第41回 IISTアジア講演会 「成長市場インドでの企業活動のあり方(一考察)」(株)インド・ビジネス・センター代表取締役社長 島田 卓【2010/09/15】

講演日時:2010年9月15日

第41回 IISTアジア講演会
「成長市場インドでの企業活動のあり方(一考察)」


(株)インド・ビジネス・センター代表取締役社長
島田 卓

島田 卓1.「ストップ・ザ・ウォーレン・バフェット」
 個人的にインドを見ていると、日本にとって非常に厳しい状況が起きているのではないかと思う。私は最近、生意気にも「ストップ・ザ・ウォーレン・バフェット」と言っている。ウォーレン・バフェット氏は世界に名だたる富豪で、バークシャー・ハサウェイという投資会社を運営し「オマハの賢人」といわれる。このウォーレン・バフェット氏の投資先であるインターナショナル・メタルワーキング・カンパニーズ(IMC)という会社が、オランダにある。そして、この会社はイスラエルにある世界第2位の工具メーカー、イスカルを持っている。一昨年、このイスカルが日本最大の工具メーカー、タンガロイを買収した。ネブラスカ州オマハ発、オランダ経由イスラエル行き、日本着というわけだ。この経営能力、資金を潤沢にもつバフェット氏に無いものとは何かというと、人と技術と新たなマーケットだ。日本で技術を手に入れて人材のあるインドへ持っていき、自分の金と経営能力でマーケットを切り開く、そこで生まれた富は日本ではなくアメリカへ行ってしまう。これが私の危惧する仮説であり「ストップ・ザ・ウォーレン・バフェット」の根拠である。
 技術力をみるとインド企業と日系企業とには大きな差がある。インド製の工具を使っているインドにある日系の会社を訪問したところ、「安いから20本買ったが8本は壊れてしまい、12本しか使えなかった」そうだが、それでも価格が半分以下だから、1本あたりに単価はやすくなるから良いそうだ。ではこの12本で6割の歩留まりが7割、8割になったらどうなるか。さらに恐ろしいのは、それを日本に持ち込まれたらどうなるかだ。実際に「インドから安い工具を日本に持ち帰ってくれ」との大手自動車メーカーの要望がある。今までお世話になってきた日本の工具メーカーには、後ろ足で砂をかけるようなものだが、自分の会社が生き残らなければならないことが先に来る。
 しかし、そこから様々なヒントも出てくる。日本の中堅、中小の工具メーカーが単独ではなくグループで、将来有望なインドの零細工具屋さんに技術とお金をつけて育てあげ、新規株式公開(IPO)にまで持っていき還元してもらう。そういうスキームをつくらなければならないと思い、現在やっている。

2.成長するインド経済
 米国のスーパーマーケット・チェーンのウォルマートが昨年5月、インドに第1号店を開いたが、1号店の場所は、デリーやムンバイ、チェンナイなどではなく、北部のアムリツァルである。私はこの第1号店を訪ね、幹部と話をした。2年かけてこの場所を選んだ根拠は、大都市には既にドイツのメトロなどが進出し、土地代が高いためだという。このため、第2、第3の勃興する都市を押さえにかかるということで、ウォルマートは向こう3年間で、100店舗をつくるという。1店舗で10万人の会員を集めれば、会員は1000万人になる。巷間でいわれるところ、インドの小売業は1000万で、理論値どおり行くと、3年から5年でインドの小売はウォルマートにすべて押さえられてしまう。
 インドでもリーマン・ショックが経済に影響を及ぼしたが、3回にわたる経済刺激策をとった結果、4月から8月の間接税の収入は、前年度比45%増となった。ビジネスはやはり、欧米からアジア主導となっている。イギリスを代表する車、ランド・ローバーとジャガーを買収した米国のフォードも、08年にはインドのタタ自動車にそれを売却している。今回の経済危機後、インドの経済成長はあまり落ちていないが、これは第2次、第3次産業の力がついてきたためだ。成熟したマーケットはなかなか期待できないことを端的に表しているのは、国際通貨基金(IMF)のデータだ。アジア通貨危機が起きた1997年から13年後の2009年までのGDPの伸びを見てみると、中国は5倍、インドは3倍、日本は0.2となっている。インドで特徴的なのは、農業従事者の割合が、就労人口の約6割を占めていることだ。その6割がGDPの2割しか稼ぎ出さないため、非常に効率が悪いが、そこを効率化すれば人が余ってしまう。インドの課題は、製造業の基盤を整備し、雇用の機会をつくることだ。
開催風景 例えば「インドでものを売りたいときは、日本で200円で売っているものを10円で売れば良い」と言っている。10円で売っても、20人に売れば200円だ。インドの若年層の人口は、25歳未満で6億人いる。日本の総務省による今年5月の発表に基づけば、日本では15歳未満の人口が1690万人だという。これは。インドの25歳未満人口を1歳刻みにした2400万にも達していない。 単純に比較すると、1対22ということだ。したがって、日本とインドの人全員が同じものを買うとすれば、日本では200円で売っているものをインドでは10円で売れば売上高が同じになる。日本で200円で売っているから、インドでも200円とすれば大変なことになる。実際はそう単純にはいかないが、半分の人が買ったとしても200円ならば10分の1の20円で良いという理論が成り立つ。
 インドのGDP成長率は今年が8.5~9%程度といわれ、来年には9~10%となり、ソフトランディングのためGDPの落ち込みが予想される中国とは逆転現象が起きるというのが私の推測だ。

