グローカル経済関西プロジェクトアジア講演会 中堅・中小企業のためのBOPビジネスKANSAIセミナー 基調講演 「中堅・中小企業のためのBOPビジネスの基礎~メリットと留意すべきリスク~」 【2010/10/07】

講演日時:2010年10月7日

グローカル経済関西プロジェクトアジア講演会
中堅・中小企業のためのBOPビジネスKANSAIセミナー 基調講演
「中堅・中小企業のためのBOPビジネスの基礎~メリットと留意すべきリスク~」


北海学園大学経営学部教授
菅原 秀幸

主催:財団法人貿易研修センター、グローカル経済関西プロジェクト(近畿経済産業局、ジェトロ大阪本部、中小企業基盤整備機構近畿支部)、財団法人大阪産業振興機構、独立行政法人国際協力機構
共催:大阪商工会議所

菅原秀幸 はじめに
 今日は特に中小企業の方々向けに、BOP( Base of the Pyramid)ビジネスとはどのようなものか、そしてどのようなチャンスがあるかについてお話しする。BOPビジネスには通常のビジネスと同様に、メリットとリスクがある。特別に儲かるという訳ではなく、また特別に失敗する可能性が高い訳でもない。少し誤解が生じているところがあるが、ボランティア活動や慈善事業、CSR(企業の社会的責任)といった議論とも異なる。私は5、6年ほど前からBOPビジネスについて研究を始め、日本でも昨年から非常に盛り上がりが見られるようになった。急に盛り上がってきたので、驚いているところだ。最大の要因は、日本も今後はBOPビジネスで行くということで、昨年、経済産業省が補正予算3億1000万円を使って舵を切ってくれたことだ。最近はBOPビジネス論者も多数出てきて様々なことを言っている。BOPビジネスについては、人それぞれ、とらえ方が異なるが、今日は最も基本となるスタンダードなBOPビジネス論の入り口についてお話ししたい。

1. 世界が注目するBOPビジネス
 日本ではBOPビジネスは 、始まったばかりという状況であるから、今なら誰でもが、それぞれの分野でBOPビジネスの1番になれる。日本ポリグルの小田兼利会長は日本のBOPビジネスの星といわれ、全国、全世界で引っ張りだこになっている。今度は国連にも行って、演説を行うそうだ。これは水の分野で1番になったためで、2番目、3番目ではインパクトがない。皆さんもぜひ、今日を機に1番を目指していただきたい。  地球上には水が飲めない人、5歳まで生きられない人、十分な栄養をとれない人、電気が使えない人などが多数いる。従来の我々の考え方では、「かわいそうな人たちだ。私たちリッチな先進国の人間が援助しよう」ということになった。しかし、ビジネスの視点では、課題をニーズとしてとらえる。つまり水がないとなれば、そこに水を引くチャンスがある。電気がなければ電気を売るチャンスがある、十分な栄養がなければ、栄養のある食品を売るビジネス・チャンスがあると考える。これが最も基本的なポイントで、従来の視点 とは異なる。
 このような世界で本当にビジネスができるのかという疑問がわくが、答えは「イエス」だ。では、どのようにやるかというと、キーワードはたった1つ「違い」(difference)だ。これまでの常識にとらわれた古い頭では、これはできない。従来は援助の対象だった人たちをパートナーとして見る、つまり問題をニーズとして見る、見方を変えることが重要だ。1つの考え方として、貧困問題の解決は政府の役割で、自分たちには関係ないというものがあったが、そうではなく民間の力でアプローチする。同時に、これまでの高所得層 と中所得層 にウェイトを置いたビジネス・モデルでは新しいマーケットの攻略はできず、新しいビジネス・モデルが必要になる。
