平成22年度 第1回 アジア研究会 ●報告1「アジア大洋州の貿易構造とFTA動向~ASEAN・インドを中心に~」JETRO海外調査部 国際経済研究課 課長代理 椎野 幸平、●報告2「ASEANと中国の連携と協力~FTAを中心に~」亜細亜大学アジア研究所 教授 石川 幸一【2010/05/20】

日時:2010年5月20日

テーマ「東アジア経済統合、周辺国の経済深化」

平成22年度 第1回 アジア研究会
報告1「アジア大洋州の貿易構造とFTA動向~ASEAN・インドを中心に~」


JETRO海外調査部 国際経済研究課 課長代理
椎野 幸平

椎野 幸平 アジア全体、ASEAN+6全体の域内貿易比率は現在44%で、ASEAN・インドに絞ると1980年の15%から、25%まで上昇している。しかし、ASEAN・インド間で幅広い生産ネットワークが構築されているとまでは言えない。インドの対ASEANの輸出額を見ると、卑金属・鉄製品や食料品、化学品などが中心で、機械類、特に電気機器はほとんど輸入に頼っている。またIT製品はアジアのいわゆる核となっている貿易品目だが、圧倒的に輸入に依存している。このように、まだまだ生産ネットワークに組み込まれている状況にない。
 アジア大洋州のFTAで現在、関心が高まっているのは、ASEAN・インドFTAがようやく発効したということだ。ただし現状では、インド、シンガポール、マレーシア、タイについては発効しているが、まだすべてではない。ASEAN・インドFTAが発効したということは、アジア全体で捉えると、ASEAN+1のFTAが完成したことになる。日本企業への2009年11月時点でのアンケート結果を見ると、ASEAN・インド間で貿易を行っている企業が79社あり、うち37社がこのFTAの利用を検討しているということだった。これは他のFTAよりもかなり高い比率で、関心が非常に高まっているという状況だ。
 ASEAN・インドFTAでは、ノーマルトラックに分類されているものは2013年末に関税がゼロになり、ノーマルトラック2は2016年末なので、2016年にはASEAN・インド間は、ほぼ無税の品目で占められるようになる。2015年にはASEANでもCLMVの関税がゼロになるので、このようにして2015年前後に、無税化が一気に進んでくるだろう。
 アジア大洋州の貿易構造とFTAについて見ると、全体的にはIT製品のように元々関税がゼロだった部分ではFTAの影響はないが、それ以外の部分で出てくると考えられる。ASEANとインド間では、インドは化学品や卑金属・鉄鋼製品について競争力を持っており、こうした品目ではあまり競争力がないASEANに対してインドから輸出がある程度増えていく可能性が高い。機械類については、ASEANからインドへの輸出が増えていくだろう。特に日本企業はこの部分でASEANに集積しているので、1ヵ所で効率的に生産し、インドに輸出できるという点に関心が高まっている。
 一方、インドがASEANの中に一体的なマーケットとして組み込まれていけば、これまで高い関税によって維持してきたいろいろな政策を、ある程度、変えざるを得なくなるだろう。無税化が進み、インドでの生産コストが高ければ、「ASEANから持ってこれば良い」ということになり、インド政府もうかうかしてはいられない。ただ非常にセンシティブな問題で、これを変えていけるかどうかは大きなイシューだ。
 ASEAN・インドは貿易関係が強化されつつあるものの、まだ生産ネットワークへ本格的に組み込まれている状況にはないといえる。またASEAN+1のFTA網が完成し、ASEANとインドは一体的市場へ前進、当面は日本企業に関してだが、ASEAN拠点の活用による対インド市場開拓の検討を本格的にしている状況だ。そして長期的にはこういったFTAが、インドの構造改革も誘発する可能性があると考えている。


報告2「ASEANと中国の連携と協力~FTAを中心に~」


亜細亜大学アジア研究所 教授
石川 幸一

石川 幸一 ASEANと中国の経済関係は、21世紀に入り拡大・緊密化している。2004年に出来た「戦略的パートナーシップ行動計画」では、安全保障、経済、社会文化、国際関係の4分野で多様な協力を行うことを明らかにしている。経済分野で最も重要なのはFTAである。2001年のASEANと中国の首脳会議で、10年以内にFTAをつくることで合意、2010年1月1日にはASEANの先行6ヵ国と中国の間で自由貿易地域ができた。
 ASEAN・中国FTAは、物品の貿易だけではなく、サービス、投資、貿易円滑化、税関手続きなどの分野、そして規格などの相互承認、経済協力を含んでいる。関税分類のHS-01から08の品目(主に野菜や果物、水産物)については、先行的に関税の撤廃をするアーリーハーベストが実施された。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)については、特別待遇を決めている。ASEAN・中国FTAは経済的目的に加え、安全保障など政治的目的を有している。
 物品貿易協定については2005年に関税削減を開始、段階的に削減を行っており、2010年1月にASEAN6と中国で関税を撤廃した。CLMVでは、関税撤廃は2015年の予定だ。FTAが出来たと言っても実際はかなり多くの例外品目が残っている。センシティブ品目については関税率を2012年に20%以下に、そして2018年には0から5%に下げる予定であり、高度センシティブ品目では、2015年時点で関税率を50%以下にすれば良い。関税削減の方式、原産地規則などは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)をモデルにしている。
 ASEAN・中国FTAの利用率については、日本貿易振興機構(JETRO)で計算された数値を見るとかなり低い。理由はいろいろあるが、特に最近の貿易で中心的な輸送機械、電気機械関係が例外になっていることが挙げられる。エレクトロニクス製品は既にほとんど関税がゼロになっているので利用する必要がない。直送基準があるため仲介貿易には使えない。さらに、中国とASEANを別個の生産基地、市場と考える企業の戦略も理由の1つである。
 2007年1月にサービス貿易協定が調印された。多くの条文が、世界貿易機関(WTO)のサービスの貿易に関する一般協定(GATS)と同一であり、ポジティブ・リスト方式のGATSタイプのサービス協定である。投資協定は2009年に署名したばかりだ。投資の自由化については非常にレベルが低く、むしろ投資保護協定的なものだ。
 ASEANと中国の関係は急速に拡大、深化している。貿易では中国が日本を凌駕している国がかなり増え、投資についても中国企業のASEANへの投資が増えている。経済協力では、中国は特にCLMVを中心に様々な協力を行っている。また中国のプレゼンスは、経済だけでなく文化などの分野でも非常に拡大している。ASEANには中国脅威論はあまりないようで、むしろ急激に成長している中国の経済、拡大しているマーケット、機会を利用しようとしている。大国間のバランス外交、あるいは先進国から援助を引き出す際の1つのカードとしても使っているのではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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