第29回 IISTアジア講演会 「国際機関ERIAの創成と東アジア経済発展の条件」東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)事務総長 西村 英俊【2009/02/17】

講演日時:2009年2月17日

第29回 IISTアジア講演会
「国際機関ERIAの創成と東アジア経済発展の条件」


東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)事務総長
西村 英俊

西村 英俊1. ERIA設立にいたる経緯
 東南アジア諸国連合(ASEAN)は1967年にできたが、サミット・レベルの会合を持ったのはその10年後だった。またアジア太平洋経済協力(APEC)という開かれた地域統合組織がつくられ、これにも首脳会議はなかったが、米国のクリントン大統領がリーダーシップをとって第1回APEC首脳会議がシアトルで開かれた。私はそのとき、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムをASEANに加盟させるための仕事をしていた。そして思想信条、政治理念の恩讐を超えてASEANは10カ国に拡大し、約5億人のマーケットになった。
 ASEANとマレーシアのマハティール首相は1991年、東アジア経済評議会(EAEC、East Asia Economic Caucus)構想を提唱した。これはアメリカから強い批判を受けて頓挫したが、その変形として第1回ASEAN+3サミットが開催された。これは実はアジア通貨危機のときで、その後日本は「失われた10年」を経験、ASEAN各国も成長率が落ちて大変苦しい時期を迎えた。
 そして金大中氏が東アジア・サミットを呼びかけ、ASEAN+3より大きな可能性を含むゾーンが提唱された。それがASEAN+6で、インド、オーストラリア、ニュージーランドも入れた枠組だ。一方、中国はASEAN+3での自由貿易協定を提唱した。ここでもし日本の経済回復が遅れていたらERIAはできておらず、違ったイニシアティブが東アジアの将来を担うことになっただろう。しかし当時の二階俊博経産大臣は「グローバル経済戦略」を発表、金大中氏の提案を日本がイニシアティブをとって実現するASEAN+6、ERIAを提案した。そして第1回東アジア・サミットが2005年12月に開かれ、2007年にフィリピンのセブ島で当時の安倍晋三総理がERIAを提案し、サミットのステートメントには「日本の提案をwelcome(歓迎)する」という言葉が盛り込まれた。国際会議ではいろいろな言葉が使い分けられるが、まずwelcomeで、その次がnote(認識する)、次がendorse(支持する)という順だ。国際会議の場で議論して、ワーキングするときに最も難しい言葉がagree(合意する)なのだが、welcomeという言葉からまずERIAが始まった訳だ。

2. ERIAのテストラン・プロジェクト
 その後、ERIAは「いかにERIAが有効か」を証明すべく2つのテストラン・プロジェクトを行ない、その有効性をもって国際機関性の獲得に向かうことになった。丁度第2回の東アジア・サミットでは3つの重要なテーマについて閣僚から「検討すべき」という提案が出て、それを受けることになった。1つ目は東アジアのエネルギー行動計画、2つ目はバイオ・ディーゼルの基準づくり、3つ目はバイオマスを利用した持続可能な発展だった。
開催風景 この成果を踏まえて、2007年11月の東アジア・サミットで、ERIAの設立が合意された。この議長声明(パラグラフ13)に出てくる言葉は「agree」で、提案したのは福田康夫首相であり、16カ国の首相がこれに合意した。また「暫定的にASEAN事務局に付置する」という条件も付いた。
 ERIAは基本的に産官学の分野の人たちが参加する東アジアのOECD(経済協力開発機構)のような政策提言をする国際機関だとわれわれはイメージしており、この地域で唯一、東アジア・サミット、大臣、首脳に直接政策提言を行い、各国の政策に反映するツールを持っているオーソライズされた国際機関だ。しかし、ERIAが東アジア版OECDと認められるには、16カ国のコンセンサスでERIAに正式に位置づけを与える必要があり、そのためにERIAは2つの大きな試験をパスしなくてはいけなかった。まず8月にERIAの性格を決める重要な試験があった。8月7日の東アジア・エネルギー大臣会合、8月28日のシンガポールにおける東アジア経済大臣会合で、この2つの会議においてERIAが大臣たちからどのような機関として位置づけられるかは極めて重要だった。
 ここでわれわれが出したのが、テストラン・プロジェクトだった。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)では、インドや中国など発展途上国が先進国と対立している。そこでわれわれは「皆が持っている自主計画を出してください」と呼びかけ、また各国には希望する成長率があるので「希望が100%実現すれば、世界はどう変わるかを見せましょう」といった。それを見ると、二酸化炭素(CO2)の排出量は30%減ることがわかる。しかし2005年に比べると1.5倍になり、「これでよいのか」ということになった。8月のバンコクでの東アジア・エネルギー閣僚会議におけるERIAの評価で「ERIAによって作成されたアウトルックの示すエネルギー需要の計画された成長がエネルギー効率と保存のさらなる推進を必要とすることを認識した」とされ、明確に16カ国の閣僚はERIAの正式設立を歓迎し、東アジア首脳会議の共通目標の達成の貢献にERIAが重要な役割を果たすことを期待した。そして、もう1つのテストラン・プロジェクトの東アジア市場統合のロードマップについても、ASEANの経済閣僚に、「ERIAを首脳会議に提案すべくがんばろう」という応援団的な色彩があった。

3. 国際機関となったERIAとそのプロジェクト
 この2回の閣僚会議をクリアしてフィジカルなセットアップも行い、経済閣僚会議の意向を受けてそれぞれのテーマについてシンポジウムを開くなど実績を重ねるとともに、各国との調整を続けた結果、ERIAは正式に国際機関になった。
 ERIAの個別プロジェクトだが、東アジアにおける持続可能な自動車社会の展望に向けた研究では、自動車の意義をもう一度しっかりさせ、将来型の自動車も踏まえ規制、環境面も含めたソサエティのあり方を提言する準備をしている。さらにバイオマス、環境政策、法制度、セキュリティ、eコマースを進めていくにはこの地域におけるスタンダードの共有、レベルアップが必要なので、今はそのようなこともやっている。また特にカンボジア、ラオス、ミャンマーの将来を支える人材を育てていく必要があり、キャパシティ・ビルディング・プロジェクトもやっている。
 麻生総理は今年1月の施政方針演説やダボス会議で、明示的にERIAが果たすべき役割に触れられた。ERIAの活動は日本政府にも大いに期待していただき、一生懸命汗をかいてきたかいがあった。今後は産業大動脈について検討を深め、具体的なマスタープラン作りに取り組んでいく。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部