 BOPビジネスの最大の特徴は、企業利益と社会利益を同時に実現することで、これは若者たちの心を非常にとらえるところだ。 最近の若者たちは、寄付やボランティアは一方通行で偽善ぽくて嫌だと思っている。そして、自分が儲かり相手の役にも立つというビジネスに 非常に惹かれるという。BOPビジネスは20代や30代の関心を惹きつけており、その中には特に女性が多い。女性の力や若者の力を活用していくことは今後のビジネスの基本で、それらを活用できない企業は、おそらく衰退していくだろう。これまでマーケットしてきた高所得層 と中所得層 の下にいるのが、世界で40億人といわれる年間所得が3000億ドル以下のBOP層の人たちで、そこをどうするかだ。
開催風景 企業は利益を追求するが、日本は先進国の成熟したマーケットなので、新しい市場を開拓しなければならないという思いがある。一方、国際社会では過去50年間にわたり、日本の国家予算の約4年分に相当するお金が途上国につぎ込まれてきた。それがすべて失敗だったとは言わないが、それほど長い間行ってきても、未だに40億人も貧しい人たちがいる。これはどう考えても、やり方が不十分だった、もしくは間違っていたということだ。したがって、新しいやり方を試してみる必要がある。そこをビジネスという手法を使ってできないかという流れが、2000年ごろから出てきた。
 BOPビジネスについて様々なところで話を聞いたり読んだりするかもしれないが、それぞれのバック・グラウンドによってアプローチの仕方が違う。開発を主体としている人たちと、ビジネスを主体としている人たちでは目的、言い方も異なる。産業振興目的の経済産業省とJETRO 、開発目的の外務省と JICA(国際協力機構)という2つの連合があり、それぞれが別々にやってきた。前者 は儲けることが大切であり、 後者は儲かる 儲からないではなく開発インパクトが重要 。 しかし、その両方が互いに手を結べばBOPビジネスが成り立つ。従来は経済産業省と外務省が別々に音頭をとってきたが、ここに至って両者が初めて、ビジネスと開発で手を結ぶようになった。
 企業の経営者の間ではビジネスの流行があり、BOPビジネスも一過性のものだと思われるかもしれないが、私が研究した結果、そうではなく大きな流れ、つまりメガ・トレンドになっている。流行は世の常であり、いつも消えてなくなるが、BOPビジネスはそうではない。ビジネス の視点では、BOPビジネスはグローバル・ビジネスの中心的な原動力になるととらえられている。一方、開発援助の視点では、これは民間主導型の開発アプローチということになる。そして双方から、その意義は重要だと指摘されている。日本のBOPビジネス支援策では、まもなく「BOPビジネス推進プラットフォーム」が動き出す。一方、開発支援目的の外務省連合の方では、JICAが「BOPビジネス連携制度」を始め、今後、支援していくことになっている。またイギリスはこの7月から既に、「BOPビジネス推進プラットフォーム」を始め、日本人もこれにかかわっている。日本に限らず、世界の国々がこぞってBOPビジネスに 大きく舵を 切っており、一過性のブームではない。
 BOPビジネスのこれまでの経緯を見ると、まず1998 年に、ミシガン大学のプラハラッド教授とコーネル大学のハート教授が、BOPという考え方を 着想した。この第1期の段階で は、「自分たちはBOPビジネスをやっている」という認識がない企業が、一生懸命何か新しいことをやっていた。これを経営学者らが観察して、従来のモデルやフレームワークでは説明できない現象だとし、「BOPと名づけよう」ということになった。2000年代にはBOPというコンセプト が注目されるようになる。 国連では2015年までに世界の貧困を半分にしようという「ミレニアム開発目標」が設定された。そしてこれをどのように達成するかというときに、効率的で革新的、継続的なビジネスの手法を使って解決することに着目した。同時に米国、ドイツ、イギリス、デンマークといった先進国が、BOPビジネスを推進する方向へ舵を切り、第2期ではそれに沿って、欧米の各国政府が支援し、企業が次々にBOPビジネスに参入するようになった。しかし、この段階では日本の企業でBOPビジネスに関心を持っているところはなかった。
