第21回 IISTアジア講演会 「国際金融不安とアジア」(社)日本経済研究センター会長 小島 明【2008/05/28】

講演日時:2008年5月28日、場所:(財)商工会館

第21回 IISTアジア講演会
「国際金融不安とアジア」


(社)日本経済研究センター会長
小島 明

小島 明 グローバルな経済の同時減速
 1991年は、日本のバブルがはじけたこととは対照的に、世界経済が拡大し始めた時期だ。一方、世界経済全体では高い成長率が続いた1990-2000年代で、グローバル経済全体の本格的な調整は今回が初めてといってよいかもしれない。
 IMF(国際通貨基金)の指標では昨年10月に世界全体の実質経済成長率を4.4%と見ていたが、今年1月にはこれを4.1%とし、4月には3.7%に下げた。とくに顕著に下がっているのは米国経済に対する見通しで、昨年10月以降、1.9、1.5となり、今は0.5まで修正されている。また先進国全体の2008年の見通しは、1.3%ぐらいだ。その影響が先進国以外のアジア諸国やインドなどに及ぶかというと、こちらはある程度、頑張っている。減速はするが先進国ほどでない。いわゆるディカップリング論がこの2年ぐらい盛んに議論されているが、結論的には完全なディカップリングというのはなく、影響が及ぶものだといえる。

サブプライム問題の余波
 現在起きているグローバル経済の同時減速のきっかけは、金融不安だ。金融危機は今回が初めてではなく、歴史的偶然だが10年サイクルでこれまで3度起きている。最初は1987年のブラックマンデーで、1997年にはタイを起点としたアジア通貨危機があった。 そしてちょうど10年経ち、昨年7月にはサブプライム問題が発生する。
危機の起こり方や広がり方はその都度異なるが、共通するのはとりわけ1990年代に入って顕著になったグローバル・インバランスだ。米国が一方的に赤字を続け、米国以外のアジア、ヨーロッパ、そして最近は産油国が加わっているが、それらの国々が黒字を溜めている。このグローバルな国際収支構造の二極分化傾向が広がり、それに対するマーケットからの調整圧力が時折、噴出するという議論もある。そして難しいのは、単純に数字だけの問題ではなく、グローバルなパワーシフトも起きていることだ。基軸通貨のドルが、世界の金融通貨システムから徐々に退位する。しかしすぐにそれに代わる通貨がないため、ドルが基軸通貨となり、絶えずバックグラウンドで振動が起きると議論する人たちもいる。
開催風景 サブプライム問題は悪い借り手に対する融資の焦げ付きと考えられていたが、その議論が次第に変化し、金融システム全体に影響があるということになった。金融証券をこま切れにして他のいろいろな融資、金融商品と一緒にし、パッケージを変えて世界中に売ったため、ヨーロッパを中心に深刻な状況に陥っている。
米国のリセッションはすでに始まったといわれ、それがどこで止まるかが議論の焦点だ。対策はとられているが、まだ半年や10ヵ月は、じめじめした米国の金融、あるいはヨーロッパの金融状況が続くのではないか。

70年代とは性格異なる石油価格の高騰
 グローバルな実体経済の減速がはっきりし、経済見通しを出すたびにその減速幅が大きくなる中、石油を始め一次産品が逆に上げの方向で来ている。これはグローバル・インバランスの問題と絡んでいると思う。世界では資金が余っており、現在資金が足りないのは米国だ。世界的に見ると、例えば中国には外貨準備が1兆5000億ドルぐらいある。そして石油が値上がりしているため、オイル・ダラーが累積されている。また天然ガスが高く売れ、ロシアの外貨準備も増えており、世界の外貨準備は今、6兆ドルぐらいある。
 米国の金融不安を背景に経済が減速し始めているのに、資源、エネルギーの需要の伸び、価格は上がっている。これはお金のメカニズムと実物経済のメカニズムが離れた結果の現象だと指摘される。70年代のオイル・ショックと、今回の石油価格行動は異なる。今回は中国やインドのような、エネルギー効率のよくない国々が急速に成長し、マーケット・ショックは供給面からではなく需要面から生じている。もちろん、金融投機面の要素もあるが、ベースとしての価格を押し上げる要素が70年代とは異なり、100ドル絡みのトレンドが長く続くという見方が強くなっている。

サブプライム問題のアジアへの影響と求められる人民元の調整
 アジアは米国の金融商品に対してあまり手を出していなかったので、サブプライム問題の直接的な影響はマージナルで、影響はむしろ間接的だ。米国、ヨーロッパ、日本の景気減速によって、先進国向けの輸出市場の伸びが減速している。
 一方、中国、そして一部のアジアの国で問題なのは為替で、グローバル・インバランスをどう調整するかという問題が絶えずある。問題は人民元を始めとする、アジアの為替レートだ。中国では、毎年数千億ドルの外貨が溜まっており、その分、人民元、自国通貨が供給され、全体としてインフレ基調になっている。最近のG7の蔵相、中央銀行総裁会議における声明でも、「人民元は引き上げる必要がある」と繰り返し指摘している。
 アジアについて見る場合、重要なのは人民元の調整をどうするかだ。アジアの域内経済は相互依存が深まり、域内貿易比率は50%を超えている。したがって、域内の通貨関係が安定化する方が各国にとって都合がよい。安定するには、とくに主要通貨である人民元が実力からあまり大きくかけ離れると、ある日突然大きな調整を行うことになり、影響が大きい。したがって早めに実力並みの水準に調整した後、アジア各国の通貨が一緒に動けるような形にするのが一番よい。ただし各国の経済格差があるので、まずは共通の経済通貨単位をつくることから議論されている。
 今のサブプライム絡みの金融不安のアジアへの影響はマージナルだが、米国発の金融不安の広がり、米国の危機のコンテージョンということが盛んにいわれ出している。その行方次第で、アジアに対しても効いてきて、人民元の調整が早まるかもしれない。そのときの対応を日本としてもどう考えればよいのか、十分検討していく必要があると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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