第34回 IISTアジア講演会 「中国政治と東アジア-現状と展望」東京大学大学院 法学政治学研究科教授 高原 明生【2009/09/25】

講演日時:2009年9月25日

第34回 IISTアジア講演会
「中国政治と東アジア-現状と展望」


東京大学大学院 法学政治学研究科教授
高原 明生

高原 明生 1. ウルムチでの暴動、デモの衝撃、中国経済の現状
 新疆ウイグル自治区ウルムチ市で今年7月、大変大規模な暴動が起きた。これがなぜ驚きだったのかというと、規模の大きさもあるが今、中国が厳戒中に起きた事であったからだ。少数民族地区に関して注意をしていたのに、なぜあれだけのことが起きたのか。原因については、わからないことも多い。当局がいっているのは、「宗教絡みの問題ではない、民族問題ではない」ということだ。しかし、これにはやや無理がある。何が直接の引き金かはともかくとして、一番のベースには民族間の対立があり、その1つの原因として経済格差があるのは間違いないだろう。
 そしてもう1つ、チベットのこともある。新疆にもチベットにも、漢族だけではないが、元々そこに住んでいなかった民族が進出してきている。そして先住の民族との間で摩擦が発生する。さらにもう1つ深層の問題は、思想や文化の問題だと思えてならない。いわゆる多文化共生の思想が根づいていないことに、1つの根本問題があるのではないかと思う。
 経済に関しては昨年来、4兆元の景気刺激策がとられている。これは必ずしも財政だけでなく、金融等、中央、地方をあわせて4兆元という計画だが、ある程度、功を奏している。今年第1四半期は6.1%まで前年同期比で成長率が下がったが、第2四半期にはかなり回復、今年は目標の8%成長を達成できる見通しとのことだ。一方、懸念材料もない訳でなく、相変わらず輸出が弱い、また、バブルの心配もある。

2. 政治的な引き締めの強化と限界、政治改革、権力闘争
 中国では今、「被時代」(~されてしまう時代)という言葉が流行している。例えば「被就職」という言葉は「就職させられちゃった」という意味で、中国では今、大学生が就職難だが、実際には就職していないのに自分が就職していることになっていたと気づいた、ということだ。これは、大学が政府から学生を就職させるよういわれているので、上によい顔をするために就職していない人まで、嘘をついて就職したという報告を上げたりするためだ。この建前と実態の乖離は、特に政治において激しい。
開催風景 また、インターネットをどう管理するかは中国共産党にとって非常に重要な課題となっている。09年1月からは低俗な風紀を正すことを名目に、インターネットで多くのブログが閉鎖された。さらにこれを強化しようと始めた緑?プロジェクトがある。販売されるコンピューターにはグリーン・ダムという青少年を有害なサイトから守る機能のソフトを入れなければ売ってはいけなという検閲ソフトの導入である。
 中国共産党の次の党大会は2012年だが、これは権力継承が行われるべき党大会になる。今の胡錦濤氏、温家宝氏から次の世代にバトンタッチされる。中国では現在、温家宝氏に対する批判が相変わらずきつい。温家宝氏はそれほど強い権力基盤、あるいは自分の人脈がある訳ではないので、攻撃の対象になりやすい。また特に経済の具合が悪くなってくると、総理大臣、中国の首相は経済の責任者なので、批判が高まるのは理解できない訳ではない。

3. 日米新政権の登場と東アジア
 次に東アジアについてだが、多くの問題があるので、ここでは2点に絞って触れたい。注目すべき点の1つは、鳩山総理による東アジア共同体の提案だろう。これについてはご存知のように、ここ数年やや停滞気味だった。何故かというと日中の主導権争いが確かにあり、東南アジア諸国もやや当惑ぎみだったからである。日本の推すASEAN+6、中国のASEAN+3でいくのか。この東アジア共同体の形成過程については、EUとはかなり違うものになると思う。あらかじめ首脳が集まって、はっきり決まった目標を目指すのではなく、いろいろな機能的なネットワークやフレームワークができてきているので、これをどう育てていくか、という話になると思う。
 中国も政策としては、東アジア共同体を受け入れている。しかし、最近少し鳩山総理の提案についても、どう受け止めてよいのか今から中国は考え始めたところだ。これはなぜかというと、1つは日本との信頼関係の疑問符とともに、もう1つの問題は中国は東アジアを重視し続けるだろうかということだ。実は最近、中国のいろいろな文献で、東アジアという言葉はあまり出てこなくなっており、その一方で、中央アジアの相対的な重要度が上昇している。これはエネルギー、テロの問題などがあるためだ。また最近、皆が中国をちやほやしており、アメリカのオバマ政権もものすごく中国に遠慮している。中国側も一部に自信過剰というか、「もう日本など相手にしなくてよいのではないか」といった思いを持つ人が増えている。そういう人たちに、「東アジアなんて面倒くさい」、「日米中3国対話などする必要はない」という、ある種の自信、自己評価が出てきている。
 しかし日本にとってはどうしても、東アジア共同体も日米中3国対話もどうしてもやってもらわないと困る。中国は経済発展するにつれて軍拡する中国と地域で共生していくのは、大変重要な戦略的問題だ。日本にすれば日米同盟で中国の軍拡を迎える形になるので、中国がアメリカとだけ話をすればよいというのは困る。日本も入れて3カ国で話をするという体制を何としてもつくらなければならず、東アジア共同体も持続可能な発展と平和のために是非やらなくてはならないと思う。それはアメリカを無視するといったことではなく、どのアジア諸国にとっても、アメリカとの関係もアジアでの連帯も大事なのである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部