第103回-1 中央ユーラシア調査会 「中央アジア情勢:現下の主要トレンド」Japan and World Trends代表元在ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使 河東 哲夫【2010/06/21】

日時:2010年6月21日

第103回-1 中央ユーラシア調査会
「中央アジア情勢:現下の主要トレンド」


Japan and World Trends代表元在ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使
河東 哲夫

1. 中央アジアをめぐる最近の国際環境
河東 哲夫     ユーラシア大陸の情勢を規定する最も大きな要素は、今もやはり米ロ関係だろう。ロシアの国力は下がったが、ロシアは中央アジアでまだ、かなり大きな影響力を持っている。そしてブッシュ時代の北大西洋条約機構(NATO)拡大政策が終わり、米ロ関係がリセットされていることが、中央アジア情勢を考える上での基本的な要素の1つだと思う。これがキルギス問題への対応など、中央アジアをめぐる最近の様々な情勢にも表れている。また米ロ関係のリセットと同時に、NATOが再び方向感を失いつつある。
 中央アジアで重要なもう1つの要素は、中ロ関係だ。中央アジアでは中ロが競合関係に入りつつあるという観測があるが、決定的な対立はまだ表れていない。中ロ関係では競合、協力の双方が表れながら推移している状態だ。さらに中央アジアをめぐる大国関係で、非常に重要になりつつあるのは米中関係だろう。米中関係はここ数年、非常に良かったが、米国が台湾に武器を供与したことをきっかけに、現在はかなり悪くなっている。これがいつまで続くのかはわからないが、長く続けば中央アジアにおける1つの大きな変化の要因になるだろう。
 また最近ではトルコが昔のオスマン・トルコ時代の栄光を求めているのか、ポテンシャルを最大限に発揮するための外交を展開している。さらにイランやアフガニスタンも、中央アジアで1つの要素になろうとしている。

2. 中央アジアにおけるロシアの動向
 ロシアはこの半年ほど、中央アジアで上げ潮のようだった。例えば石油価格が上がり、経済的に再び様々なことができる態勢になってきた。具体的には、ロシアは集団安全保障条約機構(CSTO)をNATO並みに引き上げたいと思っており、3月ごろにはCSTO事務局が国連事務局との間で、「協力についての共同宣言」という文書に署名した。しかしキルギスの騒動では、臨時政府がCSTOに対して軍の派遣を要請したものの、うまく行かず、CSTOはクレディビリティを疑われることになっている。中央アジアにとってロシアの存在は、安全保障に強くガスや石油の生産を手伝ってくれるという程度だったと思うが、この安全保障面での信頼性が危うくなってきている。
 中央アジアで足踏みをしているのはロシアだけではなく、中国も同様だ。中国はカザフスタンから石油を、トルクメニスタンから天然ガスを買うという意味では上げ潮だが、政治面では足踏み状態だ。そして米国も当然、足踏みの状態だ。キルギスでの騒動後、米国は臨時政府を承認するのがロシアより数日遅れた。しかし米国には元々、中央アジアで政治的に覇権を唱えようという意図はない。

3. 国際的なフォーラムの動き
 中央アジアをめぐる他の要素として、アクターとして意味を持つ様々な国際的なフォーラムがある。その1つは上海協力機構だが、6月にタシュケントで開かれた首脳会合の成果は低調だったといわれる。そこでは新規加盟国を認めるための手続きに関する文書や、物事を決める際の手続きを定めた文書について合意がなされた。また今回の首脳会合で目立ったのは、イランのアフマディネジャド大統領が出席しなかったこと、そしてイランの加盟が当面ないということだ。
 国際的なフォーラムでは、米国は今後、欧州安全保障・協力機構(OSCE)を重視していくかもしれない。そしてもう1つ、フォーラムとして興味深いのは、6月9日にイスタンブールで開かれたアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)の首脳会合だ。1992年にソ連が崩壊した後、カザフスタンのナザルバエフ大統領が音頭を取って、これを立ち上げた。上海協力機構を西へ少しずらし、東南アジア諸国連合(ASEAN)にも翼を広げたようなゆるい会合で、20ヵ国が参加している。米国、日本はオブザーバーだが、我々が中国や関係諸国と共にユーラシア問題を議論する場としては、上海協力機構より筋が良いかもしれない。
 また米国は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を担いでおり、今年11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)の首脳会議で浮上する可能性がある。米国が加盟すれば、TPPは非常に大きくなる可能性がある。このようなフォーラムが、アクターとして流行しており、興味深いことにフォーラムの事務局が独自の外交をする動きもある。例えば、NATOやCSTOと国連事務局の間で署名された文書があり、最近では上海協力機構の事務局とどこかが同様の文書を交わしている。また日本政府は、上海協力機構の事務局とも接触している。このように国際的なフォーラムの事務局が、外交のアクターとして行動するようになってきた。

4. 中央アジア周辺地域への動向、各国の情勢
 周辺地域の動向については、ウクライナは大統領選後の3月頃は親ロに傾き過ぎたように思うが、現在は真ん中辺りへ戻ってきている。またアゼルバイジャン、アルメニア、トルコの間で、この1年間に興味深いことが起きた。米国が働きかけ、アルメニアとトルコの関係回復、そしてナゴルノカラバフ問題の解決が試みられた。ナゴルノカラバフ問題は進展しているといわれるが、アルメニアとトルコの関係は回復直前まで行ったものの、だめになった。
 中央アジア各国の情勢では、基本的にはあまり大きな動きはない。ウズベキスタンはロシアに対し、比較的筋を通した外交を続けている。キルギスについては、外政的には中央アジア諸国から、同等の仲間として認められていない。タジキスタンは国内の経済情勢が悪いので、外政的にも方向を示せず、あちこちを向いている。トルクメニスタンも同様だ。
 但し各国の内政を見ても、あまり大きな動きはない。一方、日本の外交に関して私が良かったと思っているのは、カザフスタンとウズベキスタンに対する円借款が最近、相次いで署名されたことだ。そして菅直人氏が財務大臣として、ウズベキスタンを訪問したことだと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部