平成21年度 第1回 アジア研究会 ●報告1「ベトナムでの裾野産業の現状と課題」中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー ベトナム経済研究所 研究理事 星野 達哉、●発表2「ベトナム紅河デルタの農村零細事業主と農村工業化」日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 国際交流・研究室 専任調査役 坂田 正三【2009/07/15】

日時:2009年7月15日

テーマ「メコン経済圏におけるビジネス展開の可能性」

平成21年度 第1回 アジア研究会
報告1「ベトナムでの裾野産業の現状と課題」


中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー ベトナム経済研究所 研究理事
星野 達哉

星野 達哉 最近、ベトナムには裾野産業がない、または劣っているという議論が多い。私はその核心にある問題は、ベトナムでその生産品に対する需要が少なく小規模だから、裾野産業が発展しないのだと思っています。裾野産業をやるのは中小企業ですが、国が優遇措置をとってもその事業で採算が合わなければ中小企業の誰もやらない。現在ベトナムではその生産品の需要が少ないため、小規模で限定的にしか行えない。品質を上げ生産効率を上げて金型づくりや金属加工を行う為には、高価な機械装置が必要になり、それを導入して採算をとるには相当の需要が必要となります。
 日系の組立企業(アッセンブラー)によれば、人件費はコストの約10%で、下請けメーカーから調達する部品の費用が70-80%を占めるという。したがって、人件費が安いことよりも、いかに下請けから買う部品が安くなるかがポイントになる。更に裾野産業の素材製造コストが安くなければ競争には勝てない。
 現状を見ると、まず四輪車は、ベトナムでは生産が年間6万台、販売が10万台です。タイでは年間約100万台、マレーシア、インドネシアでは年間約40万台です。普通、車でスケール・メリットを出すには年間30万~40万台の需要が必要です。 従い、ベトナムでは四輪車は需要規模が小さく、その裾野産業は非常に難しい状況にあると言えます。一方、二輪車は全く異なり、東南アジア諸国連合(ASEAN)ではインド、インドネシアに次いでベトナムは第3位の市場で、年間約270万台を生産している。日系のホンダ、ヤマハ、スズキは合計178万台の生産で、その需要は十分あると言えます。現地調達は85%を超えています。電機・電子産業では、例えばテレビの場合、マレーシアは990万台で、タイが650万台、インドネシアが560万台、ベトナムは260万台です。需要の面からベトナムではその裾野産業は限定的で、ベトナムに出ている日系企業は、マレーシアやタイの既存部品工場から部品を調達しています。 
 一方、面白い分野は繊維縫製で、これはベトナムでは原油に次ぐ輸出産業ですが、ほとんど委託加工方式です。ベトナムでは裁断・縫製・仕上げのみを行っており、生地やボタン、ジッパーといった付属品などの資材は全て外国から海外バイヤーが支給しています。そしてデザインの決定、製品の販路、市場形成は、海外バイヤーが行っています。ベトナムでは繊維産業は盛んだと言われていますが付加価値の低い委託加工生産のままの状態で、デザイン力、企画開発力、ブランド力の確立といった高度化は進んでいません。食品加工でも同様のことが言えます。
 現地の日系企業にいわせると、ベトナム人は学習意欲があり教えればできるので、技術レベルはあまり心配していないという。しかし問題は経営者や現場の責任者の品質に対する強い姿勢、改良に対する強い意思の継続性だという。そして問題が発生した場合の対応も課題で、こういう面や企業の人材育成を日本企業のアドバイスによってベトナム企業は学習する必要があると思います。また共産党政権が長い為と思われますが、ベトナム地場企業は、資本主義では最重要な販売に対しする努力が弱く、売り込みの際、非常に遠慮がちでシャイであり、積極性に欠きます。
 私の考えでは、ベトナムで裾野産業をやるにはまず基幹産業の鉄鋼産業、石油化学産業を強化することが必要であり、又、素形材の産業の技術を蓄積する必要もあります。これらが裾野産業発展の為の具体的効果の面で重要です。
 ベトナムの裾野産業には日系企業は結構進出していますが、これらは殆どホンダ、キャノンなど日系企業向け、または日本本社や第三国向けへ輸出している状況です。しかしこういうことを通して、じわじわとベトナムで技術が広がるということになります。時間はかかりますが、技術の浸透の面では効果があります。 
 以上を踏まえて、裾野産業発展の為の政策を、時間を区切って性急にやるのは、あまり具体的実現効果が少なく、やはり基本的な分野、即ち、(1)基幹産業の鉄鋼産業、石油化学産業の強化 (2)素形材産業の技術の蓄積 (3)品質に対する強い姿勢、改良に対する強い意思の継続性や問題が発生した場合の対応等の経営指導・支援、又企業や政府政策推進部署の人材育成が重要と思います。

