第42回 IISTアジア講演会 「チャイナ・アズ・ナンバーワン -中国経済の現状と展望-」株式会社野村資本市場研究所 シニアフェロー 関 志雄【2010/11/10】

講演日時:2010年11月10日

IIST 国際情勢講演会
「チャイナ・アズ・ナンバーワン -中国経済の現状と展望-」


株式会社野村資本市場研究所 シニアフェロー
関 志雄

関 志雄1. リーマン・ショック後の景気回復
 2008年のリーマン・ショック後、中国は早い段階から拡張的財政金融政策をとり、これを受けて景気が急回復し、09年のGDP成長率は9.1%に達した。2010年の成長率も引き続き世界一となる見込みだ。IMFは2010年の世界経済の成長予測を4.8%としているが、このうち中国は1.3%と全体の27%を占めている。中国の今後の成長率をみる上で、インフレと不動産市場の動向は最も重要である。
 世間では「中国のインフレ率は今後も上昇し続ける」というのが主流だが、私はインフレ率が2010年の第4四半期にピークを打ち、その後、緩やかに低下すると見ている。2011年の後半、成長率とインフレ率が低くなった段階で金融政策が緩和され、2012年秋には5年ぶりに開催される中国共産党全国代表大会(党大会)に向けて景気が回復するだろう。中国では5年に1度の党大会、アメリカでは4年に1度の大統領選挙に合わせて、景気のピークが訪れるという政治的景気循環が見られる。2012年に米中両国は20年ぶりに同時にピークを迎えることになる。
 中国の不動産市場は、リーマン・ショック後に調整局面に入ったが、今年春ごろから再び不動産価格が上昇していた。しかし、政府が今年4月以降相次いで不動産バブルへの対策を打ち出したことを受けて、前年比で見ると不動産価格の上昇は鈍化しており、今後1年間程度は不動産価格の調整が続くだろう。現在の中国の経済状況は、日本のプラザ合意以降のバブル期だけでなく、高度成長期とも類似している。上海の住宅価格が平均的なサラリーマン年収の約25~30年分といっても、中国の成長性は日本よりはるかに高く、10年も経てば給料が2.5倍程度になると考えれば、それほど割高な価格ではない。さらに、不動産関連融資が、住宅ローンを除いても銀行融資全体の25%を占めていた日本の状況と違って、中国は住宅ローンを含んでも全体の20%程度、住宅ローンを除くと7%にとどまっていることを考えれば、不動産価格が下がっても、銀行が受ける打撃は比較的小さい。
 ただ、注意しなくてはならないのは、それとは別に、銀行の地方政府の融資プラットフォーム会社への融資は、銀行融資全体の2割に上り、その一部は不動産市場に流れていると見られることである。そもそも、融資プラットフォーム会社とはどのようなものか。中国では分税制が導入され、中央政府の税収と地方政府の税収は、はっきり分かれている。土地の転売から得られる収益は原則的に100%地方政府の財源になる。税金と土地売却の収益を合わせたものが地方政府の資金源であるが、インフラ投資などのニーズに対し資金が足りない状況だ。地方政府は債券の発行が認められていないため、独立した法人として融資プラットフォーム会社を設立して資金調達しているのである。この仕組みは1990年代初めに上海で始まっているが、急増したのはリーマン・ショック後である。政府が実施した4兆元に上る景気対策の内、相当の部分は地方政府の負担となったため、多くの地方政府が資金調達のために融資プラットフォーム会社を設立し、現在その数は約8000社といわれる。もし彼らが事業に失敗したり不動産価格が大幅に下落すれば、その借金の一部は銀行の不良債権になる恐れがある。この問題に対し、中国政府は、最近になってようやく調査と対策に乗り出した。