 そして第3期が訪れ、日米欧のプレーヤーがそろいつつある段階になり、まさに競争の時期に入ってきた。さらに経済産業省には先見の明があり、これを支援していくことになった。欧米に比べて10年遅れという見方もあるが、日本企業が遅れを取り戻すことは今からでも十分可能だ。BOPビジネスに最も適した特性を持っているのは、日本企業ではないかという仮説が立てられる。しかし、これを証明するには皆さんに実際にやって、実例をつくっていただかなければならない。 2015年に向かって今後5年間、国際社会は一生懸命この目標達成に向かっていき、多くの企業がさらにBOPビジネスに参入していくだろう。現在、日本企業で成功しているところは、まだ20ぐらいと少ない。したがって皆さんが今始めれば、1番になれる可能性が高い。同時に、世界の流れに乗っていくこともできる。日本はなぜ欧米に比べて10年遅れたのかというと、まず支援スキームがなかった。 また日本人の経営者の方々に、世界の動きを見る世界観や危機感がなかった。 国連や諸外国が大きな舵を切っていることに気づいても、特に大企業の経営者にはその認識が欠如していた。しかし、この辺は現在、克服されつつある。

2. BOPビジネスをどのように行うか
 BOPはupper BOP、middle BOP、lower BOP に分けられ、最も下のlower BOPに入っていくことは難しい。現在、ボリュームゾーンという言葉が時代のキーワードになっており、これは年間可処分所得が45万円から315万円ぐらいの層を指す。したがって、BOPビジネスでは、その少し下辺りを狙っていくのが最初の入り口になるだろう。これをネクスト・ボリュームゾーンとも呼んでいる。世界ではBOPビジネスという呼び方が広がり、これがスタンダードになっていくだろうが、ネクスト・ボリュームゾーンという呼び方はよりスマートだと思う。
 学者の間でもBOPビジネスに関する研究は次第に進んできており、今年6月にはリオで国際学会が開かれ世界の研究者らが集まった。BOPビジネスに関するそこでの共通の認識は、まだモデルや理論が存在しないということだった。しかし、現段階でフレームワークとしていえることは、BOPをまず消費者として位置づけるということだ。これがBOPビジネスのスタートで、現在ある製品やサービスを売る相手という認識だ。これについては単に、今あるものを小さく、買いやすくして売りつけるという方法があるが、これをBOPビジネスといえるかどうかについては議論の余地がある。小さい袋、小さい容器がどんどん捨てられ、環境に良くないという議論もなされる。現在はもう少し進んでおり、今ある製品やサービスを届けるというところでBOPの方々に関わってもらう。これがレディ・モデルというもので、働き口のない女性を使って販売してもらう。そして一番望ましいのは、BOPの方々を企業家にし、なおかつ新しい製品やサービスを一緒につくることだ。こういうモデルが生み出されれば一番良いが、これまでのところ実例はほとんどなく、あくまでも目指すところだ。しかし、実際に一緒につくってみようとトライしている日本企業は出てきている。
 もう1つ、BOPとどこで組むのかだが、決定的に重要なことは、どこかでBOPの方々に教育やトレーニングをほどこしていくことだ。単に市場として見るのでは、売りつけているだけということになり、一緒に何かを考え出す、手を組めるような方向に進んでいくのが目指すところだ。日本企業は、これまで自前主義で、何でも自分でやろう、アウトソーシングしない、直接行くというやり方をとってきた。その一方で、NGOと協力して行うやり方がある。これは日本企業が不得意なところだが、日本のNGOもかなり組めるところがあるという感じがする。
 そしてもう1つ、国際機関と組んで BOPにアプローチする方法がある。日本のBOPビジネスの例といえば、住友化学が必ず例に挙げられるのだが、実はこれはBOPビジネスではなく、最初は国連機関に納入し、国連機関が無償でばらまいただけの援助ビジネスだった。しかし、それをうまく進めて技術を現地企業に渡し、現地企業が現地の人たちを使ってつくり始めたため、BOPビジネスとして有名になった。
