第97回-2 中央ユーラシア調査会 「世界経済危機とアジアの企業経営」(株)ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 平賀 富一【2009/07/29】

日時:2009年7月29日

第97回-2 中央ユーラシア調査会
「世界経済危機とアジアの企業経営」


(株)ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員
平賀 富一

平賀 富一     今回の危機は100年に一度の深刻なものともいわれ、日本は非常に大きなダメージを受け、アジアの諸国も同じく影響を被っている。しかしアジア通貨危機の時のように、韓国やタイ、インドネシアの財閥や有名企業がバタバタと破綻するようなケースは発生していない。またアジア諸国では、西欧や日本よりも早く景気回復の兆しが見えつつあるが、その理由はいったい何なのか、前回のアジア経済危機の教訓が活かされているのか否かといった観点について考えることとしたい。

1. アジア各国で見られる経済回復の兆し
 最初に国内総生産(GDP)の動向だが、アジア通貨危機のときは1998年に大きく落ち込んだ。特に減少幅が大きかった国は、タイ、インドネシア、韓国といったところで、その後はV字回復した。一方、今回の危機では、特に輸出への依存度が高いといわれるシンガポール、台湾などで大きな影響が出ている。中国も影響の度合いは相対的に小さいが、これまでずっと高い成長を続けてきたのが、今年の第1四半期には6%台まで伸び率が鈍化した。しかしながら、4兆元、日本円で約58兆円程度の大型景気対策の効果が出ているともいわれるが、第2四半期には7.9%の伸びと回復を見せている。韓国やシンガポールでも同様に、改善の兆しが見られる。
 今回の危機発生後に韓国が大きなダメージを受けた。昨年秋には、韓国経済が破綻してしまうのではないかといわれ、株価も昨年の10、11月に大きく下落した。韓国についてはアジア通貨危機後、経済構造も相当改善されたはずなのだが、やはり銀行が短期の外貨に大きく依存しているといった状況があった。その中で政府が迅速に金融・財政対策を打ち出したこと、通貨スワップ協定の締結や強化の表明、特に米連邦準備理事会(FRB)が通貨スワップでドルを融通すると約束し、続く日本、中国の支援姿勢表明などにより窮地を脱した。企業の倒産件数もその時期に急増したが、最近は比較的落ち着いてきたようである。主要国の金融財政政策は概ね共通しており、金融政策としては利下げや流動性供給を行い、財政政策としては、消費の喚起策としての減税や給付金支給など、また公共投資の増額や既に決まった案件の執行の加速化、中小企業に対する融資や保証の拡充などを行っている。
 先ほど申し上げた通貨スワップ協力の進展だが、アジア通貨危機後、タイや韓国で外貨準備が枯渇するリスクが高まり経済が破綻するとの懸念が生じた時期もあった。2000年からチェンマイ・イニシアティブという仕組みで2国間の通貨スワップを網の目のようにつくり、互いに外貨が必要な際には融通し合える仕組みにしようということでスタートし、その後拡充が進展している。
 次にアジア危機と今回を比べて何が違うのかを見てみる。前回一番ダメージを受けた国である、韓国、タイ、インドネシアについて1996年の危機前と今回の危機の前である2007年の指標を対比すると、前回は経常収支のマイナスが各国で見られた。韓国の場合、対外債務のGDP比はそれほど前回も高くなかったが、タイとインドネシアを見ると、今回は対外債務の安定度が高まっていることが分かる。さらに外貨準備が今回は余裕があり、不良債権の比率も下がっている。このように、全く状況が違うことが分かる。アジア危機から回復後の各国の経済状況が比較的よかったことによる効果もあるが、各国の改革・改善努力の成果もあったといえよう。
 次にアジアの企業経営についての問題点を考えると、アジア経済危機後、世界銀行が指摘していることだが、内部監視も外部によるモニタリングもなく取締役会が非効率、内部統制が弱い、財務報告が信頼できない、監査が不十分といったことや、情報開示の欠如、コンプライアンスの問題などということがあった。その後、IMFの資金を受ける条件にもなったという事情もあり債務削減や資本増強の際の外資の導入などを相当進めた。加えて事業の整理や絞込みも行った。また雇用構造の柔軟性を増すための変革も行った(この結果として非正規雇用が増えたという事情がある)。さらにコーポレート・ガバナンスの面では、外国人の株主や少数株主の権利が強まり、社外取締役などの制度をどの国も導入した。
 しかしながら韓国を例にしてみると、まだ課題も残っているようである。現代グループなどいくつかもの財閥グループで、後継者への継承をめぐる問題などが未だに話題になっている。ただLGグループのように持株会社形態への組織構造の転換を行い近代化を図っているグループも出てきている。

2. アジア通貨危機とは異なる今回の危機
 今回の危機の震源地は欧米であり、そこがアジア危機のケースとは全く異なる。アジアの金融機関は欧米の金融機関のように複雑な商品を扱っておらず、金融危機の影響としては二次的なものであった。つまり、欧米の金融機関が先ずダメージを受け、その対処のためにアジアに入っていた資金が引き上げられ、株や通貨が売られることになった。また輸出の重要な相手先である欧米の経済が厳しくなったので、アジアからの輸出が大きく減少した。そういった仕組みでアジアに二次的に波及してきたという面があり、前回の危機とは少し性格が違ったということである。金融で始まった問題がその後実体経済に波及してきた訳だが、アジア各国としても金融・財政政策での対応が一定程度できたということだと思う。最近はアジア各国で生産に関する指標が改善され、消費者の信頼感指標なども改善してきている。したがって、経済の雰囲気はよくなりつつあるかといえるかもしれない。少なくともアジア危機後の教訓とその後各国が取り組んだ対策が今回の危機への対応としてある程度奏功したといえると思う。
 そうはいっても、まだ課題は残っている。世界経済危機が長期化し、いつまで続くか不透明である。さらに一段のショックということも予測できなくはない。そういった場合、アジア経済も金融財政面でのダメージがさらに大きくなるというリスクがある。国の金融や財政がダメージを受ければ、資金面の困難で、政府が景気の刺激策等を打てなくなって企業経営が悪化する。そうすると民間消費にも悪影響が出て、消費が冷え込み税収も少なくなる。それがまた政府へのダメージを与える、という負のスパイラルに陥るリスクも否定できない。
 また企業の構造改革、体質強化についても、前進はしていると思うが、例えば中小企業ではまだ問題も大きく、大手グループでも非効率な部分が残っている。さらに、例えば中国では、まだ国有企業が相当大きな力を持っているが、今回政府の財政政策の効果が出て企業の多くが助かることになると、逆に企業の根本的な構造改革をする機会が遠のくということになるのかもしれない。世界経済としては中国経済がおかしくなると困るので、ソフト・ランディングを期待するところだが、企業の本当の力をつけるという意味からいえば、企業の体質を強化する機会がさらに必要になるのかもしれない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部