第30回 IISTアジア講演会 「アジア経済の現状と我が国の対アジア通商政策」経済産業省 通商交渉官 黒田 篤郎【2009/04/22】

講演日時:2009年4月22日

第30回 IISTアジア講演会
「アジア経済の現状と我が国の対アジア通商政策」


経済産業省 通商交渉官
黒田 篤郎

黒田 篤郎1.世界経済危機の現状と東アジア経済
 まず経済の現状だが、とりわけ昨年のリーマン・ショック以降、世界各地で経済成長率が悪化している。日本とアメリカ、ユーロ圏が軒並みマイナスで、日本を除く東アジアでは0.6%増となっている。これが昨年第4四半期の様子だ。そしてIMF(国際通貨基金)の3月時点の見通しによると、今年、アメリカ、ユーロ圏、日本という先進国の主要3エリアは全てマイナス成長となり、これは初めてのことだ。
 他方途上国では成長率がほぼ半減するとはいえ、中国、インドなどを中心にプラス成長が続いている。しかし、アジア諸国のGDPが世界経済に占める比率はまだ低く、アジアだけで世界を引っ張るのは難しい。しかし、それでもアジアがある程度引っ張るしかない。また中国の4兆円元の経済対策、自動車や家電製品の購入補助などの景気下支え効果は着実に現れている。また、アメリカやユーロ圏の金融システムが非常に傷ついていることに比べれば、日本は今、輸出が減ってGDPの下げ率が大きいものの、回復力はおそらく欧米より強い。したがって日本がアジアと一緒に、いかにして全体を引っ張っていくかだ。

2. 東アジアの実態的な経済統合の進展と日本企業の戦略
 ASEANを中心とした東アジアの16カ国を1つのブロックと考え、EU(欧州連合)と北米のNAFTA(北米自由貿易協定)の3つを比較してみると、東アジア16カ国の人口は今33億人で世界人口の約半分程度、GDPは10兆ドルで世界の5分の1強、22%程度を占める。しかし一人当たりGDPは少なく、先進国が多いEUやNAFTAの約10分の1だ。また、域内における一人当たりGDPの格差は大きく、例えば日本とミャンマーでは150倍違う。この東アジアの中では域内での部品・製品の貿易・直接投資が年々盛んになっている。その主役は日系企業であり、日系企業の生産ネットワークが東アジアの事実上の経済統合を実現している。その結果、東アジア地域の域内貿易比率は現在54.6%で、これはNAFTA、3カ国の域内貿易比率の41%をはるかに超えており、またEUの65%という数字とも約10%の差しかない。
開催風景 次に世界の国々、ASEANや中国にどれだけ投資があるかだが、国際収支ベースでみると、ASEANと中国の投資は従来、拮抗していたが、中国への投資が2001年のWTO(世界貿易機関)への加盟を契機に急速に拡大した。ASEANへの投資はアジア危機やITバブルで減り、中国との格差は広がる一方だ。他方中国の直接投資受入額の推移を中国側のデータでみると、2008年後半以降、伸びが急速に鈍化し、11月以降マイナス、12月には6割減、今年1月には3割減となっている。
 一方、日本からは中国とASEANへの投資のバランスが比較的とれている。アセアンへの投資はアジア危機やITバブル崩壊のときには減ったが、最近また増え、2006年からは中国への投資を上回っている。これには中国への投資の一極集中に慎重で、投資の多極化、分散化を進める考え方が日系企業の間に広まってきたことがある。また最近は中国よりもベトナムやインドネシアの賃金が安い、そして人材の優秀さではベトナムやインドの評価が高いといったこともある。さらに市場という意味では、現状では中国だが将来はインドやインドネシアの成長性が高いと判断している企業も多い。

3.東アジアの制度的な経済統合と日本の役割
 遅れていた東アジアの制度的な経済統合だが、その中核となるASEAN自由貿易協定(AFTA)は1993年にスタートし、最初はなかなか進まなかったが、アジア危機後に中国がWTOに加盟し、それまでASEANに向かっていた世界の投資が中国に向かい始め、ASEANは危機感を持った。ASEANでは狭いところに国境がたくさんあり、関税がかかる。そうした中でAFTAを真面目にやろうではないか、ということになった。ただASEANの中にはあまり大きな市場がない。したがって他の大市場と一緒にならなければいけないということで、ASEANがAFTAの次に考えたのは、近隣国とのFTAだ。まず中国と2000年頃に議論がスタートし、韓国、日本、インド、豪州、ニュージーランドという形で主要な周辺国とのFTAができてきた。
 日本の経済連携(EPA)に関する取組みだが、ASEAN全体と行い、またASEAN各国ともより深掘りするようなEPAを順次締結してきている。ベトナムはまだ発効していないが、それ以外は全て発効している。他にも中南米、スイス、中東の国々があり、このうち中東、インド、韓国、豪州とは交渉中だ。日本とASEANのFTAでは、例えば日本から液晶パネルをマレーシアに輸出し、液晶テレビを組立ててインドネシアに輸出する場合、日マレーシア、日インドネシア、AFTAの3つのFTAがあっても、ルール上インドネシアではテレビに関税がかかってしまう。こうした場合にも関税がかからないようにするため日本とASEAN全体という包括的なEPAも苦労して別途つくった。

 そして最後に、ASEAN中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インドとそれぞれの協定ができつつあるので、できればこれを一本化したい。われわれはこれを、東アジア包括的経済連携(CEPEA)と呼んでいる。また投資環境比較、投資環境の法制度の問題、知的財産権の保護、インフラ開発、人材開発、物流網の整備、省エネルギー、環境保全、情報セキュリティ、こういった経済に関するいろいろな問題を一緒になって分析し、解決してルールを共通化していこうと議論している。そのために東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)という組織を、日本政府が全額拠出して昨年ジャカルタに設置した。そこで議論していることの1つが、インフラの問題だ。インドに対しては日印共同で、デリー=ムンバイ間の産業大動脈構想を提案し、進めている。そしてさらに、日本企業がたくさん集積しているASEANとの間の回廊を開くことも検討している。それぞれの国でインフラ開発の計画があるので、それをうまく統合するような形で物流システムをつくっていこうと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部