平成20年度 第1回 国際情勢研究会 「最近の北朝鮮情勢-日朝実務者協議、6者協議を中心に-」 静岡県立大学 大学院国際関係学研究科教授 平岩 俊司【2008/07/18】

日時:2008年7月18日、場所:(財)貿易研修センター

平成20年度 第1回 国際情勢研究会
「最近の北朝鮮情勢-日朝実務者協議、6者協議を中心に-」


静岡県立大学 大学院国際関係学研究科教授
平岩 俊司

1.核問題とシンガポールアグリーメント
平岩 俊司 一昨年10月、北朝鮮が核実験を行った。一連の核危機は1980年代後半ごろ始まり、第一次核危機といわれるのは1990年代前半で、これは94年の米朝合意枠組で1つの区切りをつけた。当時はクリントン政権だったが、その後のブッシュ政権は、abc、anything but Clintonといわれ、クリントン政権期の合意をことごとく否定してきた。ブッシュ大統領は北朝鮮とアメリカのそれまでの合意枠組について、北朝鮮に意図的に破らせようとした節がある。
 2002年9月17日に当時の小泉純一郎首相が北朝鮮を最初に訪問、その直後に当時のケリー国務次官補が北朝鮮を訪問し、いわゆる高濃縮ウランの計画に言及した。そして北朝鮮が認めたということで、今回の一連の核危機が始まる。北朝鮮を国際的連携で追い込み、アメリカと中国、北朝鮮の3者による協議を経て、6者協議が始まるが、その後も基本的にはアメリカは2国間協議に応じなかった。しかし、昨年10月に北朝鮮が核実験をした直後から、積極的にこれに応じるようになった。
 6者協議では北朝鮮の核問題を6カ国が扱い、かつ中国が議長国になり、6カ国協議の首席代表会議の下部組織として5つの作業部会を行う。首席代表会議で大枠が決まると、その次の会議が決まるまでに作業部会で細部を詰めるのが本来の姿だが、昨年1年間を見るとむしろ米朝が先に進み、それを6カ国協議が後付けする状況だ。
初期段階の合意は、昨年2月13日に行われた。北朝鮮側はまず核関連の施設を凍結し、国際社会は見返りに5万トンの重油を供給する。そして第二段階は、北朝鮮の核計画についての申告、核の無能力化、その見返りとして残りの95万トンの重油供給、そしてアメリカが個別にテロ支援国リストから北朝鮮を排除することだった。
 しかし第二段階の履行については、「完全かつ正確な核申告」と「核の無能力化」の範囲をめぐり、昨年からこう着状態に陥っている。最終的に4月8日にシンガポールで米朝が交渉し、一応の合意が行われ、それを受けて6者協議につながっていくのが全体の構造だったようだ。アメリカの思惑については、昨年のベルリンでの合意の段階、あるいは北朝鮮が核実験を行った直後から、アメリカはプルトニウムに限定しているといわれてきた。今の状況でブッシュ政権が終われば北朝鮮問題を明らかに悪化させたことになるため、ブッシュ大統領はクリントン政権がやった核開発の凍結よりも、一歩進んだ形で無能力化をさせたい。
 そして今年4月には、何とかシンガポールアグリーメントを持つことができた。こうなると6者協議で扱うには日朝が進まなければいけない、という構図ができる。しかし、日朝の作業部会はなかなか進まなかった。その1つの理由は、安倍政権が突然終わったことだ。福田政権が誕生し、北朝鮮側や韓国、中国が気にしたのが、昨年10月13日に日本が独自に行った制裁を解除するかどうかだった。しかし北朝鮮側が変化した訳ではないため、これは維持された。独自制裁は6ヵ月ごとに延長されるので、次の機会は今年4月13日だったが、これも同様に延長された。北朝鮮からすれば、日本の政権と関係を改善するには複雑なプロセスが必要で、時間がかかるが、「福田政権はどこまで持つのか」と考えていたようでもある。

2.日朝実務者協議
 6月11、12日の2日間にわたり、北京で日朝実務者協議が行われた。拉致問題について日本は、全ての拉致被害者の帰国、真相究明、被疑者の引渡しという従来から北朝鮮に要求している3点セットを要求。北朝鮮側が「拉致問題は解決済み」としていた従来の立場を変更し、解決に向けた具体的行動をとるための再調査を約束した。よど号問題では、日本側はよど号ハイジャック犯5名と妻2名の引渡しを改めて要求し、北朝鮮側は「協力する用意がある」と表明した。さらに不幸な過去の清算、国交正常化後の経済協力、文化財問題、在日朝鮮人の地位問題についても、日朝間で話しあうことになった。
 また最近、アジア太平洋局長、6者協議の首席代表が、金桂冠(キム・ケガン)次官と北京で交渉し、制裁の一部を解除することになった。具体的には、人的往来の規制解除、航空チャーター便の規制解除で、3番目として北朝鮮からの輸入禁止措置や北朝鮮籍船の入国禁止措置は維持するが、人道的な観点から民間の人道支援物資輸送のために北朝鮮籍船舶を入港させたいとの希望が表明される場合、人道支援物資の積み込みに限り認めることになった。しかし、日本側が制裁を解除することについては、世論が極めて強く反発した。
 一方、日朝の協議が進んだので、6者協議が始まる。ここでは(1)核の無能力化についての検証メカニズム、(2)監視メカニズム、(3)エネルギー支援―の3つが中心だった。問題は3番目の核施設無能力化及び経済エネルギー支援で、6者協議は、要するに北が核兵器放棄をすれば、その見返りとしてエネルギー支援及び経済協力をしなくてはならないという、ある種のギブアンドテイクの場になっている。

3.李明博政権の誕生と南北、日韓関係
 そして南北だが、韓国の李明博政権は今、非常に厳しい状況に追い込まれている。政権発足当初、70%ぐらいあった支持率が、その3ヵ月後には一気に20%ぐらいに落ちた。李明博政権は北朝鮮に対して非常に上に立った姿勢をとり、南北の関係を冷却化している。また金剛山観光の女性が射殺される事件が発生し、それ以降、南北関係はますます厳しい。さらにアメリカ産牛肉輸入のBSE問題もあり、そこに竹島問題が出てきた。順番でいうと一番強く出やすいのは日本で、韓国政府はどうしてもこの問題で、弱く出られなかったのだろう。
 盧武鉉政権のとき、2回目の南北首脳会談の前後ごろからいわれていたのは、南北当事者とアメリカ、中国の4者で、平和体制について話をするということだ。その後、李明博政権になったので、その4者協議がなくなったのか、復活するのかというのが今の状況だ。しかし今は南北関係が悪く、また北朝鮮からすれば、米朝がうまくいく間は2国間で行けるところまで行き、それを軸に6で後からエンドースしていく構図がよいだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部