第101回-1 中央ユーラシア調査会 「中国のユーラシア外交と内陸発展政策」東京大学 大学院法学政治学研究科教授 アジア戦略会議座長 高原 明生【2010/02/17】

日時:2010年2月17日

第101回-1 中央ユーラシア調査会
「中国のユーラシア外交と内陸発展政策」


東京大学 大学院法学政治学研究科教授
アジア戦略会議座長
高原 明生

1. 中国の外交戦略:90年代以降の対米政策と地域政策との連動
高原 明生     中国のユーラシア外交を説明するには、大きく分けて3つのアプローチがある。まずユーラシア外交だけを切り取るのではなく、それが全体の外交戦略でどういう位置づけになるのかを把握することが重要だ。そして2つ目に、エネルギー外交という意味でのユーラシア外交があり、もう1つ中国側に言わせると、反テロ活動の一環としてのユーラシア外交がある。これらについてはもちろん、相互の連動もある。
 中国のユーラシア外交は特に、対米外交との連動が顕著だと思う。90年代には特にそうだったが、アメリカと対立状況に陥った際、中国は自らの孤立を回避するため、近隣諸国との間で仲間の輪をつくり始めた。それは中国から見て東側においてはASEAN(東南アジア諸国連合)+3などで、西側においては上海協力機構に結実するような中央アジアおよびロシアとの連携ではなかったか。また、その構図は同じようでありながら、やや性質を変えつつ今日に至っているのではないか。
 中国共産党の指導者は、伝統的に大変リアリスティックな国際政治観を持ってきたと思う。今日においても基本的にそうで、つまり国際政治とは大国間の権力闘争だという見方だ。そこで冷戦中は、2つの超大国であるアメリカとソ連との関係が最も重要な軸だった。冷戦後は当然ながら、唯一の超大国となったアメリカとの関係が外交の中心だという基本的な状況は、今日まで変わっていないだろう。

2. 中国の台頭と複雑化する米中関係、中印関係
 よくいわれる説は、9.11が起き、反テロ運動をする上で、アメリカは中国を必要とし、それによって対立状況に陥っていた米中関係が良くなったということだが、実はアメリカが動き出したのはそれ以前だ。その理由を1つ挙げろといわれれば、「経済だ」と答えて間違いないだろう。要するに冷戦後のアメリカの対中政策は、簡単に言うと2つの柱からなってきた。一方には戦略的な対抗、競合という柱があり、もう一方には経済的な統合、エンゲージメント、経済的な関与という柱があった。その局面によってどちらが前面に出るか、どちらが強い要因となるかが変わっていく訳だ。
 オバマ大統領は中国をグローバル・パートナーとして遇すると鮮明に打ち出し、あらゆるグローバルな問題で中国と協力してやっていきたいとしていた。しかし1年間ほどやってみて、少し具合が悪いということになってきたのが、昨年末ごろではなかったか。最近のアメリカとの摩擦が中国にどのような影響を及ぼしているかというと、恐るべきことに中国国内の言説は過激化している。メディアでは驚くような主張がなされており、例えば「中国はアメリカ本土を攻撃する能力を持たなければだめだ」、しかし太平洋からアメリカに迫ることは難しいので「大西洋へ出よう」というものがある。さらに大西洋へ出るには、南シナ海の支配権を得なければならず、次はインド洋だという。アメリカの経済政治の中心は大西洋側にあるので、「そこを直接脅かすことができれば、中国は外交で主導権を握ることができる」といった言説が堂々と出ている。
 もう1つの焦点は、インドだ。昨年ごろから中印関係があまりよくなく、中国のメディアでもインドのメディアでも相手に対する中傷が目立つ。そのことは海洋の支配権とも関係しており、実際の事象としては、国境紛争が昔と比べると目立つようになっている。ところがインド海軍は強く、中国海軍が弱いことは皆、よくわかっている。そこで「我々は陸から行くべきではないか」という議論がある。インド洋を押さえなくてはいけないという考えは、ユーラシアと関係がある。これは要するに、エネルギー問題があるためだ。そしてインドはまだ強いので、ミサイルで「陸をもって海を制する」などという発想からどんどん考えが回ってしまう。こういう怖い状況が中国の一部にある、ということを申し上げておきたい。

3. 反「テロ」:新疆での独立運動
 次に反テロについてだが、9.11があり、中国はそのチャンスを捉えてアメリカと提携するようになった。そして2002年には、東トルキスタン・イスラム運動というウィグル族中心の組織を、「テロ組織」としてアメリカ、国連にも認めさせることができた。9.11ほどの規模ではないが、中国はいわゆるテロには長い間付き合ってきた。アメリカとは異なり、中国は真面目に原因を分析し、「飴と鞭」政策で問題に対応しようとした。例えば2000年を中心に行われた調査の結果だが、なぜ新疆で独立運動、「テロ」が起きるかというと、中国共産党は基本的にはマルキストなのか、「拡大する経済格差、教育格差に最大の問題がある」という分析結果になったという。そして特に2000年からは、西部大開発戦略が始まった。これは例えば、財政補助を毎年24.4%ずつ増やしていくというのだから相当なものだ。
 しかしそれほど一生懸命、西部大開発などを進める中で、ウルムチの大暴動のような問題が起きてしまったのはなぜか。前年3月に起きたチベットの暴動も思い出されるが、当局はいずれも宗教民族問題ではなく、国外にある組織の扇動、あるいはそれとの連動が原因だ、民族間対立、宗教対立が深刻な状況にある訳ではないとしている。国外の組織とは、チベットの場合は当然ダライ・ラマとその集団で、新疆の場合は世界ウィグル会議だ。しかし、これには説得力はない。また内部で流布している話は、「アメリカの策動だ」というもので、これには驚く。では何が原因なのかというと、良きマルキストであれば、やはり経済に問題がないとはいえないだろう。またもう1つある深層の問題は、思想の問題ではないか。つまり、多文化共生の思想が根付いていないところに、根本的な問題があるという気がする。
 具体的な対策はやはり、経済第一ということになるが、非常に難しい。民族地域だけを特別扱いするのはどうかということがあり、また市場経済なのでフェアにやらなければいけない。といっても初期条件が全然違うので、どうしたら良いかだ。さらに財政支援ばかりでなく、富を生み出す力をどう養成するかも大事なのではないか。あるいは民族地区には資源が多く、生態系保護が難しい問題になっているなど具体的な問題が多々あるという話だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部