第40回 IISTアジア講演会 「朝鮮半島情勢の今 -哨戒艦事件と6者協議」関西学院大学 国際学部国際学科教授 平岩 俊司【2010/07/28】

講演日時:2010年7月28日

第40回 IISTアジア講演会
「朝鮮半島情勢の今 -哨戒艦事件と6者協議」


関西学院大学 国際学部国際学科教授
平岩 俊司

平岩 俊司はじめに
 本日は、最初に哨戒艦事件と6者協議、2番目に北朝鮮の今後を占う上で、非常に大きな意味があるとみられる第3次代表者会について、昨年ごろから北朝鮮で起きている権力構造の変化と関連付けて考えてみたい。また、日本では鳩山政権が終わり、菅新政権が発足するので、民主党政権と北朝鮮という観点でもお話ししたい。このように、国際関係と内政、日本と朝鮮半島の関係という3本柱で話を進める。
 朝鮮半島問題では多くの場合、北朝鮮に端を発する問題が、国際社会で問題になる。かつては韓国も様々な形で問題を起こした時期があり、例えば1970年代には金大中(キム・デジュン)事件、80年代頃は韓国の軍事独裁政権に対するある種の批判本がほとんどだった。一方、北朝鮮については批判というよりも、むしろ韓国に比べると良いのではないかといった雰囲気があったように思う。80年代に入ると徐々に北朝鮮体制への疑問がではじめ、現在では、朝鮮半島問題の大半は北朝鮮に端を発するという状況だ。韓国は先進国の仲間入りをしており、経済的な分野では日本を凌駕する部分もある。そのような意味で、南北の格差ができたと感じる。
 では、現在の北朝鮮問題とは何か。まず核、ミサイルの問題がある。1980年代後半頃はじまり、1990年の第1次核危機を経て、90年代後半のテポドン1号発射、さらには2002年に始まる第2次核危機があり、現在まで続いているということだろう。そして最近では、通貨交換による経済的混乱がある。1990年代以降、社会主義陣営が崩壊し、経済的な後ろ盾がなくなったことから北朝鮮では経済的混乱があった。昨年11月、12月ごろには通貨交換、デノミを行うことにより、当局が管理できないような自由経済の拡大を抑え、再び管理下に置こうとする動きがあり、大きな混乱があったようだ。
 また、より根本的な問題として、いわゆる後継者問題がある。金正日(キム・ジョンイル)総書記は現在かなり健康に不安がある。このように、国際関係ではいわゆる核ミサイルの問題があり、さらに経済の問題、内政の後継者問題という、比較的長期にわたる3つの問題がある。
開催風景 そして、もう少し短い期間に焦点を絞ると、対米関係の閉塞感と哨戒艦事件がある。北朝鮮は昨年4月にミサイル発射実験を行い、この問題が国連安全保障理事会で扱われた瞬間、北朝鮮は6者協議を拒否し、5月に2度目の核実験を行った。これらは自らのミサイル能力、核能力を向上させ、交渉能力を上げた上で、アメリカと交渉したいというのが本音と思われる。それを証明するかのように、昨年5月の核実験以降、北朝鮮のアメリカに対する挑発行為は続いたが、基本的には対話を目指す姿勢であった。北朝鮮とアメリカの間では、1953年7月27日に休戦協定が結ばれているが、戦争が完全に終わった訳ではなく、「一時中断」という状態が50年以上にわたって続いている状況だ。したがって北朝鮮は、アメリカとの間で平和協定を結ぶための協議をしたい。このため6者協議ではなく、米朝2国間協議をしたいと考えている。
 一方、オバマ政権は選挙戦の間からずっとブッシュ政権のやり方を批判し、北朝鮮側の条件闘争には乗らないというのが、基本的な姿勢のようだ。オバマ大統領は就任後、「核なき世界」をアピールしてきたが、まさにその最中に北朝鮮が核実験を行った国とは安易に妥協できないということもあるだろう。またアメリカにとって、北朝鮮問題の優先順位は必ずしも高くない。

