アジア講演会―広がる中国市場とビジネスチャンスー 「中国内陸市場の拡大と日系企業の対応」株式会社野村総合研究所 事業戦略コンサルティング1部部長 中島 久雄【2010/10/29】

講演日時:2010年10月29日

アジア講演会―広がる中国市場とビジネスチャンスー
「中国内陸市場の拡大と日系企業の対応」


株式会社野村総合研究所 事業戦略コンサルティング1部部長
中島 久雄

主催:(財)貿易研修センター、九州経済国際化推進機構、九州経済産業局、長崎県

中島 久雄1.安定した経済成長、内陸部の目覚しい発展
 中国では過去にハイパーインフレや天安門事件、アジア通貨危機などがあり、GDP(国内総生産)成長にも大きな波があった。しかし、最近は年8、9%という安定成長が続き、2009年のGDP成長率9.1%(修正後)みても1年の成長率がタイ経済を超える経済規模となっている。また、2010年には中国のGDPが日本のGDPを超えることがほぼ確実で、今後もこの成長が続けば、2025年頃にはアメリカに近づくといわれ、さらにその大規模な市場だけでなく、国際社会における影響力も注目されている。
 中国政府は08年に金融危機の景気対策として、4兆元を主に内陸部へ注ぎ込み、雇用を確保し、インフラを整備してきた。その中で消費は拡大し、GDP成長に対する最終消費の寄与率は50%を超えた。これは8年ぶりのことで、中国では消費拡大への強い姿勢が見られる。先日2011年からの第12次五ヵ年計画が出されたが、異例なことに今回はGDP成長の目標を設定せず、家計収入の増大を重点としている。日本でも高度成長期の所得倍増計画があったが、中国は今そういう時代だ。今後は賃金を上げ所得を上昇させる方向で、賃金ベース引き上げなどで企業の雇用にかなり影響もあるだろう。他にもGDP当たりのエネルギー消費量の低減、環境保護税の導入もある。また労働争議を処理するメカニズムとして組合をつくり、労使間でしっかり交渉する仕組みを取り入れていくという内容もある。
 現在、中国の成長性をみると、中国沿岸部に代わり内陸部の都市の成長が著しく、今後も内陸部中心の成長が見込まれる。また、農民を都市部に流入させ、都市圏を発展させる方法で都市化を進めて経済成長することで、国民所得の上昇を目指している。都市部に限って言えば、国民の平均可処分所得は毎年8~10%程度増加し、小売市場は経済成長率の倍近い15.5%伸びている。以前は教育や文化、娯楽への支出は少なかった中国だが、現在では一人っ子政策下でも教育費の比率はかなり高く、上海などでは日本の一般市民とほぼ変わらないような消費生活を送っている。
 また、中国では市の下に県があるのだが、この県以下を除くと344都市がある。これらの都市は、(1)上海、北京、広州などの沿岸大都市、(2)大連や天津などの沿岸一般都市、(3)成都、重慶などの地方省都級、(4)地方中心都市、(5)地方小都市という5つに分類できる。ここで日本企業が狙う中間層が、今後どの地域で増えていくかを見てみたい。中間層の定義は可処分所得が世帯で5万元以上というもので、自動車の普及率は15%程度、テレビ普及は80~90%程度である。中国では今後2010~2020年の間に約8700万世帯の中間層が創出され、日本の総世帯をはるかに上回るようになる。そしてその大部分を占める77%は、地方の省都級よりかなり奥地で生まれてくる。
 例えば日本の滋賀県を拠点とする中堅スーパーマーケットは1998年から内陸の長沙に進出し、一番の目抜き通り立地した外資の百貨店として成功しており、日本の店舗より売り上げが多いという。現在では、3店舗目を隣の株洲市に出店し、現地では非常に人気の百貨店になっている。昨年12月には広州と武漢の間に高速鉄道も開通し、長沙にも大きな駅が誕生するなど内陸から開発が進んでいると感じる。この他、日本の大手スーパーも北京のような大都市ではなく、成都で成功している。また、ベトナムとの国境付近の南寧市では特に産業はないが、貿易の中継点としての利点を活かし、インフラ整備などの資金も流入して、建設ラッシュとなっている。さらに西安市から車で2時間ほどの宝鶏市でも、大型ショッピング・モールが誕生し、住宅ラッシュが起きている。住宅の価格は頭金が1.5万元、毎月のローン返済額が500元というレベルだが、これらが飛ぶように売れている。この宝鶏市には、日本や韓国の自動車メーカーが進出し、最近では電気自動車の現地の民営自動車メーカーBYDもある。
開催風景 中国の消費者動向をみると、内陸部と沿岸部の中間層ではほとんど差がない。内陸部ではマンションが安く、住宅ローンの負担率が少ないため可処分所得が多く、沿岸部より様々な消費が可能で、内陸部では今後も消費の伸びが期待できる。欧米系のウォルマートやカルフールも最初は沿岸部に進出していたが、現在では内陸部に出るようになっているし、日系の中堅や大手小売業も瀋陽や成都などに進出している。
 今後中国へ進出する企業は、上海のような大都市から出るのも1つのステップとして良いが、競争は激烈だ。したがって、上海から入って立ち上がりに失敗するよりも、思い切って内陸部から入るという方法もあるだろう。特に小売業で消費者に直接販売するようなところでは、そういう方法も良いと思う。また、インターネット・サイトは沿岸部でも内陸部でも情報収集のチャンネルとして使われていることも着目できる。