3. マルチ・スズキの成功、「1/1、1/6の論理」
 国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)が作成した「有望な投資先」という資料を見ると、直近は中国で、5年ぐらい経つと中国よりインドの人気が出てくるという。車の販売台数を見ると、インドにあるスズキの子会社、マルチ・スズキの生産台数が2010年3月期で100万台を突破した。一方、親会社のスズキでは、生産台数が100万台を切っている。日本経済新聞にも書かれていたが、2012年の生産キャパシティーは日本が140万台、インドが145万台で、今後差がつくことはあっても縮まることはないだろう。インドでは今年が200万台、2015年には400万台、2020年には1000万台といわれる。マルチ・スズキは現在、5割程度のシェアを持っている。
 5月にスズキの鈴木修会長と会って話したところ、「スズキは現在、最大の危機に直面している」と言っていた。インドには大手が進出していなかったし、生産すれば売れていたが、マーケット・リーダーで先頭を走るのは初めてであり、経済自由化が進み、トヨタ、ホンダ、日産などの大手がインドへも本格進出してくるので今後厳しい情勢だという。スズキの売り上げは約2兆5000億円で、子会社マルチ・スズキの売り上げは約4分の1の6000億になっており、純利益はその1割程度だ。親会社の純利益は連結で300億円なので、子会社が親会社の約倍の純利益を上げている。
 新興市場では、未来志向という言葉ではなく「未来吸引」でのビジネスが重要である。米国のフォードが1908年にT型フォードを売り出したが、当時の米国における1人当たりの年間所得は300ドル程度で、T型フォードの価格は298ドルだった。つまり、価格は1人当たり年間所得にほぼ見合った数字だった。インドでは現在、1人当たりの年間所得(PPPベース)が約3000ドルで、ボリューム・ゾーンはここになる。TATAが投入した低価格自動車NANOも3000ドル近辺で、しっかり数字を読んでいる。インドでは2010年から2025年までに、車が累積で1億台売れると私はみている。この1億台を売るボリューム・ゾーンをどのようにとっていくかが、私の言う「未来吸引」だ。2025年に1億台車が売れるとすれば、今どこをどのように押さえにいくかだ。
 BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)といわれるが、今、家電を買えない人でも5年後、10年後には買える可能性がある。韓国勢は、例えば都心部で新品の家電を購入した人から修理の依頼が来ると、修理をせずにある程度の値段をつけて下取りし、新しいものを買ってもらう。そして下取りしたものは、地方に行って二束三文でばらまく。そうすると、BOP層にLG、三星(サムスン)がその時代から刷り込まれる。BOP層をダイレクトに攻めるときには、ボトム・アップを想定した攻め方が必要だ。だから私はBOPビジネスを「ボトム・アップ・ビジネス」と呼んでくださいとお願いしている。
 TATAが5年前に10万ルピーの車を出すと言ったとき「20万円でできるわけがない」と誰も信じなかった時に、日本の部品メーカーがそこに参入し、そのボリューム・ゾーンからアップしていこうとしていた。デンソー・インディアなどがそうだ。今インドでは、ソフトウェアも右肩上がりで業績が伸びている。日本のソフトウェア業界では、利益率は1%に達していないが、インドでは2桁の10%、20%になっている。
 私はインドの強みの1つについて、「1/1、1/6の論理」と言っている。1/1は約分すると1で、これは先進国経済のことであり、下から上までやられ、復旧は大変なことだ。しかしインドの場合、おそらく怪我をしたのは1/6にも満たず、次の1/6は「リーマン・ショックとは何か」という感じで金を使い出した。そして、また次の1/6程度まで金が回り始めていると思う。さらに、まだ半分の3/6が残っているので、インドの回復は早いとみる。
 インドの与党が言っているのは、とにかく金を投入し、内需を起こせということだ。インドは幸いにもGDPの9割が内需で、輸出は1割程度だ。財政赤字をつくってでもお金をばらまけ、経済を活性化しろということになっている。1に雇用、2に雇用、3に雇用ではなく、1に内需、2に内需、3に内需で、雇用は後からついてくるという考えだ。雇用が生まれれば、税金が納まる。先に述べたように、4~8月の5ヵ月間で前年度比の間接税収入が45%増加した。
 インドでは人口が増えているが、増加率は一定化してきている。2025年には、日本の25歳以下の人口はインドの20分の1程度になる見込みで、日本の今の高校生はインド人20人を1人で相手にしなくてはならない計算だ。人口構成では生産年齢というのがあり、15歳から59歳までが増えていく間は人口ボーナスがもらえるが、その生産人口が減ってくると人口構成が負担(人口オーナス)になってくる。日本は1991年のバブル崩壊直後ごろにボーナスをもらい終わり、今は人口構成が負担になってきているが、インドは2035年まで、理論上は人口ボーナスをもらい続けられる。しかし、これにも条件があり、その条件とは若者に就労機会が与えられればということだ。したがって、インドは製造業に力を入れて、雇用をつくらなければならない。