哨戒艦事件と6者協議
 そうした中で哨戒艦事件が発生した。3月26日に韓国の哨戒艦「天安」の艦尾に穴が空き浸水・沈没、46名が行方不明になった。韓国の報道機関は北朝鮮の仕業を強調したが、李明博(イ・ミョンバク)大統領は4月1日の段階では、過熱気味の報道について、「危険な動きだ。証拠もなしに北の関与だという予断を持つべきではない」と冷静な対応をしていた。
 しかし5月4日には、李明博大統領も北朝鮮の関与を示唆し始めた。これには韓国の地方統一選挙が関係していたといわれる。李明博政権の与党は北朝鮮問題でかなり強く出なければ惨敗するとみられていた。5月20日には、米韓にイギリス、スウェーデンが加わった4カ国による合同調査団の調査結果が発表され、北朝鮮製の魚雷によって哨戒艦が沈没したとの調査結果が発表された。しかし、実行犯は誰なのかというと、北朝鮮製の魚雷なので北朝鮮の関与が常識的な考えではあるが、特定はできない。
 韓国に対する北朝鮮のテロ行為は、これまでにもいくつかあった。例えば1983年にはビルマのラングーンで韓国閣僚に対する爆殺テロでは、実行犯が逮捕された。そして金賢姫(キム・ヒョンヒ)元工作員の関与した大韓航空機爆破事件も、実行犯は特定されている。しかし、今回の哨戒艦事件では実行犯が特定できず、中国との関係では韓国にとって残念な展開になる。この調査結果について中国は、状況証拠によって実行犯を特定し北朝鮮の犯行を証明したとはいえないとし、韓国に対して北朝鮮に釈明の場を与えるよう内々に伝えたようだ。5月24、25日の米中戦略経済対話の中でも、中国はアメリカに対し、今回の事件の調査結果が不十分であることを主張し、国連での制裁決議にも否定的だったと伝えられた。5月末の日中韓の首脳会談でも中国側の姿勢に変化はなかった。
 韓国は6月4日に国連安保理に協議を正式に要請、6月27日の日中首脳会談の際には、胡錦濤主席がこの事件について「日本と意思疎通を図り、協力していきたい」と述べている。7月9日に国連での議長声明が発表されたが、北朝鮮名指しでの批判はなく、北朝鮮の国連大使はこれを「自分たちの勝利」と位置付けている。なお、韓国の統一地方選では北朝鮮に対する強攻策が裏目に出て、与党が惨敗する結果になった。これについて、韓国の国民は一般に北朝鮮に対して憤りは感じるが、過度に南北関係が緊張して不安を高めることには賛成しない世論であったといわれる。そしてもう1つ、中国が韓国の予想を超えて厳しい姿勢だったことがある。米中戦略経済対話では、アメリカ側が強く出なかったことから、中国はその後、日中韓首脳会談でも同様の対応をした。このような要因から、当初は国連での制裁決議を求めるという強硬姿勢だった韓国も、議長声明へと立場を転じることになった。
 この国連議長声明を「自らの勝利」と確信した北朝鮮は、先日行われたASEAN地域フォーラム(ARF)の会合で、「国連の議長声明の精神に則る形で対話を再開したいが、米韓は軍事演習という形で対応している」として、非はむしろ米韓にあるという立場をとっている。また、この米韓軍事合同演習では、本来は哨戒艦事件が発生したエリアで行うはずだったが、中国の反発もあって、日本海側で慎重に行われることになった。
 このような状況にあるので、6者協議は当分難しいという気がする。やはりアメリカと中国が大枠で、この問題を含めた今後の6者協議の行方を協議し、アメリカが韓国を説得、中国が北朝鮮を説得していくことにならざるを得ないだろう。現在は米韓軍事行動演習で多少、緊張状態にあるが、今後の6者協議については、最終的には米中関係で決着するように思う。
 北朝鮮は繰り返し、「平等な立場で、6者協議で核問題を議論する」としており、平等な立場とは、自らが核保有国であるため一方的に核を放棄するのではなく、核保有国であるアメリカとの間で交渉を行うということだろう。そしてもう1つ、彼らが主張しているのは、朝鮮半島の核だけでなく世界の核問題を同時に扱わなければいけないということだ。これは現実問題として、アメリカからすれば受け入れられるはずはなく、日本や韓国も当然受け入れられない。このように、仮に6者協議が再開しても、厳しく長い忍耐力が必要なものになるだろう。

