第98回-1 中央ユーラシア調査会 「大統領選挙後のアフガニスタンと日本の政策」アフガニスタン・パキスタン支援担当大使 吉川 元偉【2009/09/15】

日時:2009年9月15日

第98回-1 中央ユーラシア調査会
「大統領選挙後のアフガニスタンと日本の政策」


アフガニスタン・パキスタン支援担当大使
吉川 元偉

吉川 元偉     今回の危機は100年に一度の深刻なものともいわれ、日本は非常に大きなダメージを受け、アジアの諸国も同じく影響を被っている。しかしアジア通貨危機の時のように、韓国やタイ、インドネシアの財閥や有名企業がバタバタと破綻するようなケースは発生していない。またアジア諸国では、西欧や日本よりも早く景気回復の兆しが見えつつあるが、その理由はいったい何なのか、前回のアジア経済危機の教訓が活かされているのか否かといった観点について考えることとしたい。

1. アフガニスタンとの歴史的なつながり、日本の役割
 日本のアフガニスタンに対する政策を考えるうえで、念頭に置かなければいけないと思っていることは、日本とアフガニスタンのつながりは「9.11」で始まったのではないということだ。アフガニスタンと日本の長い付き合いは、日露戦争当時のグレート・ゲームにまでさかのぼる。そういう歴史的なつながりの中で、日本とアフガニスタンの関係があることを、われわれは忘れてはいけない。
 1994年から、タリバーンのアフガニスタンにおける勢力の伸張があり、カブールを押さえ、国土の大半を占領するに至り、パキスタン、アラブ首長国連邦、サウジアラビアが政府承認した。その頃、国連や米国が行った和平工作やタリバーンによる大仏爆破に至る過程で日本は一定の役割を果たしてきた。今年と来年、日本は国連安全保障理事会の非常任理事国を務めている。安保理ではどんな問題についてもリード国というのがあり、リード国が決議をつくるときのドラフトを書く。日本がアフガン問題についての安保理におけるリードであるということも、日本がアフガニスタン問題についてこれまでやってきたことに対する国際的な評価の現われといってもよい。
 アフガニスタンを旅行されれば、日本人に対する親近感、信頼感が強いことがわかる。私自身はアフガニスタンにおける日本の役割は、お金を出すことに加えて、国民の和解、挙国一致のパワー・シェアリングの達成といったことにもあると思う。

2. 大統領選後の混乱、タリバーンの影響力増大
 現状につき述べると、まずは大統領選挙だ。8月20日に行われた選挙については各方面から批判が出ている。選挙に関する不服審査委員会では明らかな不正があったということで、相当な票が既に無効扱いされている。第2位につけたアブドラ元外務大臣陣営や他の陣営は、カルザイ大統領が職権を利用して、また県知事をうまく使って組織的な不正を働いたと批判している。他方でアフガニスタンは、女性の識字率が2割ぐらい、男性でも5割ぐらいで、中世の部族社会が一気に近代化しようとしているような状況の貧しい国だ。30年間紛争が続いているという中で、今回はアフガニスタンが全て自分でやった選挙であり、先進国と同じような選挙を期待することには無理がある。現状を理解した上での評価が必要だと思う。最終結果は9月17日に出ることになっているが、無効票のカウントがまだ終わっていないのでよくわからない。今日の段階では、カルザイ大統領が50%を超える支持を得ているが、 決選投票になる可能性もゼロではない。
 新大統領が抱える課題は山積している。治安の改善、ガバナンス、国民和解、そして経済の発展など、やらなくてはいけないことがたくさんある。そもそも考えなくてはいけないのは、なぜタリバーンが国土の半分を制するような状況になってしまったのかだ。世論調査によれば、タリバーンの支持母体と言われているパシュトゥーンの人たちでも「タリバーン政権がまたできるとよい」と歓迎している人たちは非常に少ない。しかし現実には、タリバーンがその支配を増やしている。これはどのように説明すればよいのか。
 1994年のタリバーン登場からの急激な勢力伸長に関する説明は、ソ連撤退後の軍閥間の抗争による非常にひどい生活があり、そこへタリバーンが出てきて、規制は多いが現状よりはよいということで支持が大きくなった。そしてパキスタンが非常な支援をした。
 カルザイ政権ができてから7年が経ち、どうして南部地域を中心にタリバーンの影響力が急速に戻っていったのか。各県の知事がひどい政治をやっており、住民にとってはタリバーンの方がまだましということかも知れない。またこれまでの南部における米軍の軍事活動で、家族や知り合いが殺された、政府軍による虐待などがあったということもあろう。タリバーンがなぜこれだけ影響力を増大させているのかを理解しなければ、オバマ政権やNATO軍がやろうとしている、タリバーンを解体して二度とアフガニスタンをテロの温床にしない、という目的を達成することは難しい。

3. 鳩山新政権の対アフガン政策
 では、日本はどういうことをすべきか。いろいろな国の方から、「鳩山新政権のアフガン政策はどうなるのか」と聞かれる。しかし、鳩山新政権が明日発足するという段階ではこうですとは言えないが、以下の二つは言える。一つは私が知る限り、鳩山由紀夫新総理はこれまでに2回、カブールへ行っている。1回目は9.11直後、2001年12月で、2回目は2004年の11月だ。カルザイ大統領、アブドラ外相、下院議長らに会い、日本の経済協力の現場も御覧になり、アフガニスタンの現状に関心を持ち続けている。そして2点目は、選挙キャンペーン中、民主党は、アフガニスタンについて、2つのこと繰り返し言っている。1つはインド洋における自衛隊の海上補給活動をやめること、そして2点目はアフガニスタンに対する支援は強化するということだ。しかし実際に政権をとった今どのような政策になるかは、今後を見なければいけない。
 アメリカはパキスタンをアフガニスタンと一体として捉えようとしているが、歓迎する動きだ。パキスタンはいろいろな問題を抱えているが、民主的に選ばれたザルダリ政権を支えるのが当面の方針。軍事政権に戻ってほしいと思っている国はないので、ザルダリ政権を支えて民主的なパキスタンの安定がアフガニスタンやインドとの関係改善につながることを、支援していくのが日本の役割だと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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