平成21年度 第2回 国際情勢研究会 「核実験をめぐる朝鮮半島情勢」 静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授 平岩 俊司【2009/07/01】

日時:2009年7月1日、場所:(財)貿易研修センター

平成21年度 第2回 国際情勢研究会
「核実験をめぐる朝鮮半島情勢」


静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授
平岩 俊司

1. ミサイル発射実験と核実験、朝鮮半島情勢の緊張
平岩 俊司 4月5日に行われた北朝鮮のミサイル発射実験だが、北朝鮮側は徹頭徹尾、これを「人工衛星発射実験だ」と主張している。国連が議長声明という形でこれを非難したことについて、朝鮮外務省は4月14日に声明を出し、「全ての国が平等に宇宙空間を自由に探査し、利用できると定めた宇宙条約に反するものだ」と主張した。
 なぜ北朝鮮がミサイル発射実験を行ったのかだが、一般的にはアメリカとの交渉で有利な立場を確保するためという見方が強い。とりわけこの時期はオバマ政権が発足した直後で、オバマ政権との交渉で有利な立場を確保するための交渉材料として行ったと見られている。また北朝鮮国内の問題だが、金正日の健康状態が芳しくないので、国威発揚のために行ったという見方もある。さらにアメリカなどの専門家からよく指摘される話として、北朝鮮はミサイル発射実験を重ねることでミサイルの商品価値を高めているともいわれる。
 北朝鮮はミサイル発射実験について国内的には成功をアピールしているが、国際的にはさまざまな評価があり、一般的には人工衛星としては失敗だったとされる。これは人工衛星が軌道に乗っているという事実が確認できないためだ。ではミサイルとしてはどうなのかだが、日本の防衛省の発表では、1段目のブースター切り離しには成功したが、2段目のブースター切り離しで失敗したため失敗だったとしている。ただし、飛翔距離についていえば、前回の2006年と比べて圧倒的に成功だろうし、また2番目のブースター切り離しについても諸説があり、例えば韓国の国防大臣はこれにも「成功した」と明確にいっている。
 4月14日の声明で、北朝鮮側は国連安保理に対し、議長声明の撤回と謝罪を要求し、これが受け入れられない場合には核実験、さらには大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を行うとするなど、非常に迅速に強硬姿勢に出た。そして驚かされたのは、2番目の核実験だった。この核実験については、ミサイル発射実験と同様、アメリカとの交渉が最大の目的であり、北朝鮮はミサイル発射実験についての国連の議長声明撤回、謝罪を要求していた訳で、これが受け入れられなかったことへの抗議行動だったというのが彼らの理屈だ。
 核実験が成功したかどうかについては諸説があるが、一般的には2006年10月に比べると「格段の進歩だ」という評価だ。当然ながら国連でもこれに対し、制裁決議をめぐってアメリカ、日本、中国、ロシアが駆け引きし、決議1874が採択されたが、その採択には少し時間を要した。現在はアメリカが、日本、韓国、中国などに対して働きかけをしているが、これに対して北朝鮮側から具体的な動きが特にあることもなく、若干、小康状態が続いている。
 なぜ小康状態かというと、いくつかの可能性があり、1つはミサイル発射実験と核実験がワンセットだったことは間違いないだろうから、北朝鮮側からすれば、ここまでやったら後はもう少し時間をかけてアメリカとの交渉を模索すればよいということで小康状態になっている可能性がある。いずれにせよミサイル発射実験をやっても核実験をやっても、北朝鮮はアメリカと戦争するつもりではなく、どこかのタイミングで交渉に戻ることは間違いない。

2. ポスト金正日をめぐる動き、今後の見通し
 金正日の健康問題が昨年夏以来、クローズアップされてきた。さまざまな情報があるが、執務には問題ないとの分析が一般的だ。その一方でわれわれが考えなくてはいけないのは後継問題で、1つは国防委員会の役割がかなり重要になってくると思われる。北朝鮮は先軍政治といって軍中心の政治をやっているので、ここが権力継承の舞台になることは間違いない。
 今一般的にいわれているのは三男の正雲(ジョンウン)氏が後継するということで、もう既に後継したのではないかともいわれる。権力継承の展望にはおそらく3つほどあり、完全に継承するなら、今は正雲氏といわれているが、3人の息子のうち誰かに継承する。そして集団指導体制という可能性、さらにはシンボリックな存在として3人のうちの誰かが継ぐという可能性、この3つぐらいが考えられる。
 最初の後継ということになると、報道ベースでは正雲氏は、既に軍の中で権力を掌握しているとされるが、26歳なので、今、金正日が行っているような政治スタイルをすぐさま彼ができるとは思えず、何からの別の仕掛けやシステムが必要だろう。朝鮮半島は年齢がものをいうところで、26歳の若者が単独でやることはおそらくできない。また次第に国際情勢が複雑化し、実務自体もかなり複雑化している。このため今後も今のように金正日が全て決めるというようなスタイルが可能なのかについては疑問で、テクノクラートやエコノミストをうまく使っていくようなスタイルにならざるをえない気がする。
 集団指導体制については、多くの分析で既にこういう状況ではないかといわれている。しかし実は権力の分散が不安定化につながるというのが、朝鮮半島の政治文化の1つだといわれる。したがって、その2つをあわせた折衷として、事実的な集団指導体制で、その象徴としてトップに3人の息子の誰かを持ってくるということが、一番可能性として高い。しかしそれでも権力の実質的な集団指導体制だとすれば、権力の分派、分散が起きる訳で、その調整を後継者となった者が行うのか、あるいは他の人たちが行っていくのかだ。
 最後に3度目の核実験、あるいは大陸間弾道弾実験の可能性だが、これについては今の段階では交渉モードに戻ってきているのか、あるいは単に次の実験をやるための準備期間なのかはわからない。いずれにしても北朝鮮が戻ってくるとなると、何らかの口実が必要だ。そのきっかけとなる可能性があるのは、1つはアメリカとの間で水面下で行われているアメリカ人ジャーナリストをめぐる交渉で、もう1つは中国が受け皿をつくる準備を北朝鮮とアメリカの間でやっているというものだ。
 最後に実は、今回の核実験後の国連決議1814に対する北朝鮮の声明で注目すべきは、「ウラン濃縮作業に着手する」といっているところだ。仮に交渉ベースに戻ってきて非核化といった場合には、北朝鮮自身が既にウラン濃縮をしているといっている訳なので、これも含めて北朝鮮の非核化を模索することになる。ある種皮肉な話だが、アジェンダが明確になったという効果も、結果としてあったといえるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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