第19回 IISTアジア講演会 「ポストオリンピックの中国経済」~株式バブルと人民元の行方を中心に~(株)野村資本市場研究所 シニアフェロー 関 志雄【2008/02/28】

講演日時:2008年2月28日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第19回 IISTアジア講演会
「ポストオリンピックの中国経済」
~株式バブルと人民元の行方を中心に~


(株)野村資本市場研究所 シニアフェロー
関 志雄

関 志雄1. 進むインフレと中国が直面するジレンマ
 中国の景気動向の見通しは、必ずしも楽観的ではない。最近インフレが急速に進み、1月には7.1%上昇した。またこれまで上昇してきた株価と不動産価格も、調整局面に入りつつあり、背景には金融引き締め政策と人民元切り上げがある。日本では北京五輪までは大丈夫でその後に調整するとの見方が一般的だが、私は中国経済が五輪前にすでに減速する可能性が高いとみる。
 中国における近年の株価上昇の背景には、(1)好景気に伴う業績の向上、(2)企業所得税率が2008年以降、33%から25%に引き下げられることになったこと、(3)人民元が上昇圧力にさらされ、これをかわすために外為市場へ介入することによって過剰流動性が生じたこと、(4)2005年春に始まった非流通株改革-といった4つの要因がみられる。人民元に関して日本のマスコミでは、最大の貿易赤字国であるアメリカが強く圧力をかけ、切り上げを要求していると報道されている。これは間違いではないが、中国側の事情もみる必要がある。
 中国は非常に大きな対外収支の黒字を抱えており、政府は介入という形でこれを吸い上げている。これにより外貨準備が増えるが、もう一方で人民元の発行残高が増え、一種の過剰流動性が生じている。その結果、物価は上昇し、さらには株や不動産価格といった資産価格も上昇している。政府はこの過剰流動性を抑えようといろいろやってみたが、なかなか効かない。実は教科書にこれに沿った状況があり、それは国際金融の三位一体説、トリレンマ説といって、中国に限らずどこの国でも(1)自由な資本移動、(2)独立した金融政策、(3)固定為替レート-の3つを同時達成することはできないとする。したがってどれか1つを放棄することで、3つのタイプの為替制度が分離可能になる。
 中国では建前上、資本規制があるが、これが効かなくなってきている。また2005年7月以降、管理変動制に移行したが、まだまだ管理に重点が置かれ、変動はあまりみられない。この状況ではやはり、金融政策の制約が依然として高い。最近、中国政府が人民元切り上げの加速を容認するようになった背景には、インフレを抑えるため為替政策を活かさなければいけないという認識が強くなっていることがあるのではないか。

2. 証券市場における非流通株と流通株の二元構造
開催風景 中国では1990年に上海の証券取引所ができたが、社会主義の1つの柱である生産手段の公有制、つまり国営企業中心という点は維持しようとしてきた。したがって上場企業でも、3分の2の株は国が持っているか国有企業の間の持ち合いで保有されている。前者は国有株、後者は法人株といわれ、あわせて非流通株という。しかし、これによって国有大株主による中小の流通株主の権利に対する侵害が生じている。1999年と2001年には、非流通株の放出が行われて株価の暴落が生じ、政府はこれを中断した。この教訓を踏まえ、2005年春に本格化した非流通株改革ではいくつかのルールを用意した。重要なポイントは、(1)企業は非流通株主が流通株主に「対価」を支払うことを前提に、自ら非流通株を売却する方法を決める、(2)売却案は臨時株主総会で議決されなければならず、議決に参加する流通株主の議決権の3分の2の賛成が必要、(3)国有・法人株が流通株に転換されても、市場への放出は1年間認められず、2年目も発行済株数の5%以内に制限される-というものだ。(3)は実は、今後の株価をみるうえで重要だ。株を売ってもよい状態になる時期は、2009、10年にまとめて訪れる。
 中国の株価収益率(PER)をみると、50倍前後と非常に高く、今後株価が下がるリスクをみておく必要がある。その一方で中国はまだ経済発展では最初の段階にあり、私はたとえバブルが崩壊しても、日本のように長期低迷に陥らず、比較的短期間で回復に向かうと考える。

3. 科学的発展観と地域格差是正への方策
 2002年に登場した胡錦濤・温家宝政権の経済政策の綱領ともいうべきものは、「科学的発展観」だ。これは2つの柱から成り、1つ目は5つの調和といって(1)都市部と農村部の発展の調和、(2)地域発展の調和、(3)経済と社会の発展の調和、(4)人と自然の調和のとれた発展、(5)国内の発展と対外開放の調和-だ。もう1本の柱は、投入量の拡大から生産性の上昇による成長へと転換していこうというものだ。
 中国国内にみられる地域格差を是正する方策として、私は3つを提案する。それらは、(1)国内版FTA(戸籍などヒト・モノ・カネの流動化を妨げる要因を除去し、統一した国内市場を構築する)(2)国内版の雁行形態(先発地域による後発地域への直接投資)(3)国内版ODA(地方交付税制度の強化)というものだ。これらは本来、国と国との間で結ぶものだが、中国は非常に大きな国で、省をはじめとする31の行政単位がそれぞれ1つの国であってもおかしくない規模だ。
 また中国では国有企業の効率が悪く、これを民間企業に変えていく、または非国有企業の外資系企業と民間企業を増やしていくことが必要だ。さらに一人っ子政策の影響で今後、少子高齢化が進み、国内の貯蓄率が下がって資金調達が難しくなることも予測される。投入量拡大による成長には限界がみえ始め、高成長を持続するには、生産性を上昇させなくてはならない。労働力に関しても、この30年間の改革・開放を経て、農村部の多くの若い人たちがすでに都市部に移っており、最近は労働力過剰から労働力不足の状況に変わりつつある。
 中国政府は2000年から2020年までに、実質GDPを4倍にする目標を立てている。単純計算でいえば、毎年、実質経済成長率7.2%なら20年間で4倍になるが、昨年の党大会ではこの数値を上方修正し、実質一人当たりGDPを4倍にするという目標に改めた。中国の人口上昇率は年0.7%程度で、この分を乗せにし、目標を年率7.9%としたことになる。 ただしこれは2000-20年までの平均の数字で、実際には2000-07年までの7年に、すでに年平均10%の成長を超えているので、残りの13年間では6.4%の成長率を達成できればよいことになる。私は短期的には調整が必要だというため、悲観的だと批判されるが、中長期的には比較的、楽観的な立場だ。6.5%の成長率は問題なく達成できると思う。ただ今の10%の水準からじわじわ下がり、2020年には6.5%を割る可能性が大きいとみる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部