第33回 IISTアジア講演会 「インドネシアの総選挙・大統領選挙の動向 及び 中国台頭の中の日本・インドネシア関係」三菱商事株式会社 業務部 顧問 古宮 正隆【2009/07/14】

講演日時:2009年7月14日

第33回 IISTアジア講演会
「インドネシアの総選挙・大統領選挙の動向 及び 中国台頭の中の日本・インドネシア関係」


三菱商事株式会社 業務部 顧問
古宮 正隆

古宮 正隆 1. 選挙結果と民主主義の定着
 インドネシアでは4月9日に総選挙があり、全国で国会、地方代表議会、州議会、県議会の選挙が一斉に行われた。国会の選挙では、ユドヨノ氏を大統領候補に擁立した民主党は議席の10%程度を占める弱小政党だったが20%を得票し、第一党に躍り出て議席の27%を得た。これはユドヨノ人気によるものである。これまではゴルカル党が第一党で、闘争民主党は第二党であった。今回の第二党カラ党首のゴルカル党と第三党のメガワティ党首の闘争民主党(PDIP)は、いずれも14%台の得票だった。その後ろに、イスラム系の四政党が並んだ。
 インドネシアでは5年前から、世論調査が根付いている。この世論調査は5年前の総選挙時に、国際協力機構(JICA)の支援で始まったものだが、極めて信頼できるということが、政治家にも国民にもすっかり定着した。今回の大統領選では6つの世論調査機関が出口調査で、皆ほぼ同じ数字を見込んで、ユドヨノ組が6割、メガワティ組が3割弱、カラ・ウィラント組がほぼ12%となった。この時点では未だ開票は終了していないものの、国民はこの調査結果を納得しており、選挙結果の意外性が無くなり、選挙の勝敗の予想がほぼつくようになった結果、デモも混乱も無くなった。インドネシアでは、自由なメディアを基盤として民主主義が定着した、ということである。
 スハルト時代とは大きく変わって、「自由なメディア」と「選挙による政権交替のシステム」という民主主義の根幹が確立された。その結果、政治の安定性のみならず、透明性と予測可能性が格段に高まった。
 総選挙及び大統領選選挙を通じて、過去5年間にこの様な民主主義の基盤を築き、経済を安定させたユドヨノ大統領個人への人気、世論の支持が圧倒的に大きかった。ユドヨノ大統領は、慎重だが正しい決定をする、優柔不断という批判もあるが、間違いの決定はほとんど見られない、という国民の信頼感が、今回のユドヨノ氏の勝利と与党民主党の躍進に大きく貢献した。
 また同大統領はクリーンなイメージを有し、歴代大統領で初めて汚職撲滅を本格的に行ったことも国民の信頼感を得るのに寄与した。
 一方、過激派の爆弾テロに対しては、イスラム勢力の言論の自由を弾圧するという印象を避けて、ソフトな対応をとってきた。爆弾テロでは現場周辺にいるイスラム教徒も負傷したり亡くなったりすることもあり、テロ自体がイスラム系勢力から批判を受けている。極めて少数の地下に潜った過激派は残っても、テロを支持する勢力はイスラム勢力からも批判され、社会全体で孤立し、少なくなっていく、という柔軟なアプローチをユドヨノ政権は取ってきた。その結果、今回ユドヨノ陣営は、主要なイスラム系政党全ての支持を得ることになった。
 インドネシアではイスラム教徒が大半を占めるが、今回の総選挙の結果、上位三政党は世俗政党であった。即ち、国民は政治がイスラム主体よりも世俗的な方が良いと思っていることが示された。
 そしてユドヨノ政権には合理的なマクロ経済政策がある。これについては今度、次期副大統領になるブディオノ氏と、スリ・ムリアニ女史が担ってきた。ブディオノ氏は元経済調整大臣、その後中銀総裁であり、テクノクラート出身であり、党派性もない。インドネシア大学のエコノミスト出身である46歳のスリ・ムリアニ女史は、5年前に開発企画庁長官・国務大臣に就任し、その後、財務大臣、更に経済調整大臣を兼任し、最優秀なアジアの財務大臣といわれ、インドネシア最強の女性と言われるスーパー・レディーである。この2人のテクノクラート・学者コンビで経済をうまく運営してきており、国際的・国内的な支持も大きい。
 世界的に、民主主義国では庶民の生活が苦しくなると与党の支持率が下がり、生活が楽になると上がるのが一般的だが、昨年10月以降の金融危機、それに伴う原油価格の下落の影響で、インドネシアでは燃料油価格や日常品の価格が下落し、結果的に庶民の生活が楽になる、という現象が生じた。これは世界的な経済変化によるもので、ユドヨノ政権の政策とは直接の関係はないが、結果として与党の支持率とユドヨノ人気の上昇に貢献した。
開催風景 政治では、それに加えて人間関係も影響する。ユドヨノ大統領とカラ副大統領は5年間コンビを組んできたのになぜ別れたのかというと、結局二人の相性が合わなかった為と思われる。慎重でじっくり型のジャワ人、ユドヨノ氏にとっては、スラウエシ出身の直情径行で、拙速を尊重するカラ氏は肌合いが合わなかったと思われる。多くの人は「性格が反対だからよいコンビだ」といっていたが、結局ユドヨノ氏側が、間接的・婉曲的な表現ながら今後5年間のパートナーとしては拒否した結果、コンビが解消された、というのが実情と思われる。
 第二次ユドヨノ政権だが、ユドヨノ氏は中道な政策を行うとしており、クリーンな政権として安定して行くであろう。ユドヨノ大統領は大きな戦略を描く人物であり、個々の事項の処理は自分ではやらない。またブディオノ氏はマクロ経済の専門家である。財務大臣として評価が高いスリ・ムリアニ女史を中銀総裁に任命したいとユドヨノ大統領が一旦述べたが、彼女が仮に中銀へ行ってしまったら政権の中で誰が彼女の役目を果たすのか、という問題があった。しかしユドヨノ氏はこれを白紙に戻した様で、彼女が内閣に残ればマクロ経済の運営は大丈夫だと思う。課題としては、カラ副大統領というミクロ経済の処理を引き受ける人物が政権にいなくなるので、この穴埋めが必要となることであり、その人選が話題に上っている。

