第27回 IISTアジア講演会 「オバマの当選と新政権の課題-対アジア外交を中心に」東京大学法学部教授 久保 文明【2008/12/10】

講演日時:2008年12月10日

第27回 IISTアジア講演会
「オバマの当選と新政権の課題-対アジア外交を中心に」


東京大学法学部教授
久保 文明

久保 文明1. 2008年の米大統領選とオバマの勝因
 今年のアメリカの大統領選挙への関心は非常に高かったようで、3月から4月にかけて24ヵ国で行われた国際比較の世論調査によれば、アメリカ人では80%の人が「関心がある」と答えていたが、日本人では何と83%が「関心がある」と答え、アメリカ人以上だった。
 まだ大統領になっていないのに支持率というのもおかしいが、アメリカは何でも世論調査をする国で、大統領選投票日直後のCNNの調査によれば、オバマの支持率は78%だった。これはこれまでで最も高い数字で、おそらくこの選挙の歴史的な意義を感じた人が多かったためだろう。また今回の選挙でのオバマの支持者にはかなり、普通の候補にはない強い熱意があったのも1つの特徴だ。そういう意味で、敵失だけで勝ったとはいいがたい部分もある。
 オバマを熱心に支持した多くの人にとって、今回の選挙は「アメリカとは何か」をかけた選挙で、「アメリカは、本当はよい国なのだ」ということを再確認したいという部分がかなりあったのではないか。オバマを当選させることで、アメリカは人種の問題ではあまり偏見がなく、どんな生まれの人も能力さえあれば大統領になれる、ブッシュのアメリカだけがアメリカではない、ということを再確認したかった。
 その一方で人種に関する偏見はやはり存在し、オバマはある程度、損をしている訳だが、逆にオバマが黒人であるがゆえに得をした部分もある。民主党系の白人もそうだし、教養、学歴の高い白人が、共和党の穏健派も含め、オバマを当選させることそのものに重要な意義を感じ、アメリカの歴史を変えるという意識がかなりあった。今後、ある程度の厚さのアメリカの歴史が書かれる際には、「2008年11月4日に初の黒人大統領が当選した」と書かれるだろう。そういう意味では、過去に奴隷制を持った国における歴史に残る大統領選となった。

2. 今後の政権運営の見通し
 上院議員としてのオバマは、民主党では一番リベラルだといわれており、最初の支持基盤はイラク戦争に反対した反戦左派だった。しかし今回の人事にも見られるように、オバマは民主党での勝利、民主党の指名を確実にした後、相当、中道に移ってきている。元々彼のレトリックは、「民主党と共和党で、アメリカは分断され過ぎている。自分はアメリカの政党対立の壁を壊し、まとめる」というもので、明らかに中道志向が伺われる。人事についても非常に手堅いのが特徴だ。最初に副大統領候補でバイデンを選んだ時点で、私はそう感じた。

開催風景 彼には華やかさはないが、能力や経験を高く評価されている上院議員だ。そしてエマニュエルを首席補佐官に任命したが、彼は日本ではあまり知られていないがかなり有名な人物だ。
  経済政策を含めて今後の政権運営の仕方だが、オバマのモデルは今2つあり、1人はリンカーンで、これは敵だった人も閣内に向かい入れる手法だ。そしてもう1つはフランクリン・ローズベルトで、経済危機のときに何をしたかをよく研究しているといわれる。ローズベルトのときのモデルは「最初の百日間」というもので、金融恐慌の只中、矢継ぎ早にいろいろな法律を通した。当時の経済危機の状況は今回のものとは異なるが、オバマはそれをモデルにしていると思う。また5000億、7000億ドルという数字もあるが、大型支出を行い、相当思い切ったことをやっていくのではないか。

3. アフガニスタン重視の外交、今後の対アジア・日本政策
 外交では、アフガニスタンが重視されるだろう。オバマ政権の最優先課題は内政、経済危機への対応であり、外交やアジアなどは最優先ではない。そして相当、思い切ったお金の使い方をしてくる。そのときに外交をどう考えるかだが、内政、経済の建て直しを考える際にも国際的な枠組み、協力は必要なので、そういう意味でいろいろな形での協力を求めてくるだろう。
 外交ではイラク、アフガニスタンがかなり重要で、イラクについては安定を崩さない形でなるべく早く撤退する。他方、アフガニスタンについては、「増派する」といっている。しかし増派して仮に4年後、再選前に米軍の死者がますます増え、混乱がひどくなって撤退の目処も立たないということになれば、政治的にも相当マイナスになると思われる。
 当然これは、日米関係にも影響を及ぼすだろう。アメリカ、オバマ政権からするとやはり、手伝ってくれる国がありがたいということになり、NATO基準でいえば、「一緒に戦ってくれ」となるが、もちろん日本にはこれはできない。ただアジアの外交を考える際、日米同盟が基軸だという認識は強くある。日本もある程度、軍事力以外の方法で知恵を出し、いわれたからやるというのではなく、「こういうアイディアはどうか」、「日本はこれをやる」という形で絡んでいけば、それなりに評価を得ることは可能だろう。またアメリカ側には、インド洋の給油をそのまま続けてほしいという要望が強い。
 オバマ外交の1つの懸念としては、これは北朝鮮、イランにも関係するが、「交渉をする」、「交渉路線で行く」というのが基本にあることだ。ただ交渉を本当に始めると、成果が出ない場合にどの段階でやめるかということになる。相手が譲歩しないと思った段階で交渉をやめる必要もあるかもしれず、また違う戦略に転換すれば、政策を変えるだけで「交渉路線が失敗した」と見なされる可能性もある。交渉することの一般的な危険は、常にある。
 また日米関係をめぐって冷戦のときと非常に違うのは、日米安保条約の構造上、アメリカが攻撃された場合に日本が助けるという義務は直接なく、冷戦のときにはあまりそういうシナリオを考える必要もなかったのだが、テロの時代にはやはり9.11で実際にアメリカが攻撃され、日米安保の論理で「同盟国だから助けてくれ」ということになる。集団的自衛権を認めるといった希望が、アメリカ側に強いのは確かだと思う。
 民主党政権は共和党政権よりもグローバルな問題に関心を持っており、例えば地球環境問題や国連の強化、ODA(政府開発援助)の問題などについて共和党よりも熱心で、それは日本の外交の基本的な方向性と合致している。日本としては今後、そういったところでいろいろなことを提案し、やっていくことが可能ではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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