第23回 IISTアジア講演会 「最近の台湾情勢と中台関係」台湾長榮大学 教授 喜田 修【2008/07/29】

講演日時:2008年7月29日

第23回 IISTアジア講演会
「最近の台湾情勢と中台関係」


台湾長榮大学教授
喜田 修

喜田 修1. 総統選での国民党圧勝
 今年3月22日の台湾総統選では、国民党候補の馬英九氏が民進党候補の謝長廷氏を大差で破り、勝利を収めた。今年1月の立法委員選挙でも国民党は圧勝した。国民党はその前の台湾における統一地方選挙でも勝っている。その延長で総統選においても、国民党の勝利を予想はしていたが、私が驚いたのは、票差が約200万と予想以上に大きかったことだ。
 その背景について考えてみると、一つは国民党による金権選挙がある。国民党は資金力が強く、実は世界一お金持ちの政党だ。もちろん8年間の民進党の陳水扁政権で、かなり目減りはしたが、今なお資金力は圧倒的に強い。それは国民党が大陸から逃れて台湾に移転したとき、日本が置いていった財産(日産)を全て没収し党の財産にしてしまったためだ。民進党の陳水扁時代に、国民党の財産を精査し、国有化する法案を準備したが、立法院(議会)では国民党が多数で、この法案は潰された。台湾の民主化はまだ歴史が浅く、選挙では「票を買う」現象も広くみられる。
 ただ国民党の金権だけでは、これほどの票差は出ない。国民党よりも統一志向で、国民党から出ていった人たちがつくった政党で親民党(宋楚瑜主席)というのがあり、国民党はこの親民党と、総統選を通じ緊密に選挙協力して、民進党より政権を奪還すべく、背水の陣で臨んだ。他方、民進党は謝長廷氏に候補を絞る過程で党内予備選挙を行い、4人の民進党の幹部が争ったが、そのしこりが総統選挙戦にも尾を引いた。また、国民党は豊富な資金をマスメディアに注入しておりマスメディアが大々的に馬英九氏の清新イメージを売り込んだこともあり、大量の浮動票を吸収した。選挙公約を見ると、馬英九氏は経済面では両岸共同市場を売り込んでいた。民進党は台湾の自立性と安全確保のため、これに反対したが、経済界の指導者は両岸経済関係の強化に前向きだった。そしてもう一つの大きな要素は、2期8年続いた民進党の陳水扁政権が成果を上げられず、また政権トップの金銭疑惑もあり、台湾人の期待を裏切ったことだ。
 こういうと全てが国民党に有利に動いたように見えるが、そうではない。民進党に有利な要素もたくさんあった。台湾では現在、「自分は台湾人だ」という台湾人意識が非常に高揚しており、これは民進党にとって最大の追い風のはずだった。そして3月10日に起きたチベットの暴動も、民進党にとって非常に有利な材料だった。チベットの悲劇は即台湾の悲劇だということで、中国政府の武力弾圧体質を糾弾し、統一志向の馬英九氏を批判することに繋げた訳である。ただ、これらはある種の空気のようなもので、なかなか具体的な民進党支持票には結集できなかった。
 また今回の総統選挙では、投票率が非常に低かった。従って、本来は民進党へ行くべき南部の基礎票も、あまり伸びなかった。更に、国民党は民進党の支持者が多いところで、金をばらまき、台湾では選挙に必携の国民身分証明書を一時的に預かり投票に行けないようにして民進党の支持票を棄権に追い込んだという話までも聞いた。
 今次総統選と同時に住民投票も行われ、そのテーマは台湾が台湾名義で国連に加盟することについてイエスかノーかというものだった。これは民進党が提案したもので、国民党も対抗上、中華民国による国連復帰という案を出したが、これらはいずれも不成立となった。

2. 馬英九氏の対日観及び李登輝氏との関係
 馬英九氏は選挙期間中も就任演説でも、統一志向と見られる発言を慎重に避けている。しかし、彼自身は従来より「終局統一」を持論としており、統一色を強く出すと台湾人意識が高まっている大多数の台湾人の反発を招くため、選挙戦ではなるべく出さずに現状維持路線を打ち出した。
 しかし、5月20日政権が発足し、すぐに始まったのは大陸との交流拡大で、具体的な例が両岸定期航空路の開設、大陸の観光客への台湾観光旅行の開放だ。
他方、就任後まもない6月10日には尖閣周辺で、日本の海上保安庁の巡視艇と衝突して台湾遊魚船が沈没する事件が起きた。日本側が早い時期に台湾側に謝罪と補償を申し入れて解決した。最近の一連の日台関係の動きを見ていると、馬英九氏は自分が反日だと思われていることを非常に気にしており、自分は知日派であり、日本語の勉強も熱心に取り組んでいるとあちこちで宣伝しているが、馬英九氏はかつて、ハーバード大学大学院に留学中、「尖閣は中華民国領である」というテーマの論文を書いたことが象徴するように、本質的には反日的で中華意識の強い人物であることは否定できないと思われる。
開催風景 また、新聞報道で見る限り、馬英九氏と李登輝氏は意外と親密なようである。馬英九氏が当選して最初に挨拶に行ったのは李登輝氏のところであると伝えられている。かつて台北市長の選挙に出馬した外省人である馬英九氏を「新台湾人」として売り込んだのも李登輝氏だった。

3. 台湾の「統独問題」
 台湾が統一すべきか独立かという問題については、あちこちの台湾の世論調査を見ると、大体同様の結果が出ているようだ。例えば07年12月のある調査を見ると、「直ちに統一」が3.3%、「現状維持後に統一」が9.5%、「現状維持後に決定」が46.3%「永遠に現状維持」 が21.2%、 「現情維持後に独立」が12.2%、「直ちに独立」が7.5%で、広い意味で現状維持というのが台湾の世論の基調だ。
 総統選挙を通じて見ると、最近来の台湾社会は日本人の頭にある外省人と本省人の対立だけでは捉えることができない大きな底流の変化を感じる。外省人というのは蒋介石と共に大陸から渡ってきた中国人で、本省人というのは従来から台湾に住んでいる台湾人だ。両者の対立反目が戦後の台湾史の基本的構造であった。
 台湾の将来は2300万の台湾人の民意で決められるべきであるというのが台湾人の主張であるが、なかそうはいかないだろう。日本には、胡錦涛政権から徐々に大陸の民主化が始まり、将来的には今の共産党による一党独裁体制から多党化、民主化の方向に行くのではないかという見方もある。そういう時代になれば、台湾問題でももう少し柔軟な考え方が、出てくるとの考え方もあるが、私の個人的な見方では大陸の若い世代、インテリ層程台湾統一に強硬論が多いように思う。
 今年は民国97年に当たる、辛亥革命から97年で、馬英九氏の任期内に民国100年、辛亥革命から100年の歴史的年を迎える。
 辛亥革命は孫文が行った革命で、孫文は中華民国ではもちろん尊敬されており、中華人民共和国でも評価が高い。そうなると、これを機に「われわれは皆、孫文の思想的な系譜を引いている」、「共産党も孫文の流れを汲み、中華民国の蒋介石も蒋経国も孫文の直系の弟子だ」と大々的に大陸が台湾に呼びかける可能性があろう。そのようにして、孫文という共通の土俵に台湾を引っ張り込めば、馬英九氏の持つ中華至上的体質としては、受け入れる可能性もあるかもしれない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部