平成21年度 アジア研究会公開シンポジウム 「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」【2010/02/23】

日時:2010年2月23日

平成21年度 アジア研究会公開シンポジウム

「メコン経済圏におけるビジネス展開の可能性」


基調講演
「メコン経済圏の可能性と経済協力」
黒田 篤郎 独立行政法人 国際協力機構 理事

黒田 篤郎 CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国のGDPは100億ドル台で、先進ASEAN各国とは一けた違う。また一人当たりGDPは800~1000ドルで、ミャンマーは400ドルにすぎず、先進ASEAN各国とやはり一桁か二桁の格差があるのがこの地域の特徴である。
 CLMVにタイを含めたメコン地域の貿易額や投資額を見ると、いずれもそれなりに増えており、国によっては大変急成長しているが、構造的にはタイ・ベトナムとミャンマー・カンボジア・ラオスとの間では、けた違いの差がある。その一方で、ミャンマーを除けば、どの国もタイが実現してきたように、外資系企業に来てもらい、輸入代替、輸出をしていこうとの貿易投資主導型の経済発展を志向している。
 日本との貿易額が大きいのはベトナムで、2008年時点で日本からベトナムへの輸出は85億ドル、輸入は86億ドル、特に日本企業の直接投資に伴い、自動車や家電の製造に不可欠な部品、鉄鋼・化学などの素材や機械が日本から輸入されている。そして出来上がったものの一部を日本や欧米へ輸出する、いわゆる先進ASEAN型の貿易構造が強まっている。これに対しカンボジアやラオスでは、主力輸出製品は縫製品、主要輸出先は米国である。
 一方、日本からベトナムへの直接投資はこのところ急増しており、昨年はついに1130億円と、ASEANではタイに次ぐ大きさになった。日本人商工会の会員企業数も年間100社単位で増えており、現在839社である。JBICの調査によると、日本企業の3年後の希望進出先としてベトナムは中国、インドに次ぎ3位で、特に労働のコストの低さと質のよさへの評価が高い。他方、ラオス、カンボジアでもこのところじわじわと進出日経企業数が増えているのは注目に値する。
 自由貿易協定(FTA)や関税同盟が先行したアメリカ、欧州連合(EU)とは異なり、東アジアではまず、実態上の経済統合、ネットワーク型の分業が進んできた。そしてそれを制度的に補完すべく、この10年の間にFTA・EPAの締結が急速に進んでいる。その中核になっているのがASEANで、今年は先進ASEAN6カ国で関税が原則0%となるASEAN自由貿易地域(AFTA)の節目の年で、CLMVにおいても、2015年には同じ状況になる。
 ASEAN、メコン地域全体の発展のためには、FTAだけでなく、物流インフラや基準認証、産業育成、人材育成、環境エネルギーなどのさまざまなテーマについても、地域で協調して取り組んでいかなければならない。日本は東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の設立を提唱し、2008年にジャカルタに設立されたが、このERIAにおいても、CLMVの戦略的開発計画に関する研究は大変重要になっている。
 また日本は1990年代の初めからメコン地域の格差是正にコミットしてきた。特に経済産業省はASEANの経済大臣の集まりである日アセアン経済大臣会合など通じ、さまざまな協力事業を行ってきた。日本にとって戦略的に重要なASEANの発展のためには、メコン地域の格差問題の解決が非常に重要であり、日系企業にとってもメリットになるからである。
 現在、ERIAが中心となって議論しているものに「日メコン経済産業協力イニシアチブ」があり、ハードインフラ、ソフトインフラ、その上に乗った中小企業や新産業の育成をその3つの柱にしようとしている。ハードインフラについては既にかなりできているので、今後は特にソフトインフラ、中小企・産業育成が重要になるだろう。しかしハードインフラでも越境インフラなどを中心いまだ不足がある。
 こうしたハード・ソフト両面の経済協力を総合的に行う組織が私の現在勤務しているJICAであるが、一昨年の10月、それまでの技術協力に加え、JBICのやっていた円借款業務、外務省のやっていた無償資金協力業務を一元的に行うようになった。メコン地域でもさまざまなマスタープランの策定に始まり、交通・産業インフラなどの円借款、技術基準策定などの技術協力、貧困削減のための医療や教育などの無償協力など、多様な協力事業を行っている。特に最近では、PPP(官民連携によるインフラ整備)、BOP(貧困層向けビジネス)支援など、民間企業との連携を強化している。
 最後に、この地域では今、中国による経済協力が非常に増えている。たとえばカンボジアに対して2002年には日本の援助が1億ドルであったのに対し、中国の援助は500万ドルでかなり格差があったが、2008年には日本の1.4億ドルに対し、中国は1.3億ドルとなった。日本ではなかなか予算が増えないため、2009年の支援額は、恐らく中国に抜かれているだろう。これについては、むやみに対抗するのではなく、支援する側が互いに相談しながら援助を行っていく「ドナー協調」も必要だ。日本はこれまで欧米諸国のほか、最近ではシンガポールやマレーシアなどドナーになりつつある国とも協調しながらやってきた。今後は中国とも、そういう道も探りながらやっていきたい。