 BOPビジネスを目指すポイントは3つあり、最初からすべてを満たすのは無理だ。どういう切り口で入っても良く、まずは何と言っても「貧困層ニーズ」を充足することが重要だ。貧しい人たちにも常にニーズがあり、それらは例えば水がない、電気がないなどというものだ。従来のアプローチでは、先進国の人たちは上から目線で、「貧乏な国はお金もなければ頭もない、能力もやる気もない。だから先進国の偉い自分たちが与えてやるのだ」という上から目線のニュアンスが多分にあった。そして、そのような方向でお金を費やしても、なかなか成果は出なかった。
 またニーズを満たす際には、本人たちにやる気を与えるためのインセンティブを組み込むことが重要だ。同時にオーナーシップ、自分のものを持っているという意識も非常に大切になる。援助でもらったものは、「またもらえば良い」ということで、すぐになくなってしまう。所有の意識を持ってもらうことは大切だ。さらに「単に売りつけているだけだ」と批判されないよう、現地の人たちに「所得」をもたらし 、そして「自立」を促す、という3つを実現させることによりBOPビジネスが回っていく。
 日本発モデルとして特に注目されているのは、レディ・モデルだ。これについては日本で1963年に、ヤクルト・レディが始まった。当時の日本はBOPにかなり近く、平均的な所得は20万円ぐらいだった。これは現在の価値に直すと160万円ぐらいで、かなりBOPに近い。そして女性にフルタイムではなくても何か所得をもたらす方法はないかと考え、この制度が始まった。現在ではヤクルト・レディのほか、シャクティ・アマ、ポリグル・レディ、グラミン・レディなどがあり、女性を活用してビジネスを展開している。BOPビジネスの1つの鍵は、やはり女性の活用だ。女性に所得をもたらす方法は、貧困から脱出するための手法として非常に重要だと考えられている。
 日本もBOPの状況にあって 第二次世界大戦後、ソニーやパナソニックのような企業が出てきて、後に世界の大企業になった。このように日本人の遺伝子には元々、BOPからビジネスを立ち上げるということが組み込まれている。したがって、これを再び復活させようということだ。英米型、アングロ・サクソン型のビジネスは、「欲深いマネージメント」といわれ、CEOが年間何百億円という給料をもらう一方で、大量に従業員を解雇する 。BOPビジネスでは欧米企業が先行しているが、彼/彼女らが本当に現地のためにやろうとしているのかという点については、極めて疑問がある。世界の先進国では日本が唯一例外で、階級がなく、差別意識もあまりない。他の国々には階級があり、差別が非常に大きい。そういう国のマネージメント層がBOPに入っていき、本当に彼らのことを思ってビジネスをやっているのかというと、おそらくそうではないと思う。しかし日本人はそうではなく、どんどん入っていける強みがある。レディ方式に限らず、日本の企業は様々なモデルをつくっていく可能性もある。BOPビジネスにはまた、社会的な課題を解決するというスタンスがある。
 現地の人々を上から目線で見るのではなく、対等なパートナーとしてやっていくことが重要で、これについては、若者たちはすぐに入っていけるが、 年配の方々には難しいかもしれない。したがってBOPビジネスでは若者、そして女性を活用していくことが重要だ。大企業でBOPビジネスをやろうと思っている人たちは多数おり、私のところに相談にも来られるが、彼/彼女らが一番困っているのは経営者の理解が得られないということだ。しかしBOPビジネスは、トップがやるといえばできる。
 21世紀のキーワードはサステナビリティといわれ、グローバル社会でサステナビリティを維持していくことは必須だ。そして、その課題は大きくは2つあり、1つは環境問題で、もう1つは貧困問題だ。環境問題については15年ほど前まで、ほとんど誰も相手にしなかったのだが、今では環境をビジネスの課題としてとらえない経営者はおらず、「環境はビジネスになる」と思われている。このように環境については、15年前の非常識が当たり前のことになった。では残っているのは何かというと、貧困だ。貧困については現在も、大部分の人は関心がないといった状況だが、近い将来、環境と同様に経営課題の中核に来ることは間違いない。今日の非常識があすの常識になるのだ。これは、歴史の常だ。