発表2「ベトナム紅河デルタの農村零細事業主と農村工業化」


日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 国際交流・研究室 専任調査役
坂田 正三

坂田 正三 ベトナムの統計には企業と自営業者が区別されており、自営業者のことを「個人基礎」という。私は紅河デルタを中心に見ているが、この個人基礎が集中した村がいくつもできて特殊な工業発展をしている。農業センサスによれば、2001~06年の5年間で農業を営む人口は減ったが、工業、建設業を営む人口はかなり増えた。また2006年の人口動態の実態調査を見ると、単純に農村部から都市部への人口移動が起きているばかりではなく、農村部から農村部への人口移動もかなり起きている。地域別では、紅河デルタで農村に向かう人口の流れがかなりある。  どうやら農村に起こっている工業化には2つのパターンがあり、1つは工業団地や都市部の外資も含めた工業部門が農村に移転してきているもの、そしてもう1つは農民が個人基礎化し、そこで働く人たちが増えているというものだ。  ベトナムで企業として登録されているのは約13万社だが、個人基礎として登録されているのは330万社と25倍もある。個人基礎の労働者数は、平均1.8人と零細だ。農村部の個人基礎は、全国の個人基礎の約80%を占め、製造業でいえば60万軒、従業員は140万人ぐらいである。これは農村部の製造業に従事している人の半分ぐらいが、個人基礎で働いていることを意味する。  また紅河デルタには零細企業が集中している「工芸村」、手工業をかなりやっている村がたくさんある。元々、伝統的にあった村もあれば、90年代から急速に発展した新しい村もある。工芸村では主に、近代工業部門で製造しない日用品、例えば爪楊枝や笠、竹製品など、そして低級品を製造している。その中でも、工業化のレベルを上げてかなり成功している村がある。廃棄物のリサイクルをしている村などがその例だ。経営者のほとんどは村の人たちで、彼らはずいぶん金持ちだ。働いているのは皆、周辺の村や遠くの方からやってくる労働者で、規模の大きいところでは、ある程度、技術を持った人の月給は200万ドンぐらいで、これは日系企業と同じくらいのレベルだ。技術的には中古機械を入れ、技術を習ったりせずに近所の真似をして始めているというケースがほとんどだ。  私はこの農村の工業に、非常にポテンシャルを感じている。直近では話にならないレベルだろうが、少し時間が経つとこの辺の人たちの存在がベトナムの工業化全体にとって意味を持ってくるのではないか。ただし、今のままであと10年続けられるかというとかなり難しい。1つには、国全体の所得が上がっているため、彼らが生産する低級品の市場がどれだけ続くかという問題がある。そして中国製品の低級品もかなり入っているので、それらと競合する。  生き残るシナリオは2つあり、1つは個人基礎で働いている労働力を大企業あるいは中小企業が吸収し、中小企業が大規模化する形で労働力が吸収されるシナリオだ。もう1つは、彼らがそのまま発展して中小企業化していく形で、三次下請け、四次下請け的な存在になるというものだ。そのためにはやはり裾野産業の外資とくっつく部分、もう少しレベルの高い部分がしっかりしなければ、農村の潜在力を活かしきれないと思う。
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部