王)だった父親を追放して無血クーデターで王座に着いた。ハマド首長の何が注目すべきかというと、野心的かつ慎重なバランスのとれた改革路線を追求していることである。サウジアラビアと同じ宗教的には厳格なワッハーブであるは、自由化と民主化をそれなりに進め、2003年には三権分立も定めている。1998年には情報省を廃止、新聞などのメディアへの検閲も廃止した。飲酒については比較的寛容だが、その一方で、家族重視の面などではタガをはめている。
 特に注目すべきは安全保障政策であり、対米関係の重視が主柱で、イラク攻撃のため空軍基地の使用権を承認し、協力している。しかし他方では、「アル・ジャジーラ」というテレビ局を1996年にハマド首長が自ら1億5000万ドルを出して設立している。「アル・ジャジーラ」の特徴は基本的に報道の自由を認めている点にあり、これはアラブ世界にとって一種の革命的なことである。「アル・ジャジーラ」の自由な報道は周辺アラブ諸国の間でも摩擦を引き起こしているが、アラブの大衆からは最も信頼されているメディアとして権威を確立している。
 「アル・ジャジーラ」はカタールのような小さな国の特異な安全保障政策と見る向きもある。カタールのような小国は、いざ外国軍が攻めてくればひとたまりもなく、武力で守ることはできない。「アル・ジャジーラ」のような自由なメディアの存在は地域的にも国際的にも大衆的な支持層を生み出し、「自由なメディアを持っている国を占領するとは何事か」という国際世論をつくり、それを安全保障上の一つの防波堤にしようとする目的があるとする見方がある。
 そのカタールは全方位外交を展開しており国際的にも注目されるようになっている。カタールは有能な調停国としての多くのカードを保有している。イラクへの戦争に全面協力する一方、サダム・フセインの家族を受け入れている。またイスラエルを事実上承認しており、通商代表部を受け入れている。同時にパレスチナのハマスの指導者も積極的に受け入れている。2、3日前にはハマド主張はレバノンの内戦危機の調停役として動き、内戦を回避して和平を構築するうえで成功した。これは他の国々にはできなかったことであり、私はカタールの役割は非常に大きかったと見ている。その結果、レバノンの新大統領がようやく決まった。カタールはイランとの関係改善でも非常に努力している。というのは、アメリカが仮にイランを攻撃した場合、アメリカに基地を貸している関係上イランから攻撃をされる可能性があるためである。それだけではなく湾岸地域の安定のためにイランとの関係改善に努力している節もある。イラン問題、中東和平、レバノン、イラクなど中東地域の問題に小国でありながら重要な役割を果たし得る可能性のある国としてカタールを注目すべきであるというのが私の考えである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部