4. インドで求められる日本企業の技術力
 経済産業省の通商白書によると、インドの中間層は約2億人、アジア全体では、経済協力開発機構(OECD)に入っている日本や韓国は除くと、年間所得が5001ドルから3万5千ドルまでの人たちが8億人いる。そのうち半分は中国で、残り4億のうち2億がインド、残りの2億はその他アジア諸国だ。したがって、8億のうち6億はインドと中国になる。
 昨年9月の国連総会でインド外相は、インドには1日1ドル以下の人たちが2億人おり、5億人が無電化だと公表し、12月のコペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に基づいて、温室効果ガスの総量規制は受けないことになったが、インドでの貧困撲滅、雇用創出、環境問題は重要で、これを助けられるリーディング・カンパニーはおそらく日本企業であろう。いわゆる家電リサイクルや技術革新、インフラ整備など、日本以上の技術を持っている国は他にない。そのくらい日本の技術力、国力は現在もあるが、5年後、10年後はわからず、これを現在うまく使わない手はない。私は今後、「e」で始まるものがビジネスになると言っている。これはenvironment、ecology、education、energyで、これに最近はentertainmentもつけている。こういう形で日本とインドの強いところと弱いところを補完し合い、環境問題に対応しつつ、win-winの状況をつくっていかなければならない。
 私のインドに関するマーケット理論は、「社会連環(Society to Society、S to S)、産業連環(Industry to Industry、I to I)」というものだ。インドは100回切れば、100回違った断面が出る。日本はおそらく100回切っても皆、金太郎飴のようで、どこも同じだが、インドの場合は様々な産業や社会があり、これを切っていき、どこですり合うかという試行錯誤が必要となる。社会をたくさん切っていき、希望する企業の製品をたくさん切って、それをすり合わせると、どこかで合う。そこにマーケットが生まれるというのが、私のインド・マーケット理論だ。
 また私は最近、「F(Finding)からC(Creation)へ」と言っており、これは「未来志向から未来吸引へ」という意味だ。先進国や成熟したマーケットではFindingで良いのだが、インドの場合、見つけにいってもマーケットはない。スズキが1981年にインドへ行ったとき、車などほとんどなかった。このように、マーケットがあるから出るという理論は成り立たない。マーケットをつくるというCreationが必要で、「FindingからCreationへ」というのが新興国のマーケット理論だと思う。
 インドは今、大きく変化している。変わるインド、変わらないインド、日本が置かれた経済状況、そういうものをすべて見ていくと、日本企業がとるべき行動がかなり見えてくる。それと現状をすり合わせて見たときのギャップの大きさに唖然とし、このまま5年、10年経てばどうなるのかという懸念を持つが、是非これが杞憂に終わってほしいと思う今日この頃だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部