第3次代表者会と北朝鮮の権力構造
 今年4月と6月の2回にわたり、北朝鮮では北朝鮮の国会に相当する最高人民会議が開催された。実は今回、この2回目の会議で後継者問題について大きな動きが出るのではないかという見方があったが、表面的には、崔英林(チェ・ヨンリム)が総理に返り咲いただけだった。崔英林と呉克烈(オ・グッリョル)国防委員会副委員長は70年、80年代と今の金正日総書記が北朝鮮国内で地位を向上させていった時期に共に地位を上げてきた。引退したといわれていた崔英林が復活、そして呉克烈も一時期表舞台から引き下がったが、昨年4月に国防委員会の委員に突然返り咲いている。また、金正日総書記の妹の夫である張成澤(チャン・ソンテク)も呉克烈が国防委員会の副委員長に返り咲いたときに国防委員会の委員になっている。問題は、この張成澤が国防委員会に入ったことをどう評価するかだ。
 金日成(キム・イルソン)から金正日に権力継承がなされたときは、最初から何かのルールに則って選ばれた訳ではなく、金正日を後継者にすることが決まってから、あらゆる理屈で後継体制を正当化した。したがって、金日成から金正日の後継で使ったルールが、今回も適用される訳ではない。
 表面的に言える事は、1つは北朝鮮の権力構造の中心的な舞台が国防委員会だということで、これは金日成から金正日への権力移行の際とは決定的に異なる。共産圏の国では当初、政府と党、軍の3つが柱で、中でも党が中心的な存在であるのは他の共産圏の国家でも同様だった。したがって金正日後継体制も、党の中でずっと行われていた。しかし1989年に中国で天安門事件が起き、さらにはそれに先立ち、ルーマニアのチャウシェスク政権が崩壊した。これらが北朝鮮に与えた教訓というのは、体制の最終的な局面を左右するのは軍であり、軍の動向を左右できなければ体制維持は不可能だということだったろう。そして1990年ごろからは軍に後継の舞台を移し、金日成は最高司令官、国防委員会の委員長を金正日へ譲り、それを軸として党総書記と国家主席という政府と党の最高権力者のポストを譲り渡すはずだったのだろうが、国防委員会の委員長を譲り受けた直後に、金日成は死んでしまう。
 皮肉な話だが、今の北朝鮮の先軍政治は1つの解釈として、金日成が生きている間に金正日が受け継いだポストを異常に肥大化させたものといえる。当初予定されていた後継体制とは違った形での軍に偏った形での体制づくりが、現在の北朝鮮の政治体制といえる。それを前提にすれば、今の北朝鮮の権力の中枢は国防委員会であることは間違いなく、後継体制問題が処理されるのは、国防委員会を舞台にした動きということになる。
 国防委員会の陣容が昨年4月に明らかになり、さらには古参の軍人、呉克烈が復活した。なおかつ、軍歴の薄い張成澤が国防委員会の委員になり、6月に異例に開催された2度目の最高人民会議で、張成澤が国防委員会の副委員長という、異例の出世をする。つまり張成澤が国防委員会の中でかなり権力を握った。では今後、三男の後継があるのか、それとも張成澤自身が権力を握るのかというと、現段階では何ともいえない。
 第3次代表者会はある意味で、党大会以上の大会だと私は考えている。代表者会はこれまで、1958年と1966年の2回開催されている。1958年の第1回代表者会は、1950年代前半ごろからソ連派、中国派との権力闘争を行ってきた金日成が、国内での権力闘争に事実上勝利したことを宣言した大会だ。代表者会は、労働党の党大会と党大会の間で党大会を開催できないときに、党大会と同等の会議として開催できるというものだ。第2次代表者会は1966年で、中国の文化大革命直後に開催された。このときに北朝鮮は、外交政策について、中国、ソ連に対する自主路線を宣言する。つまり内政と外交で、これまでの北朝鮮の歴史で極めて重要かつ意味のある大会が、この代表者会だった。今回は久しぶりに代表者会が開かれることになり、ここで何が行われるのかが非常に注目される。巷間いわれるように三男が仮に後継するなら、今回の代表者会で何らかの動きがあるだろうし、それ以外の選択肢があるとすれば、代表者会で方向性が一定程度、見えてくるだろう。