 2015年に世界の貧困を半分にするという国連ミレニアム開発目標を達成するため、現在、国連、国際社会が動いている。持続可能な開発のための世界経済人会議 (WBCSDという組織でも、同様のことを行っている。そしてビジネスの手法で、世界の課題を解決していくとしている。同時にドイツやイギリス、米国では、様々なスキームによって投資を行っている。ついに日本でも経済産業省が、まもなくBOPビジネス 支援スキームを立ち上げる段階になった*注。先日、国連でミレニアム開発目標をどのように達成するかというサミットが行われ、そこでもオバマ米大統領が、「ビジネス・アプローチをとっていく」と言っていた。

*注、2010年10月13日、経済産業省が「BOPビジネス支援センター」をスタートさせている。

3. BOPビジネスにおける中小企業の強み
 では、中小企業は大企業と比べ、どのような強みを持っているか。まずは何と言っても柔軟性、機動性があり、現地での対応が早い 。日本企業にBOPビジネスに関するアンケートを行い、現在、集計しているが、結果を見ると「現地でのニーズがわからない」という声が非常に多い。BOPビジネスでは現地へ行き、その場に合わせて変えていくことが重要なので、日本の本社で現地から上がってくるデータを見て経営陣が指示するようなやり方の大企業にはできない。現場主義というのは日本企業が世界に誇れる点で 、トップマネージメントがどんどん現場に入っていくのは日本企業の特徴だと思う。
 では実際に、どのようにやるかというと、先のアンケートに見られるように、現地にどのようなニーズがあるのかわからないという人が圧倒的に多い。そして、自分たちは技術を持っているが、どこで活かせるかがわからない。関心はあるが、最初の一歩をどう踏み出せば良いのかわからないというのが、セミナーやワークショップでの大多数の反応だ。これについては、いくらセミナーやワークショップに参加しても何も起きず、やはりアクションが必要だ。また政府もこの点について考えており、日本貿易振興機構(JETRO)などが潜在ニーズを調査している。しかし、皆さんのかゆいところを掻くところまでは行かないかもしれない。したがって、潜在ニーズ調査を利用してニーズを把握したら、そこからは自分で出かけて行ってピン・ポイント で探っていくことが必要だ。
 特に中小企業の場合、そのためのお金はあまりないであろうから、様々なネットワークを活用するのが良い。BOPビジネス業界には、おせっかいな人たちが多数いて、ネットワークができれば様々な人たちが様々なことを教えてくれる。大企業の場合、コンサルティング会社に多額のお金を払って調査を行えるが、前に進むのに時間がかかり、また無駄な費用を使わざるをえないところがある。中小企業の皆さんはネットワークを使い、コストをかけずにやっていくことを考えやすい。まずはニーズを探るところから出発していただけば、次の展開が見えてくるだろう。現地へ行くと、現地のNGOの方などが、「ここにこういう困ったものがあり、日本の技術や税金を持ってこれば解決できる」と考えていることが多い。しかし、現地のニーズと日本のシーズの橋渡しができず、なかなか進まない状況だ。また実際に行う段階になると、相性の問題なども生じる。したがって、仲介役のような人たちも求められる。これがBOPビジネスのサポーティング・インダストリーという形で、今後出てくるだろう。インダストリーと呼ぶまでにはならないかもしれないが、そういったキーパーソンや仕組みを活用し、現地にあるニーズとシーズを結びつけることが、今の日本の課題としてある。