報告1
「ベトナムでのビジネス展開の可能性と裾野産業の課題」
星野 達哉 中小企業基盤整備機構国際化支援アドバイザー兼 ベトナム経済研究所研究理事

星野 達哉 ベトナムでは高度成長が続いており、資源も豊かで、若くて勤勉な労働者も豊富です。外資は特に実行ベースで毎年100億ドル以上入っており、そのほか多額の政府開発援助(ODA)30億ドルや海外で働くベトナム人や米国の「越僑」から年60億ドルの送金も入ってきます。またベトナムは共産党の一党支配で、政治は安定している。このような状況で、ベトナムにおける今後のビジネス展開はどうかというと、一般論としては有望だといえます。但し、ベトナムはASEANのFTAの共通効果特恵関税(CEPT)実効によりアセアン間の関税が低くなり、また、世界貿易機関(WTO)に加盟し、また、更に日越EPA、日アセアンEPA、中国アセアンEPA締結で、今は完全にグローバル経済の中に入っています。このため、ベトナム1ヵ国での将来有望だという議論は少し時代遅れで、常にアセアンの中でのベトナムがどうかという観点から見る必要があります。 ベトナムには非常に頭のいい人が多く、それを活用したソフト・サービス分野(設備投資にもあまりお金がかからない)、特にソフト分野のアセアンの拠点になっていくのではないかと思います。また、世界貿易機関(WTO)加盟により、2015年までに自由化するということ、更に日越EPAで、不動産開発や流通、金融・証券、医療・介護などのサービス業が進むと思われます。現在、国有企業のグループ化、株式化が進んでおり、これまでに国有企業は約300社が株式化しました。またベトナムには約950社の大企業(ベトナム基準)があり、うち400社が国営で、民間は250社、外資は350社です。金融制度・金融機関も急成長しており、4大国有商業銀行と5大民間銀行は安定していて、自己資本比率や不良債権比率は優良で流動性不足も問題ないと国際的に評価されています。
 一方、裾野産業については、ベトナム人と日本人の間に意識にギャップがあるようです。日本で裾野産業というと、金型や金属加工や塗装などの下請け・部品産業を指し、それが日系assemble企業の部品調達先になることが望ましいと考えられています。この分野の日系メーカーは中小企業ですから、需要が少なく採算がとれなければ、ベトナムに進出はできません。四輪車、電機電子機器分野は、他の先進アセアン諸国に比べてベトナムでは需要が非常に少ない現状です。又、私は「裾野」という曖昧な単語を使わず、基盤産業と言うべきだと考えていますが、ベトナム計画投資庁などでは日本が言う裾野産業育成が最重点ではなく、広く零細・中小企業支援を最重点としています。日本が言う裾野産業育成は、その中の一つの項目です。 もしも日本が考えているような裾野産業政策を行うなら、まずは地道に基盤産業の技術をベトナムに継続的に提供し、これらを国有企業の一部に或いは国が研究機関をつくりそこに技術を集積させて、民間企業はそれを利用するといった方法等が有効と思います。また現時点で重要なのは、鉄鋼業(高炉以降の工程でも)と石油化学工業と言った基盤産業を根付かせることで、その後に部品産業、裾野産業は発展すると思います。ベトナムの裾野産業の課題は基本的に需要が少ないことなので、先ずは基盤産業をしっかりさせることが先決と思います。