2. 中国における日系企業の課題
 「拡大する中国市場における日系企業の課題は何か」というアンケート調査の結果によると、1番目は「どのように売るか」、2番目は「中国で売れるものをつくれるか」だ。これについては価格を日本より少し下げ、機能を削ってでも売れるものをつくっていくのが良いだろう。そして、3番目の課題は人材マネジメントとなっている。5年程前には、この人材マネジメントが1番の課題になっていたが、この課題はクリアされてきている。現在も優秀な人がすぐに辞めるといった問題はあるが、日本へ来ている外資系企業で就職する日本人のマインドも同様だろう。また、代理店のマネジメントも非常に重要だ。中国では代理店の管理が非常に重要なファクターといえ、この代理店マネジメントで成功している日本企業もある。この企業では総代理店が沿岸部に集中してしまうため、当初の総代理店制度を業態別の百貨店、量販店向け、専門店向けというように担当者が一緒になって店舗開拓を進め、現在では全国に約700店舗を展開し、地方の比率も大幅に上がっている。
 また、日系企業は全般的にリスクを回避するためキャッシュでの早めの決済をしているが、欧米企業は月末の後払いやシステム導入での正確な在庫管理で流通在庫をうまく削減し、中国側と互いにWin-Winとなっている。内陸へビジネスが広がれば、流通在庫がたまっていくので、チャネル管理がますます重要になる。販売チャンネルの強化に成功して中国でかなり成功している例は多い。アパレル・チェーンでは中国で2000店舗ほど持っている店も多いので、それに対抗するには店舗と並行してインターネット販売を開始するのも非常に効果的だ。中国でのネット販売は、非常に威力のあるチャネルだ。ネット販売をすれば売れるという訳ではないが、店舗販売の後、ネット販売を行い、他のチャネルとして使うのは非常に良い。ある日本のファストファッション大手のネットでの売上は1日当たり約745万円で、その約3分の2は店舗のない地域からだの注文である。このような補完チャネルとしてのインターネット販売は非常に効果的である。また、日本の大手電機機器メーカーなどでは、日本国内では販売代理店に気を遣いながら売っているが、中国では直販のチャネルとして独自のサイトを持ち様々な売り方ができる。
 2010年8月16日に中国国務院から法令が出され、外資系企業のネット販売が可能になった。従来は代理店や中国企業を介していたネット販売も、外資100%のメーカーでもインターネット直販が可能となり、今後は一層ネット販売が加速してくる可能性がある。ただ、中国では日本ほど高機能で値段が高い商品が売れるのではなく、中国仕様の様々な工夫が必要になる。洗濯機の機能の単純化と部品の現地調達によりコスト削減を実現した日系企業の例もある。耐久性などの品質は保ち、機能を削減することで低価格の中国仕様の商品を提供している。中国で非常に成功しているといわれる化粧品大手は、高い製品を売る一方で、中国向けの安い製品もつくり、チャネル別に販売している。中国の有力メーカーと組んで低価格品を委託生産し、さらに東南アジアにも進出しようとする日系企業もある他、低価格とカラーやデザイン性で他との差別化を図って大きくシェアを伸ばしている例もある。
 人材については、離職率が非常に高く、これをどのようにマネジメントしていくかが大きな課題である。特に管理職は、かなりな高給でなければ残ってくれないし、もし辞職となった場合には、日本人が現地へ行かねばならず、それを繰り返せば現地で日本人が増え、部下は「中国人は管理職になれない」と思って辞職する悪循環に陥る。この予防に成功している日系企業も幾つかある。この企業では、日本の大学出身者の中国人を日本で採用し、現地で会社をつくり順調にいっている。先に述べた代理店改革などをうまくやろうとするならば、中国人で優秀かつ信頼できる人を見つけることが重要だ。
 韓国大手企業をみると、韓国人がかなり「中国人化」している。中国へ赴任する前に韓国で中国語を覚え、中国に留学し、中国語でのコミュニケーションができるようになってから中国に人材を送り入れる。現地法人では韓国人も皆、中国語で会話し、メールでやり取りしている。日本人は中国語を覚えるのが早いので、日本人が現地化するという方法もあると思う。ただ、中国進出の際にヘッドハンティングした人材を経営陣とし他企業は全て失敗している。これは日系企業が一度やりたいと思っていたことで、当時注目されたが、日本人の合同メンバーとの間でうまく会話ができず、現地の人はまかせてもらっているのだが、実はそうでもないと感じるようになり、最後は辞めてしまうためだ。また、日本企業での働き方、経営理念や会社の成り立ち、創業者の思いなどを中国人は尊重するし、それがない企業は逆に、馬鹿にされるところがある。企業理念のDVDの中国語版をつくり、代理店や社員に配ることも効果的である。
 以上、販売チャネル強化の話だが、商品はやはり品質を落とさず、機能を減らしてコストを下げる。人材のマネジメントではコアになる人を何とかして探し出し、経営理念を含めた経営システム全体を覚えてもらうことが重要になるだろう。そのためにはやはり、最初をしっかりとすることが重要だろう。

