平成21年度 第2回 アジア研究会 ●発表1「ミャンマーのビジネスチャンス― ASEAN広域ビジネスの可能性」アジア経済研究所 地域研究センター東南アジアⅡ研究グループ長 工藤 年博、●雲南大学 東南アジア研究所・准教授/GMS研究センター・副主任 雲南大学 東南アジア研究所・准教授/GMS研究センター・副主任 畢 世 鴻 (BI Shihong、ビー シー ホン)【2009/09/09】

日時:2009年9月9日

テーマ「メコン経済圏におけるビジネス展開の可能性」

平成21年度 第2回 アジア研究会
発表1「ミャンマーのビジネスチャンス― ASEAN広域ビジネスの可能性」


アジア経済研究所 地域研究センター東南アジアⅡ研究グループ長
工藤 年博

工藤 年博 ASEANには、二重のギャップがある。まず先進グループとして、シンガポール、タイ、マレーシアがある。その後にインドネシア、フィリピンが続き、最近はベトナムも加わりつつある。カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムのいわゆるCLMVからVが抜け、後進グループの最貧国ということでCLMが残っている。そして大メコン圏(GMS)、これには中国の雲南省と広西チワン族自治区が入るが、ここでもタイ、中国、ベトナムというグループと、CLMとのギャップがある。こういった経済格差を抱えたまま、ASEANなりGMSなりで地域統合を進めることになる。
 地域統合が進むと、産業立地に対し、2つの力が働くといわれる。1つは分散力(Dispersion force)だ。これは今までわれわれがアジアの産業発展、経済発展を考えるときに描いてきた、いわゆるフライング・ギース、雁行型発展のモデルを形作る力になる。 比較優位に基づき、例えば労賃が上昇した先進地域の労働集約的産業が競争力を失い、これらが労賃の安い国・地域へと移転し、産業の波が後進地域に及んでいく。産業立地を分散させる力である。そしてもう1つは集積力(Agglomeration force)で、広い意味での輸送コスト、関税や規制、そういうものも含めた輸送コストが下がることで、逆にすでにある程度の集積のある場所に更に集積が進む効果が生ずるのである。
 ミャンマーの場合、地域統合に伴う産業の集積力にいかに抗し、産業の分散力を活用して、いかに産業集積をしていくのかが課題である。そのためには、分散立地を目指す東アジアの生産・物流ネットワークから切り出される生産ブロックをいかに多く集めてくるかが重要になる。そのための武器として、ミャンマーには安価で良質な労働力がある。しかし、問題も多く、それはインフラの未整備、熟練労働者の欠如、悪い制度などである。したがって、トータル・コストで見た場合、ミャンマーの競争力はなかなか出てこない。
 縫製産業は労働集約的かつ輸出指向的で、低開発国の資源保存状況に合致している。ミャンマーにおいても、事実上唯一の近代的輸出産業になっている。実は、日本にとってもミャンマーからの衣料の輸入はそれなりに大きいのである。日本のミャンマーからの輸入の約40%が衣料品で、これは近年非常に伸びている。しかし布帛(布帛)製品のみで、ニット衣料はほとんど入ってこない。その理由の1つは、布帛衣料についてはLDC(後発開発途上国)特恵が適用されるのに、ニット衣料については原産地規則の問題でこれが適用されないという点が指摘される。今は原産地規制の問題で、布帛しかできない。そしてミャンマーは距離的にも遠く、船もシンガポールで乗せ換えということもあり、リードタイムが長くなってしまい、定番品しかできない。また、技術不足で高付加価値のものは生産できない。
 しかし、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)の累積的原産地規則などを使えば、例えばタイのニット生地をミャンマーに輸入して、これを縫製することで、AJCEPの特恵関税を享受することができる。ミャンマーの縫製産業がニット衣料を日本向けに特恵関税で輸出できる可能性が開けるのである。もう一つは、タイとの陸路国際物流を利用することである。これによって、シンガポール経由で原料や製品の輸出入をするよりも、格段に早く(そしてもしかすると安く)物流を確保できるようになるかも知れない。隣国タイには良く発達した道路網と深海港があるのである。ミャンマーの産業がこれを利用して、産業競争力を高めるのである。このようにASEANやGMSなど地域大の産業協力で、産業競争力を強化する可能性があるのである。ミャンマー一国の産業競争力を考えるのではなく、地域全体の視点から、ミャンマーをいかに使っていくのか、そういう発想が、ミャンマーにおけるビジネスチャンスを開いていくだろう。