報告2
「ミャンマーのビジネス・チャンス―ASEAN広域ビジネスの可能性―」
工藤 年博 アジア経済研究所東南アジアⅡ研究グループ長

工藤 年博 ミャンマーでは今年、20年ぶりの総選挙が行われる予定である。総選挙によってミャンマーが一気に民主化されるということはないだろうが、何らかの形で、軍政から文民体制へ移行することは間違いない。これを機に、例えば経済制裁がすぐに解除されるかどうかは分からない。しかし、これまでミャンマーを厚く覆っていた政治リスクという霧が晴れ、ビジネス・チャンスが生まれる可能性も出てきた。今からミャンマーに注目していく必要がある。
 はじめに、ミャンマーでビジネスを行う際に留意しなくてはならないのは、この地域で経済統合が進んでいることだ。そして、この地域の経済統合は、大きな経済格差を抱えながら進んでいる。例えば、ASEANにおいては、先進グループはシンガポール・タイ・マレーシアで、それにベトナム・インドネシア・フィリピン(最近はこれら3カ国をVIPとも呼びはじめた)が続き、その下にカンボジア・ラオス・ミャンマー(CLM)がある。ASEANには2つのギャップ(経済格差)が存在するということだ。しかも、カンボジアやラオスも近年は順調な成長を遂げており、もしかするとミャンマーだけが取り残されてしまうかもしれない。
 さて、経済統合が進むと、産業立地に対して二つの相反する力が働く。その一つは産業が地理的に分散していく力で、もう一つは産業が少数の箇所に集積していく力だ。産業の分散力は、いわゆる比較優位に基づいている。この産業の分散力によって、東アジアではいわゆる雁行型の産業発展が観察されてきた。その一方で、経済統合が進むと、既にある程度の集積を持っているところに、さらに産業が集積してしまうことも知られている。これが産業の集積力である。この力はミャンマーのような後発の途上国が、産業化を進める際には不利に働く可能性がある。
 後発開発途上国のミャンマーが産業発展をなすためには、産業の分散力を活用するしかない。そのためには、東アジア大で展開している、生産・物流ネットワークに参入していくことが重要だ。そして、そのための武器、それは豊富で良質で低廉な労働力の存在に他ならない。2008年のわれわれの調査によれば、ミャンマーでは労働者の賃金が1カ月当たり約36ドルであった。これに対して、同じく後発開発途上国のカンボジアの賃金は約80ドルであった。両者の間にさえ、大きな差がある。一方、ミャンマーの労働者の教育水準は比較的高く、かなり質の高い労働力が存在する。これを活かすのが重要である。
 しかし、残念ながらミャンマーではインフラが未整備で、このため労働力以外のコストが非常に高く、労働力という大きな立地優位性が帳消しになってしまっている。また、政治リスクもある。したがって、それらのコストや政治リスクを下げなければ、ミャンマーの労働力を活かすこともできない。
 日本はミャンマーの縫製衣料品に関して最大の輸入国で、ミャンマーから輸入するときのメリットは、もちろん賃金の問題もあるが、もう一つの大きなメリットとして後発開発途上国に与えられている特恵が挙げられる。しかし、特恵措置を得るための原産地規則をクリアーしなければならず、それがこれまで布帛(ふはく)製品しかミャンマーから日本へは輸出できなかったという問題を生んできた。さらには、ミャンマーでの生産はデリバリーまでのリードタイムが長い、生産技術が不足しているといった問題があった。ここで提案したいのは、こうした問題を地域全体のリソースを組み合わせ、活用するという「広域ビジネス」で解決していくビジネス・モデルである。昨年のこの場で紹介したが、こうした広域ビジネスのアイディアのひとつが国境経済圏である。この他、日ASEAN包括的経済連携協定の活用、国境貿易など越境経済活動の活用など、広域ビジネスによってミャンマーの立地優位性を活用していく手段は、まだまだいろいろと考えられる。