2. 中国の動き、日本・インドネシア関係
 インドネシアでは近年、中国の進出が顕著だ。同国で中国ブームが最も高まったのは2005年から2006年にかけてで、胡錦濤国家主席が訪イし、インドネシアと戦略協定を締結した。そしてユドヨノ大統領やカラ副大統領が訪中した際には、夫々数十億ドルの両国協力インフラ案件が締結された。また中国企業が石油や天然ガスの開発にも参入した。しかし石炭火力発電建設プロジェクトは進捗したものの、併せて、ファイナンスや納期の遅延等いろいろな問題も生じた。今ではインドネシアの関係者の間で、「中国に入れ込み過ぎた」という反省が見られる様に思われる。
 インドネシア華人は1,000万人ともいわれるが、ワヒッド、メガワティ大統領時代を経て、スハルト時代の華人の言語、文化、人権等に対する規制が次々と撤廃され、華人を区別する国籍法も改正される等、華人の権利が拡大し、中国語、中国文化の浸透も盛んになった。
 一方、日本は世界銀行、アジア開発銀行(ADB)と共に、対インドネシアの三大支援国・機関になっている。しかし日本が国家戦略的に支援を行っているかというと、良し悪しは別として、あまりそういう感じはしない。中国の進出の方は国家戦略的な印象があるが、代わりに現地では少し抵抗感がある。中国は2005年には鄭和就航600年記念行事を大々的に行った。また孔子学院の設立、多くの学校への中国語教師の送り込みと中国語コース設立、インドネシア各界指導者の中国への招待等を積極的に行ってきた。
 米国からは今年2月にヒラリー・クリントン国務長官がインドネシアを訪問した。そして次の中国の総理といわれる李克強副総理も、初めての外遊でインドネシアを訪問した。従来から米国にとってインドネシアは重要であったが、オバマ大統領も今年、インドネシアを訪問する予定とされている。しかしイスラム教徒が多いインドネシアでは、主にパレスチナ問題のために米国は嫌われてきた。この様に中国、米国にはそれぞれ問題があり、「日本は一番良い位置にある」とインドネシアの友人からはいわれる。そうだとすれば、日本から見れば今はインドネシアで日本の存在を高めるチャンスだ。
 インドネシアは東南アジア最大の資源国で、石油、ガス、石炭、ニッケル、銅等がある。インドネシアは、アジアで中国、インドに次ぐ大市場であり、また中東と北東アジアを結んだ地政学的に重要な位置にある国だ。
 インドネシアはASEANの大国であるが、近年はG20メンバー、MEFメンバー、BRIICsとも言われ、国際的な地位の向上が著しい。
 一方、日本とインドネシアの間では、近年政治経済の人的な交流が以前と比べて少なくなり、日本のメディアでもインドネシアを含む東南アジアのプレゼンスが低くなっている。インドネシアでは日本のイメージが非常に良かった。しかしODAの減少の故かもしれないが、近年はそれも低減傾向にある。嘗ては戦争中に日本が指導した国軍の指導者がインドネシアの指導者だったことから、インドネシアには親日のDNAがあったが、スハルト氏を最後に、この親日の岩盤がなくなった。ユドヨノ大統領の夫人の父は日本軍の指導を受けた人物であり、この影響が僅かに残っている程度である。
 現在の指導者は殆ど全部がアメリカ、豪州、一部は欧州で勉強した人達になっている。知日派の政治指導者は、賠償留学生一期生であったギナンジャール地方代表議会議長1人となり、寂しい状況である。
 従い日本としては、幅広い戦略、人脈育成等により、これを打開する必要があるのではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部