2. 人民元の切り上げと今後の見通し
 6月に行われた人民元改革の再開とそれ以降の状況を見てみたい。1997年のアジア通貨危機以降、中国は2005年7月まで対ドル安定政策(ドルペッグ)をとった。その後、「管理変動制」に移り、約3年間で元は対ドルで20%ほど上昇した。 リーマン・ショック前後から再び対ドル安定政策に戻ったが、アメリカから圧力を受けて、2010年6月に切り上げを再開した。
 現在、中国の為替政策をめぐる環境は、ニクソン・ショック前後の日本と極めて類似している。最近まで中国製品は国際競争力が低く、輸出を伸ばすため安い為替レートを維持していた。しかし、国際競争力がついた現在、本来これを為替レートに反映されなければならないが、中国自身はあまりそういう意識を持っていない。また、今回の世界金融危機は、ニクソン・ショックと同様に、ドルを中心とする基軸通貨体制への信任が低下している中で起こったものである。このことは、人民元の対ドル上昇に拍車をかけている。
 元の対ドル上昇を阻止するための外為市場への介入(ドル買い、人民元売り)は、国内で一種の過剰流動性の状況をつくり、インフレ圧力、さらには不動産価格上昇の圧力にもつながる。人民元改革は、単にアメリカの圧力をかわすためだけではなく、中国自身の金融政策の独立性を高めるためにも必要である。但し、輸出への影響を考えると、大幅な切り上げは容認されず、切り上げの速度は年率5、6%程度にとどまるだろう。

3. 産業の高度化
 2010年10月の中国共産党第17期中央委員会第五回全体会議(五中全会)において、第12次五ヵ年計画(2011-2015年)の草案が発表されたが、私はその中では「経済発展パターンの転換」が最重要だとみている。経済発展パターンの転換には3つの側面がある。1つ目は、需要面における輸出中心の成長から消費中心の成長への転換、2つ目は、産業構造面での工業からサービス業への経済構造への転換、3つ目は生産様式における投入量拡大による粗放型成長から生産性上昇による集約型成長への転換である。
 特に、三つ目の転換を急がなければならない。その背景には労働市場における大きな変化がある。中国はこれまでは「人口のボーナス」のお陰で、30年間にわたって年率10%の成長を実現できた。しかし、1980年頃からの一人っ子政策により、2010年以降、高齢化社会が進む一方で、生産年齢人口の割合は低下傾向に転じるため、従来のような10%成長は維持できなくなる。また、大量の農民がすでに都市部に出稼ぎに行ってしまった結果、多くの農村地域では「過疎化」が進み、中国は間もなく発展過程における完全雇用を達成するという見方が経済学者の間でも共有されている。
 生産性上昇のため、自主開発能力の向上が必要であると政府は強調しているが、私はそれ以外に、労働力をはじめとする資源を、より生産性の高い部門に移していくことが重要だと考える。具体的には、国有企業の民営化を通じ、資源を計画経済部門から市場経済部門へ移していくこと、もう1つは、産業の高度化だ。
 中国では、毎年平均してGDPが10%成長しているのに、雇用は1%しか伸びていない。これは、労働生産性が毎年9%も上昇していることを意味する。それが可能になったのはまさに労働力が生産性の低い農業部門から生産性の高い工業やサービス部門に移ったからだ。
 製造業を中心に、中国では新しい産業が着実に成長している。工業生産に占める重工業の割合は、2001年にWTOに加盟してから約10ポイント高まっている。中でも、2009年の中国の自動車生産台数は1379万台と、日本を抜いて世界一となり、粗鋼生産は5.7億トンと日本の6.5倍で、世界全体の46%に達し、2010年には6.5億トンと世界の半分を超える見込みである。また、最近発表された第12次五ヵ年計画の草案では「戦略的新興産業」として、省エネルギー・環境保護、新世代の情報技術、バイオテクノロジー、ハイエンド製造設備、新エネルギー、新素材、新エネルギー自動車といった分野の発展を促す政策を打ち出している。

おわりに
 中国のGDP規模はおそらく今年(2010年)、アメリカに次いで世界第2位になるが、労働力の供給などが制約となり、今後は成長率が下がる方向にある。しかし、現在の中国の発展段階は40年前の日本にほぼ対応している。生活水準は先進国に及ばないが、技術が海外から安いコストで入手でき、また、産業高度化の余地もあるという後発性のメリットを活かせば、先進国を上回る生産性の上昇、ひいては経済成長率が達成できる。
 予想される人民元の対ドル上昇も加わり、米中GDP逆転の時期は2026年になると思われる。昨年の中国のGDP規模はアメリカの3分の1であったが、日本の対中輸出は昨年戦後初めて対米輸出を上回った。わずか10年間で日本の対米輸出依存度は半分となり、昨年の対中輸出依存度は18.9%に増加し、私の予測でいう2026年に米中GDPが逆転する時、日本の輸出に占める対中輸出は現在の倍近い35%程度になるとみられる。高い経済成長を続けていく中国との関係は、日本の政府にとっても企業にとっても重要であることに、もはや異論はないだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部