民主党政権と北朝鮮
 日本にとっての北朝鮮政策は、拉致、核、ミサイルといわれる。しかし当然ながら、これは日本の立場だ。北朝鮮は菅政権が発足した際、「日朝関係では、日本が過去をいかに清算するかが第一義的な問題だ」と言い、次の問題として出てくるのは「人権」だ。高校の授業料無償化で在日朝鮮人総連、朝鮮学校を別扱いしたことを、北朝鮮は人権問題という言い方をしている。過去の清算と人権が北朝鮮にとっての大きな柱である。そしてもう1つが、対米関係である。
 日本では現在、北朝鮮問題に関して2つの側面がある。1つは国内問題、もう1つは国際問題としての側面だ。金賢姫元工作員の来日は、かなり国内問題を意識したのだろうが、予想どおり、拉致そのものに関する新しい情報はあまりなかった。今回の来日を評価できるとすれば、1つは拉致問題を日本国民にリマインドした事、もう1つは、金大中政権、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権という、北朝鮮との関係を非常に重要視する2つの韓国の政権下での金元工作員の来日は難しかったが、今回実現した。それによって、日米韓の協力関係をもう一度確認できたことであろう。
 国内問題では、金賢姫を呼んだ中井洽拉致問題担当相を中心とする拉致対策本部が、基本的に対応している。しかし拉致問題の単独での進展は考え難く、核、ミサイル問題の動きに合わせる形で進展すると考えら、外交問題として扱う側面がある。しかし、実は、この2つは大きく割れている。
 2008年8月に、瀋陽で北朝鮮と日本の実務者協議が行われ、日本と北朝鮮はここで、拉致問題に関する再調査委員会を立ち上げる約束をした。当時は福田政権だったが、その直後に福田康夫総理が辞任し、麻生政権が誕生した。北朝鮮側は麻生政権がどのような北朝鮮政策を取るのかを見てから自分たちの態度を決めるとし、拉致問題の再調査委員会を立ち上げていないというのが現在の状況だ。実は当時の野党の民主党議員として、中井大臣は実務者協議での再調査委員会に、かなり批判的な立場をとっていた。したがって、ご本人の立場からすると、北朝鮮に対して妥協的な姿勢になることは許せない。一方、外務省などの主導によって国際問題として扱ってきた部分では、日朝実務者協議も日朝が単独で動くのではなく核問題の進展と同時並行でということで動いていた。このように、国内問題を担当する部署と国際問題を扱う部署とで温度差がある。現時点では、実は核問題について塩漬け状態であるがゆえに、こうした温度差が表面化せず、同じような方向に向いている。そして金賢姫元工作員の来日に先立ち、今年4月には黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元労働党書記も日本を訪問した。国内では、拉致問題をリマインドするという働きかけの意味があったと思われる。
 日本が拉致問題について北朝鮮を動かそうとするならば、やはり6者協議を動かし、その枠の中で2者協議、日本の国益を実現していくしか効果的な方法はないというのが今の日本の立場だ。さらに言えば、拉致、ミサイル、核という問題を抜きにしても、朝鮮半島の問題について、実は日本が正式な形で関与できる枠組みとしては、6者協議が一番理想的だ。

おわりに
 今日お話しした3つの柱だが、1つは6者協議再開問題では、何とか米中に方向性で合意してもらいたい。今回の哨戒艦事件では、韓国が中国に対し、ある種の警戒感を強めたことは間違いないが、北朝鮮問題で中国の働きかけがなければ、日米韓の思惑が反映されないことになる。その場合に重要なのはやはりアメリカだろう。今回の一連の流れで中国は、米中戦略経済対話のアメリカとの話し合いで、うまく乗り切れた。制裁決議など、中国が望まないことをせずに済んだというのが、おそらく中国にとって1つのポイントだったろう。アメリカは北朝鮮問題を最優先でやっている訳ではなく、他に優先順位の高い問題がある。そして米中関係においても、北朝鮮問題の優先順位が必ずしも高い訳ではないだろう。このため、日米韓の枠組みで中国に働きかけようとしても、中国がなかなか我々の側に理解を示さないというのが今の状況だ。
 北朝鮮の体制問題については、後継者問題を含め、第3次代表者会である種の方向性が見えてくるだろう。後継者問題では、仮にここで三男が出てくれば、初めて三男を中心とした議論ができる状況が生まれる。現段階ではまだ噂の類の話しかなく、後継者問題そのものについて三男を軸に議論することはどうかと思う。
日本では国際問題と国内問題で温度差があるので、例えば核問題が動き始めたときに日本が戻るべき位地はどこなのか考える必要があるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部