平成21年度 第3回 国際情勢研究会 「第2次アフマディネジャード政権下のイランが直面する動揺と危機」 日本エネルギー経済研究所理事 兼 中東研究センター長 田中 浩一郎【2009/09/18】

日時:2009年9月18日、場所:(財)貿易研修センター

平成21年度 第2回 国際情勢研究会
「第2次アフマディネジャード政権下のイランが直面する動揺と危機」


日本エネルギー経済研究所理事 兼 中東研究センター長
田中 浩一郎

1.大統領選とアフマディネジャードの再選
田中 浩一郎 今回のイランの大統領選ではそもそも、ハーメネイ最高指導者にはアフマディネジャードの再選というシナリオ以外、受け入れられなかった。その結果、開票結果の数字がおかしいということになり、市民の街頭デモが生じ、それを取り締まるため政府の介入がみられた。有権者総数は4620万人で、現職のアフマディネジャード大統領とムーサヴィ元首相の間の競争、ライバル関係がデッドヒートになった。投票は6月12日に行われ、翌13日夕方には結果が出た。アフマディネジャードが63%弱、ムーサヴィが34%弱で、投票率は84.77というイランの大統領選では過去最高の数字になった。
 イランでは、選挙の投票率を水増しすることが常にある。これは人々が投票に行っていないとわかれば、体制への信頼がないことを世間に認めることになるためだ。また通常、イランの選挙は国内問題に終始することが多いが、今回は外交政策を巡り、アフマディネジャードとムーサヴィとの間で対立が生じた。要は、国際社会との間で対決路線をとることが是か非かだ。そしてもう1つ、世代間の対立があり、ムーサヴィというホメイニ時代の革命の闘士か、それを継承したアフマディネジャードかというものだった。
 4人の候補者がいたが、ハーメネイ師が唯一受け入れられるのはアフマディネジャードだった。ハーメネイ師はこの20年、最高指導者としての地位をつくり上げるため、国内のいろいろな政治勢力と貸し借りの関係をつくってきた。それをやりくりしていくうえでも、アフマディネジャードの再選を担保することが重要と考えていた。アフマディネジャードの勝利が危うくなれば、残る3人の候補のうち最もハーメネイが苦手とするムーサヴィが台頭することになった。ムーサヴィは80年代、首相として大統領のハーメネイに仕えていが、大統領の頭越しに政策を動かし、さらにはホメイニ師とツーカーになったことなどから、ハーメネイ師の居場所がなくなって関係が悪くなったといわれる。
 もう1つ、アフマディネジャードの路線、特に外交路線、孤立を恐れない、イランの尊厳を非常に大事にするという路線は、元々ハーメネイ師がいっていたことだ。したがってアフマディネジャードが負ければそれが否定され、自分の権威も下がることになる。
 今回の選挙でどういうところで不正が感じられたかというと、例えば開票速報が途中で12回ほど発表されたが、その間、変化するはずの数字がほとんど変化しなかった。これは全国どこを切っても結果が2対1だったということを意味し、明らかにおかしい。そして85%に届くような勢いの高い投票率で、これも過去に例がない。また有権者が4620万人というときに、投票用紙を予備分も含めて5900万刷っており、この鯖の読み方も大変なことだが、さらに驚くべきことは投票を行っている間に、投票用紙が不足する場所が、地方で何カ所も出てきたことだ。このほか今回の総投票数は3900万で、前回の選挙より1200万人も多くが投票所に足を運んだことになる。イランのこれまでの傾向では、投票率が上がれば浮動票が改革派に流れる、あるいは投票に行かない人たちが出てきて改革派に票を投じることになるため、改革派に有利になる。しかし今回は前回より1200万人も多くの人間が投票に来ていたにもかかわらず、改革系候補者の総得票数が1400万にも届かなかった。
 アフマディネジャードは、政権1期目に既に唯我独尊、強権姿勢が染みついていたが、強権姿勢の方は抑えていた。しかし今回は再選され、またデモも含めていろいろな形で内外からケチをつけられたため、今まで我慢してきた強権姿勢が表面化するのではないかと思う。また彼は再選されたことを完全に自分の実力と勘違いしているようで、自分を助けてくれたはずのハーメネイ師との間で早速、不協和音が生じている。
 今までのイランではいろいろな形で、ハーメネイが右も左も、あるいは強硬派も穏健派も含め、争点があるごとに、ある程度バランスをとりながらうまく差配してきたが、今回の選挙でアフマディネジャードが非常に強くなってしまった。またアフマディネジャードの再選に一方的に与したことを国民の目の前に示したことにより、ハーメネイのバランサーとしての役割も損なわれてしまった。

2. イランの今後の対外政策
 2008年の米大統領選では、オバマがチェンジを引っ下げて当選した。このオバマ政権の誕生は、イランの見方によれば、「イランが正しい」という意味になる。これは共和党候補が負けた、ブッシュ路線が完全に否定されたということで、ブッシュはイランをことさらいじめたので、アメリカ国民がイランいじめを間違っていると判断したと解釈されている。
 核開発に関しては、国際原子力機関(IAEA)に対し、イランは若干の譲歩を見せている。ナタンズの燃料濃縮設備、FEPに対する査察強化に合意したことが明らかになり、建設中のアラークの研究用重水路に対する現場査察もほぼ1年ぶりに受け入れている。ただ設計条項の事前開示についてはまだ、拒み続けている。この背景を考えると、アラークの研究用重水路の立ち上げは2013年ごろだろうといわれるが、そろそろ現場サイトに核分裂物質を持ち込んだりするのが近いのかという感じを受ける。また兵器開発にかかわる研究が行われていたという疑惑については依然、イランが情報を開示しないため、進展はない。一方、ヨーロッパとの交渉、アメリカのオバマ大統領が謳っている直接交渉や協議という問題に関しては、おそらくイランの大統領選挙後の混乱がマイナス要因になっている。
 イランの体制について私は、あと20年ぐらい持つのが限界だと感じている。反対勢力の声をうまく内部で処理できない体制は、基本的に力で抑え込むしかない。
 アメリカの議会は今、上院、下院共に、イランの制裁強化について準備を進めている。オバマ大統領は、「今年いっぱいは交渉だ」とネタニヤフ首相にいっているし、最近の言い方では、今年の国連総会までに1つの回答を得たいということだ。しかし、そのような時間はもう残っていない。ということで、いつものことだが、この先の見通はあまり明るくないということで終わりたいと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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