平成21年度 第4回 国際情勢研究会 「海賊問題と国際社会:東南アジアとソマリアの海賊問題から見た非伝統的安全保障問題をめぐる国際協力の課題と展望」 桜美林大学国際学部教授 佐藤 考一【2009/10/16】

日時:2009年10月16日、場所:(財)貿易研修センター

平成21年度 第4回 国際情勢研究会
「海賊問題と国際社会:東南アジアとソマリアの海賊問題から見た非伝統的安全保障問題をめぐる国際協力の課題と展望」


桜美林大学国際学部教授
佐藤 考一

1.非伝統的安全保障問題の台頭、海賊事件の発生状況と対策
佐藤 考一 安全保障政策の焦点は時代ごとの要請、政策志向によって変化してきた。第二次大戦直後から冷戦期にかけては核戦力を背景とした軍事対決・国家間戦争中心の伝統的安全保障観があった。その後、日本では1970年代末、「日本は軍事的な貢献などはできない。より総合的に安全保障を考える必要がある」ということで経済や人的次元(人間の安全保障問題)を加えた総合安全保障という考え方が出てきた。そして冷戦後になると、ヨーロッパでもそういうものの考え方が出てきて、包括的安全保障という議論になった。また東南アジア諸国連合(ASEAN)でも、1970年代前半から既に、総合安全保障に近いものの考え方があった。
 さらにポスト冷戦期には、非伝統的安全保障問題が台頭してくる。特に先進国では、もう国家間戦争は考えにくい、だからテロや海賊、麻薬の問題、感染症、環境問題までを含めた非伝統的安全保障問題なのだといわれるようになった。これが実は困った問題で、国家から個人へ、そしてその対象分野も軍事のみからテロ、海賊、経済、食糧、保健衛生、環境、政治的抑圧などに拡大している。そしてグローバリゼーションの進行による輸送や情報技術の発展で、安全保障の対応が変化し同時多発性ということにもなってきた。あまり広い範囲のものを取り込み過ぎ、逆にそのくくり方に意味があるのかという批判がある。
 非伝統的安全保障問題の多くは越境性の問題で、問題を起こす当事者が一国の政府ではなく、問題が発生した当初は犯人がわからないケースが多い。これは海賊やテロ、SARSについても同様だ。そこでその分野の専門家の集団である、知識共同体による情報集積のためのフォーカル・ポイント、コンタクト・ポイントのようなものを組織化する必要が生じる。海賊問題については、国際商工会議所国際海事局(IMB)やアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)がそうで、拡大解釈が許されるならアジア海上保安機関長官級会合に参加する各国の海上保安機関全体(一部軍人を含む)も含まれる。
 海賊事件の実態把握は、非常に難しい。実数と届出数は異なり、実際にはハイジャックをするようなものより、圧倒的にコソ泥が多い。被害の届け出をすれば、最寄りの海上保安機関が来て現場検証をしなくてはならず非常に面倒だ。したがって被害金額の統計も、非常に大きな数字から小さな数字まであり、本当のところはよくわからない。 海賊事件が東南アジアで圧倒的に多いのは、海域が広く警備船艇の足りないインドネシアの海域で、かつてはマラッカ海峡が多かったが最近は減少している。世界全体では、ソマリア海賊の出没するアデン湾が多い。また東南アジアではコソ泥が多く、襲撃時の船の状態は錨泊中が多いが、ソマリアでは航行中に船ごとやられるケースが多い。海賊の武器についても東南アジアでは棒やナイフなど破壊力が小さいものが多いが、ソマリア海域の場合、銃器をもっているのが92.4%で、中には対戦車用のロケット・ランチャーなどが入っているケースがあって非常に危ない。
 どのように対策をとるかだが、IMBや日本財団は、海賊発見のための設備を備えることを勧めている。これはレーダーの追加やモニター・テレビの設置、海賊監視員の配備、照明機器の使用などだ。また海賊の進入を阻止するため、圧力ホース、照明をつけ、ホースで船に水を流している様子を見せるなどのやり方がある。さらに日本人の船員はこういう安全保障の問題にあまり遭遇したことがないので、訓練が必要だ。また今は外国人の船員が多いので、コミュニケーションも強化しなくてはいけない。 

2. 国際協力による対策、今後の課題と展望
 国際協力では、1999年の日本・ASEAN首脳会議で小渕総理が提案した海賊対策国際会議が2000~04年まであり、これがアジア海上保安機関長官級会合に04年から統合されて続いている。そして2001年のASEAN+3非公式首脳会議で小泉総理が提案して、2006年11月にReCAAP、アジア海賊対策地域協力協定の海賊情報共有センターが設立された。各国1ヵ所のフォーカル・ポイントを設定し、連絡をネットワーク化する。連絡ネットワーク化を進め、「どこかの国で海賊に襲われたら誰に連絡しなさい」という事務の連絡系統をつくっている。また日本の海上保安庁は、東南アジア各国の国内の海上保安機関の統合を手伝っている。
 2008年10月、12月にはソマリアの海賊に関する国連決議、ソマリア沖の公海上、そして領海でも、海賊を退治しなさい、各国の軍艦が出てきてくださいという決議が挙がった。ソマリアは破綻国家なのでそういう決議が挙がり、どこの国も反対しなかった。ソマリアはそれで非常に深刻になってきている。2008年の欧州連合(EU)、アメリカ、インド、中国の海軍に続き、日本も2009年の3月から海上自衛隊員、海上保安官を2隻の護衛艦で派遣した。そしてイエメン、ケニヤ、タンザニアにReCAAP海賊情報共有センターをモデルにして、海賊情報共有センターをつくろう、ジブチに訓練センターを設置し、アジアでやって成功を収めつつある海賊対策の、国際会議と知識共同体の協力をもっと大きな形でアフリカに持ち込もうということを今、各国が国連の指導の下で始めている。
 今後の課題と展望だが、特に東南アジアでは海上保安機関の統合で未だに足を引っ張る組織があり、問題視されている。またアデン湾を含むソマリア海域の商船を護衛する各国の軍艦は不足している。そして海賊の攻撃に「応戦」してよいものか、正当性をどう確保するかなど、いろいろな問題がある。一方、東南アジアでは海上保安庁と地域諸国が訓練などを一緒にやっており、連携がよくなってきている。ソマリア海域でも緊急避難的な各国間での協力関係があり、今後もどんどん出てくると思う。これによって、各国の防衛当局者の間に新しい信頼関係が生まれる可能性もある。またソマリア海域では、防衛省(海上自衛隊)と海上保安庁の初めての実際の任務における協力が始まった。 
 私の考えだが会議外交と知識共同体・専門家集団の組合せによる非伝統的安全保障問題への処方箋の有効性を、ぜひ実証してもらいたい。どこまでできるかわからないが、もっと大胆な協力関係ができることを希望している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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