報告2「中国雲南省とラオス、ミャンマー、ベトナムのビジネス関係」


雲南大学 東南アジア研究所・准教授/GMS研究センター・副主任
畢 世 鴻 (BI Shihong、ビー シー ホン)

BI Shihong 中国の雲南省は、ラオス、ミャンマー、ベトナムの3カ国との間で国境を接し、国境線の全長は4000キロを超える。また2010年からは中国とASEANの自由貿易地域、CAFTAが発足し、これによって11カ国、総人口は17億人を上回る巨大な市場が統合される。雲南省と3カ国の貿易額は、1990年代初期まではわずかだったが、その後、急速に増加した。雲南省からの輸出は工業製品が多く、3カ国からの輸入は一次産品が多い。貿易は通常貿易と国境貿易に分かれ、国境貿易の比率が高い。これら3カ国ではインフラ整備や制度設計などの支障があるが、雲南省の企業は積極的に進出している。また今後、CAFTAが発足すれば、地理的な優位性を発揮し、3カ国との間の相互投資はさらに飛躍的に増加する可能性が高い。
 中国では今、資源不足の問題が深刻になっている。高度経済成長を支えるのに不可欠な木材、鉱産物、石油、天然ガスといった天然資源、自然資源の入手では、雲南省は地理的な優位性を持つ。特にこの3カ国からどれぐらいの資源、一次産品を確保できるかが、中国の高度成長を維持するための重要な課題だと思われる。今後、東南アジアで連結するインフラ整備が実現すれば、商品や資本の交流だけでなく人の交流も飛躍的に増大するだろう。結果として雲南省は、中国の大メコン圏における経済交流活動の1つの拠点になると予測される。
 ただ、問題も少なくない。貿易規模はまだ小さく、これを阻害する1つの要素としては、通関手続きが煩雑で費用が高過ぎるなどの問題が指摘される。加えてこの3カ国は世界金融危機以降、輸出対策を強化し、雲南省の輸出商品が面している貿易条件は悪化して、競争が厳しくなっている。また国境貿易を担う主な企業は中小企業だが、貿易発展のニーズには十分対応できていない。さらに国境地帯における道路、交通インフラ整備は完全にできておらず、できた道路も補修管理などが不十分で、陸路の輸送には問題がある。
 ASEANは現在、経済統合を積極的に進めており、雲南省にも一定の圧力を与えている。域外の日本、アメリカ、欧州連合(EU)、韓国など先進諸国もFTAの交渉などを通じ、ASEAN重視といった姿勢を強化しつつあり、この地域における競争が一層厳しくなると考えられる。また、非伝統的な安全保障問題もある。雲南省との国境に近いミャンマーやラオスの北部には深刻な麻薬地帯があり、さらにHIV/AIDSウィルス問題、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザといった伝染病の流行も懸念材料になっている。先月から今月初めごろにかけては、ミャンマー国軍の少数民族のコーカン軍との間で大きな武装衝突が起き、3.7万人ぐらいの難民が中国側に脱出する事件も起きた。
 一方、雲南省は大メコン圏の開発協力を通じ、またASEAN先進国からより多い資金や技術を導入するため、極めて有利な位置にあるといわれる。これに関しては雲南省自身も、投資環境を速やかに改善していくと考えられる。まず貿易や投資を円滑化させ、ASEAN諸国との貿易自由化を促進し、関税や貿易、投資、そして決済、人的往来などの分野で合理化させるための制度的な障害を排除し、国際基準を満たした制度を整備し、また経済活動に従事する人材を育成する。今後の貿易拡大に最も必要とされるのは、これらの国の言語や英語ができる人材、貿易、マネージメント、法律などの専門的な人材の育成を優先していくことだ。さらに雲南省自身の産業構造の改革も継続的に行い、産業レベルの向上をはかることも必要だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部