第107回-2 中央ユーラシア調査会 「国際的プレゼンスを高めるインド」帝京大学 経済学部教授 清水 学【2010/11/19】

日時:2010年11月19日

第107回-2 中央ユーラシア調査会
「国際的プレゼンスを高めるインド」


帝京大学 経済学部教授
清水 学

オバマ訪印(11月6日~9日)と米国のインド重視確認
清水 学 11月6日から9日まで、オバマ大統領がインドを訪問した。新聞報道によれば、アメリカのビジネスマン約250人が同行し、ムンバイで入国し、およそ100億ドルの商談がまとまったとのことである。アメリカが必死にインド市場に参入しようとする姿勢が印象付けられた。その後オバマ大統領はニューデリーへ飛び、マンモハン・シン首相と会談を行い、共同声明が発表されている。共同声明にはいくつか特徴的な点が見られる。価値観の共有という言葉が、さまざまに言い方を変えて使われている。民主主義という言葉もかなり頻繁に使用されており、共通の価値観を確認している。2点目は、インドに対してより国際的な役割を果たしてほしいというアメリカ側の希望が表明されている。昨年11月のオバマ大統領の訪中の際には、北京共同声明の中に、中国に対して南アジアの安定に向けての役割拡大を求めており、このことがインドを刺激していた。 3点目として、インドと米国は核エネルギー問題で協力をしているが、アメリカがさらに熱心に売り込みをはかっていることである。インドは核不拡散共同声明(NPT)に加盟せず、アメリカはこれを一貫して批判してきた。しかし、今回の共同声明で、インドにNPTに加盟すべきだ、とは一切述べていない。1998年のインドの核実験に対して米国などの経済制裁が行われたが、最後に残っていたハイテク技術輸出制限も撤回された。4点目は、インドの国際社会での役割の拡大として、アメリカは、国際連合の安全保障理事会での役割強化とインドの常任理事国入りを支持すると明確に表現したことである。ただし時間的な目標は述べられていない。五つめとして、アメリカとインド間の反テロ分野での協力強化を前以上にかなり言葉を割いている。以上が特徴として挙げられる。

印中関係 - 対抗と協調
 印中関係においては、協調面、対抗面が交互に入り込んでいる。協調面では、経済関係の緊密化がある。インドの対中貿易は、輸出が93.5億ドル、輸入が325億ドルで大幅な入超であるが、2009年4月~12月では少しずつ改善の方向に向かっている。この間に中国はインドにとってUAEを抜き最大の貿易相手国になった。現在は入超であるが中国との経済関係が無視できない大きな比重を占めし、対中関係を慎重に扱わなくてはいけない要因の一つになっている。また、インドは、新興経済圏として対先進国政策での協調、地球温暖化の問題、BRICs間の協調、上海協力機構への参加など中国との協調関係の分野がある。エネルギー分野でも対抗と協調がみられるが、本日は詳しい説明は省略させていただく。
 印中関係は、対抗関係、緊張関係を孕んでいる。現在、中国とインドの国境紛争地域は、大きく2ヶ所、西部アクサイチンと東部アルナチャール・プラデシュにある。アクサイチンには、新疆ウィグル自治区とチベット自治区を最短で結ぶ軍事道路が通っている。カシミールはインドとパキスタンで係争していると同時に、中国とインドの間でも係争している三つ巴の関係になっている。
 またインドは中国の海軍力に対して、強い警戒心をもっている。さらに、非常に警戒を強めているのは、中国のインド包囲網ができつつあるのではないかということである。アメリカ筋が命名した「真珠の首飾り戦略(String of Pearls Strategy)」がある。中国は、中東・アフリカから中国南部へのシーレーン沿いの一連の軍事基地・軍港を構築し、その地域に位置する諸国との外交関係の強化を行っている。そのなかでパキスタン、スリランカ、バングラディシュ、ミャンマー、ネパール、もちろんブータンもはいるが、これらの国との関係を中国が意識的に強化してインドを包囲しようとしていると見ているのである。
 次に、インドは中国に対抗しうる力を持ちえるかどうかである。人口はほぼ匹敵するが、経済力は大雑把に比較すれば、GDPの規模で3:1である。一人当たりのGDPを比較しても中国は3千ドルを超えているが、インドは千ドル程度でやはり3:1である。中国も今のところインドが南アジア、インド洋の枠を超えて拡張してくるとはみていない。
 アメリカの対印支持が、中印関係を不安定化させる契機となるかはよくわからない。両国とも経済成長の維持と安全保障政策を両立させる必要がある。インドは外交の独自性をどう維持するか、という問題もある。対イラン政策においては、アメリカとはイラン政策については意見が一致しなかった。

国民統合の課題
 最後に、インドは国内的な問題をいくつか抱えているので簡単に紹介したい。まず今年の6月にカシミールで反インド紛争が再燃している。カシミールの問題は、つまりアフガニスタン問題と裏表の問題で連動しているところがある。これが不安定要因として存在している。
 二点目として、州の中をさらに細分化しようという動きがまた強まってきている。一番顕著なのがハイデラバードが首都となっているアーンドラ・プラデーシュ州である。よくあることだがテレンガナの独立を求めて断食の抗議などがおこなわれている。
 三つめの問題は、毛派共産ゲリラである。ここ数年毛派共産ゲリラが活躍し活動を活発化させている。どのくらい戦闘員がいるのかはよくわかっていないが、鉄道、道路を襲撃して、鉱物資源の採掘所や積出ルートなどを攻撃している。攻撃が活発化すると物流に影響が出ており、実際にも影響が出ている。毛派共産ゲリラはインドの中で最大の治安問題となっている。
 四つ目は、宗教回帰現象の問題で、単にイスラムだけではなくヒンドゥー教においても見られる。BJP(インド人民党)はヒンドゥー原理主義的な動きを支持する政党である。例えばIT関係のヒンドゥー教徒のプログラマー等の間でヒンドゥー教回帰の動きがよく見られる。これがなぜかについて、私なりの説であるが、一種のアイデンティティ危機の問題と関係していると思う。
 五つめは、マンモハン・シンの後継者問題がある。現在は、国民回帰派のマンモハン・シン首相率いる政権がなんとか現状を維持している。マンモハン・シンは政治的な野心がなく、インドの政治家として汚職の噂がない非常に珍しい人物である。ただし、彼は重要な決定、特に内政、外交にかかわるものは、自分自身ではせずに、国民会議派、与党の総裁の元首相ラジーブ・ガンディーの未亡人であるソーニャ・ガンディーの最終的な判断を仰いでいる、といわれている。後継者として、ラフール・ガンディーというラジーブ・ガンディーの次男を持ち上げようというキャンペーンもあるが、彼の真の力量が見えていない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部