おわりに
 中国では最近、暴動なども起きており、中国への進出には政治的リスクも少なくない。また、中国は2004年をピークに人口が減少しており、2007~2010年の過去3年で長野県に相当する人口が減っており、今後10年間では京都府全体に当たる人口が減ることになる。また2015年をピークに世帯数が減少するため、家電などのいわゆる耐久消費財も減っていくため、かなり経済に影響する。現在も既に内需の消費が停滞しているようだが、2015年以降はかなりの低下が予想される。自動車の数なども2010年以降は減少傾向であり、軽自動車の割合は増加するが普通車は相当減少すると予想される。
 一方、日本の産業は売上の9割が国内市場に依存し、海外に進出しているのはグローバルな製造業のみとなっている。高品質で高価格という日本的なモデルを海外に展開するのは困難で、非常にニッチなところへ追いやられてしまうだろう。「グローバル化の谷」という言葉が3年ほど前に登場したが、例えば上場企業の場合、グローバル化しようとすると、やはり一旦は売り上げや利益率が下がり株主に叩かれ難しい。また今後、ますます新興国の低価格製品が日本へ入ってくる可能性もある。
 このような状況において、日本では若い人ほど「海外へ行って働きたい」と思う人が減っている。イタリアやスペインなどもそうだが、経済が下降していくときは一番住みやすいらしく、そういう意味で日本は今、非常に住みやすい時期に入っている。しかし、皆さんには是非ハングリー精神を取り戻し、第2の創業を行うつもりで中国へ行っていただきたい。そうすれば、現在の会社と同規模の会社を短期間でもう1つ誕生させることも可能かもしれない。色々な歴史を持った日本企業が中国へ行き、成功することを願っている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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