報告3
「カンボジアとラオスにおける投資環境の整備(インフラと人材育成)」
廣畑 伸雄 山口大学大学院技術経営研究科准教授

廣畑 伸雄 カンボジアでは、5~10%の高い経済成長率が長く続いている。ただし、世界的な景気減速の影響を受け、2009年の経済成長率はほぼゼロにまで下がってしまった。過去10年ほどの間は、キャッサバ、天然ゴム、飼料用トウモロコシなど農林業分野への投資が次々と入り、鉱業分野でも、海上油田の探索・掘削が行われ、また、ボーキサイト・鉄などの鉱物資源のポテンシャルも高い。
 そうした中、カンボジアでは特別経済区(SEZ)ができ、全国36カ所で認可されている。カンボジアでは歴史的な経緯によって教育水準が低いという事実はあるが、近年は職業訓練校などにおいて、政府、援助機関、非政府組織(NGO)などが人材育成に取り組んでいる。我が国の支援でカンボジア日本人材開発センターもでき、生産管理等の訓練も行われている。日本からの企業進出に関しては、ハードインフラや、人材という意味でのソフトインフラの整備が進み、受け入れ調整機能も強化され、ビジネス展開の可能性が広がってきた。
 ラオスは経済成長率が継続的に高く、また、世界的な景気減速の影響が小さい。業種別の投資額は植林、キャッサバ、天然ゴムなど農業分野、そして銅・金という鉱業分野で大きい。また、水力発電が重要な産業であり、発電した電力をタイに輸出している。国別にみると、中国・韓国・ベトナムからの投資が増えている。
 インフラ整備については、工業団地、物流施設、商業施設等の大規模開発計画が準備中で、開発用地の確保が既になされている。また政府による職業訓練校として、自動車整備や縫製、ハンディクラフトなどいろいろある。さらに首都ビエンチャンなどでは、私立大学や短大ができている。産業人材の育成ではラオス日本センターも機能を果たしており、進出する日本企業に卒業生を就職させている。ラオスの日本人商工会も昨年発足している。日ラオス投資協定も1年半ほど前に締結され、ここで投資上のトラブル等を解決していく。このように、日本企業が進出する際の現地受け入れ体制は強化されてきている。ラオスには、ミャンマーに負けないビジネス・チャンスがある。

報告4
「メコン地域と商工会議所」
西谷 和雄 日本商工会議所国際部副部長

西谷 和雄 メコン地域の後発発展途上国がどのように経済発展をしていくのかを考えるための、1つのアイディアとして「国境経済圏」を提案したい。このプリゼンテーションの目的は、メコン地域における国境経済圏の可能性を検討することである。まず、ここでは国境経済圏を「国境地域に限定された地理的範囲に形成される局地経済圏」と定義しておきたい。そこではいろいろな経済活動が行われている。国境付近に集積する産業や国境を通じた貿易、またはカジノなどである。
 国境地域の立地優位性(ロケーション・アドバンテージ)を考えるとき、3つの視点がある。すなわち、国境をまたぐ補完的な生産要素の存在、経済統合の進展度との関係、そしてサービスリンク・コストである。国境とは経済的に見れば、自由な経済活動に対する規制に他ならない。しかし、国境という規制があるがゆえに、そこには生産要素の存在のあり方や価格に大きな格差が生じ、それによって国境地域には補完的な生産要素が「地理的な近接性をもって」存在することになる。そして、この地理的な近接性のゆえに、国境地域では後発発展途上国が抱える高いサービスリンク・コストという桎梏に悩まされることなく、補完的な生産要素を低いサービスリンク・コストで結びつけることができるのである。
 しかし、長期的に見て、メコン地域全体が1つの国の経済のように統合された場合には、生産要素は統合された地域(2カ国以上が形成する広域市場)を自由に移動することができることとなり、現在のように「国境による分断性」によって生じている国境地域の立地優位性はなくなっていく。そうすれば、国境産業も衰退していくだろう。しかし、これは相当に長期的な話である。現実的には、今しばらくはメコン地域の経済統合はそうしたレベルにまで進むことは考えられない。すなわち、中長期的には国境地域の立地優位性が消えることはないのである。
 さて、国境地域に産業集積を形成していくための政策ツールとして、私は経済特区をつくってはどうかと提唱している。実際に国境地域に経済特区を設置する動きはGMS地域で広く観察される。例えば、カンボジアではすでに18か19の経済特区の設置が申請されているが、そのいくつかは国境地域をターゲットとしている。
 こうした工夫をしていけば、国境経済圏、とくに国境産業は、後発発展途上国CLMの1つの新たな開発戦略となり得るのではないだろうか。もちろん、これがCLM各国の産業発展のメインストリームとなるとは考えていない。しかし、とくにミャンマーのように今しばらくは、国の中心地域に外国資本がたくさん投資してくるというような状況を期待できないところでは、国境経済圏構想は大きな力を持つのではないかと考えている。その際、CLM各国には2つ課題がある。1つは越境インフラをしっかり進めること、そしてもう1つはCLM側でビジネス・投資環境の整備することだ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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