 これまでは「BOPビジネスとは何だ」という状況だったが、1ヵ月ほど前(8月30日)には日本経済新聞の社説にも取り上げられた。最近ではBOPビジネスとは何か、大体の認識を持っていただけるようになってきた。そして、実際にどうするか、具体的に成功させるにはどうするかという段階に入っている。国も、そこを何とかしようとしている。当然、最初に参入するのは障壁が高く、リスクも高いと思われる。これまで成功してきた人たちは、自分たちの熱意でひたすら切り開いてきた。しかし、今後の人たちは先人の努力を利用させてもらい、よりスムーズに入っていくことができるだろう。
 また人材がなかなかいないといわれるが、今の若者たちはBOPビジネスに関心を持っている。そして「世界はこのままではだめだ」と考えている。現在20歳なら、今後60年間は生きなければならず、「60年後はまずい」と切実に考えている。したがって、彼らはサステナビリティに何か貢献したいと思っている。こういう若者たちを活用する方法は多い。そして、女性を活用することもできる。そうは言っても、なかなか最初の一歩が進まない。大多数の人は、毎日すぐにやるべきことで忙殺されており、すぐにやる必要はないが重要なことがなかなかできない。BOPビジネスもここにあたり、新市場を開拓しなければならないが、後回しで良いかということになってしまう。この点をしっかり認識し、特にトップの方には率先して社内で伝えていってほしい。
 日本では今後ますます高齢化が進み、2050 年には非常にお年寄りが多い状態になる。そうなると、日本の成熟しきったマーケットで戦うか、新しいマーケットに出ていくかという2つしか方法はない。村上龍が『希望の国のエクソダス』という有名な小説を書いており、その冒頭にある私の好きな言葉は「この国には何でもある。希望だけがない」というものだ。 皆さんは、どうだろう。 希望はないんじゃないだろうか 。しかし、若者が希望を見出すのがBOPビジネスだ。これはすごいことで、世界のために役に立ち、自分も儲かる。これを皆さんも会社に行って言えば、やる気が起きるだろう。BOPビジネスは、希望という点で非常に有効だ。
 しかし、BOPビジネスは切り札かというと、そうではない。「これだけをやれ」と言っているのではなく、たくさんやっている中の1つ、新しい選択肢として入っていくことが重要だ。現在、非常に盛り上がっており、「BOPビジネスは儲かる。やれば良い」などという誤った認識がある。しかし、決して切り札ではなく、宝の山でもない。これは普通のビジネスの1つとして、先を見据えるものだ。そのためには1番になる、フロントランナーになることが必要だ。そして社会的な評価が高まって、他の部分も向上してくる可能性が高い。同時に優秀な人材を獲得でき、社員の意識も高まる。戦略的なCSRといわれ、先手を打って社会に貢献できる。このように、収支はそれなりでも、それ以外の波及効果がかなり大きい。中小企業としては、すぐに儲からなければやってはいけないということがあるかもしれないが、この辺の波及効果がかなり期待できるということも頭に入れ、やっていただきたい。
 最後に、キーワードは「インスパイアー」で、これは私の大好きな言葉だ。二流の教師はただ話す、良い教師はうまく説明する、優れた教師は自分でやってみせる、偉大な教師は実際にやってみ ようという気にさせる。そして、この教師というところを自分に置き換えてほしい。二流の社長はただ話す、良い社長はうまく説明する、優れた社長は自分でやってみせる、偉大な社長は実際に社員にやってみよう という気にさせる。このように全社員をインスパイアーし、BOPビジネスをやってみようという方向に行っていただきたい。私もただ話すだけ、ただBOPビジネスはこうだとうまく説明するだけではない。やはり、偉大な教師を目指し、インスパイアーする。しかし、自分はやっていないのが私の弱点で、現在、私もやろうというところまで来ている。皆さんもグレート・プレジデントを目指し、ぜひやってみていただきたい。BOPビジネスをステップに、ぜひ新しい未来を切り開いていただきたい。どうも有り難うございました。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部