第97回-1 中央ユーラシア調査会 「米国のアフガニスタン&パキスタン新戦略と各国の対応」(財)日本エネルギー経済研究所 理事 兼 中東研究センター長 田中 浩一郎【2009/07/29】

日時:2009年7月29日

第97回-1 中央ユーラシア調査会
「米国のアフガニスタン&パキスタン新戦略と各国の対応」


(財)日本エネルギー経済研究所 理事 兼 中東研究センター長
田中 浩一郎

1. Af-Pak新戦略とオバマ政権の対中東政策
田中 浩一郎     今年3月にアメリカのオバマ政権が、「アフガニスタン&パキスタン(Af-Pak)新戦略」を発表した。結論からいうと、この新戦略は中身がすかすかで、必ずしも戦略として十分練られているものではない。オバマ大統領自身がいっているように、要は走りながら修正し、より柔軟に対応していくということだ。しかし既に3、4ヵ月経ち、アフガニスタンの大統領選も間近に迫り、またパキスタン情勢も安定しない中で、この新戦略がこれまでにどれだけ成果を上げたかを見ると、当初危惧したとおり中身の薄さが影響を及ぼしていると思う。
 新戦略の目標は、アル・カーイダの撲滅と隠れ家を根絶することだ。その点では1つめの方策として、アフガニスタンだけでなくパキスタンを含めた地域的なアプローチを採用するという。アメリカとアフガニスタン、あるいはアフガニスタンにおける北大西洋条約機構(NATO)の作戦行動だけでなく、パキスタン側での対応も必然的に求める格好になっている。そして2番目の方策としては、これまでは外国軍がアフガン側と一緒にターリバーンや武装勢力と対峙する形をとってきたが、今後のことを考え、アフガン側の治安維持能力を向上させることに力点を移しつつある。さらに3、4番目に、ブッシュ政権下ではなかなか日が当たらなかったところだが、民生支援プログラムを重視する、そのための予算配分をつけるということだ。そして単独行動主義の反省でもあるが、国際協調の枠組みを拡大することが謳われている。ここで1つ注意が必要なのは、文民ということに力点が置かれ、軍事一辺倒ではなく民生支援プログラムも含めた包括的なアプローチを行おうということだ。
 一方、この戦略はアフガニスタンとパキスタンの2つに対処するものだが、実際の中身はパキスタンに対する対応が非常に薄い。アフガニスタンについては当座の関心は、来月20日に行われる第2回大統領選挙に集中している。自由で公正な選挙をいかに担保するか、破壊行動などを伴う武装勢力からの攻撃をいかに排除するかというところに、派遣軍の役割、活動が向けられている。またパキスタンの連邦政府がふらふらしたまま動いてきているので、近未来における連邦政府の崩壊をいかに防ぐかということも言外の目標になっている。
 現状を見ると、情勢は悪化の一途をたどっている。アフガンの駐留外国軍には人的被害が広がっており、今年7月には記録的なレベルに達した。これには実は理由があり、1つは外国軍が増派されて作戦行動が増えたことだ。そしてもう1つは、来月の選挙に向けて外国軍の方から懸命に攻勢をかけていることもあり、その被害が当然、広がる。一方、パキスタンではパキスタン・ターリバーンの影響力が、当初考えられていたような連邦直轄部族地域(FATA)だけでなく、北西辺境州(NWFP)、そしてそこから北東へ伸びるスワート渓谷にまで広がっているという由々しき事態がある。
 対処にあたっては、アフガニスタンでもパキスタンでも、ターリバーンと称される武装勢力や反政府勢力を取り込まなければいけない、そのために対話をしなくてはいけないという話が拡大している。誰と対話をするかは明確でないが、一応、「穏健派のターリバーン」、「穏健派の武装勢力」とされている。これは言葉のうえで矛盾があり、本当にそのようなことができるのかと問われると答えに窮するが、建前上、そういう方向で動いている。しかしターリバーンは一枚岩ではなく、その一部を相手にして、あるいはターリバーンと自称している連中の一部を相手に交渉した場合に何を得られるのかと自問すると、実は何も保証がない。

2. Af-Pak新戦略と各国の対応
 次にAf-Pak新戦略に基づく各国の対応だが、アメリカの同盟国としてのイギリスは、もちろんNATOの構成国で、アメリカを除けば現在、最も多くの犠牲者を出している国だ。そしてイギリスに次いで3番目に犠牲者が多いのがカナダで、どちらも南部に展開している。イギリス国内の世論では、やはり派兵に否定的な雰囲気が広がっている。これはイギリスだけの問題でなく、アフガニスタンに派兵することによるメリットや、派兵することで何を防いでいるのかがヨーロッパにおいてもわかりづらくなっていることがある。
 NATOの他の国への対応も含め、新戦略の下で謳われていた、民生支援、文民による国際協調に関して、シビリアン・サージという表現がある。サージとは増派に相当するが、軍隊であれば上から命令すれば派兵できても、文民の場合には「行け」と命令されて危険地帯にすぐ行くものではない。したがって文民を増派して、民生支援にてこ入れしようという考え方は悪くないが、実際に増派できるのかと考えた場合、非常に危うい。
 日本は対テロ戦争が始まって以来、一時中断もあったが、海上阻止活動への給油支援を続けてきた。パキスタンに関してはこの4月に、アメリカと調整のうえで、支援国会合を東京で開催している。さらにこの夏からはアフガニスタン西部での地方復興支援チーム(PRT)に、文官を支援要員として送っている。このような形でそれなりの貢献はしているが、新戦略に日本としてどう貢献していくのかについては、必ずしも明確な対応がなされていない。

 8月20日のアフガニスタンの大統領選挙に向けては、限られた数ではあるが、これまで同様、選挙監視のための要員を派遣することになっている。これについては最初から監視できるようなところは限られており、今回の選挙に至っては相当、監視できないところが多く、選挙のきれいさ、公正さなどを国際社会側が追認できるような状況ではもはやない。いずれにしても、新戦略の中身のおぼろげな感じがある他、その中における各国の役割も不明瞭で、従前から続いている増派に対する世論の反対があるために、元々アセットが限られていることから、文民などの派遣についても制約が多い。このような中でオバマ大統領がこの先、新戦略を微調整を加えながら本格的に動かしていくとなると、果たしてどこまで他の国がついてこられるのかだ。振り返ってみれば誰もついてこなかった、ということに終わりかねない。やはりそういう危うさを持った戦略である、といわざるをえない訳だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部