第43回 IISTアジア講演会 「21世紀の大国をめざすインドネシアでのビジネスに注目」三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)国際研究部主任研究員 亀山 卓二【2010/12/09】

講演日時:2010年12月9日

第43回 IISTアジア講演会
「21世紀の大国をめざすインドネシアでのビジネスに注目」


三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)国際研究部主任研究員
亀山 卓二

亀山 卓二1.見直されるインドネシア
 日本でのインドネシアのイメージはテロや天災、鳥インフルエンザなどであったが、近年見直されている。それは、タイの情勢不安での経済停滞や日中関係が尖閣諸島問題などで複雑になっている事に加え、中国での賃金の急上昇と労使関係や労務管理が難しい状況といった外部的要因もあり、相対的にインドネシアの地位が上がってきている事による。そして、インドネシア本来の巨大な人口、そして資源、それから民主的な国家になってきているという安定要素が加わりインドネシアの魅力が増してきているということもあり、労働集約型の産業についてもナイキなどの委託生産も復活し生産拠点としても見直されている状況である。
 国家のシンボルであるガルーダには、神への信仰、人道主義、インドネシアの統一、民主主義、社会的公正という5つの原則が込められている。インドネシアの特徴として、まず「多様性の中の統一」が挙げられるが、民族は多様性に富み、その宗教、言語も多様な中で統一された国である。米国のオバマ大統領は、小学生の頃ジャカルタに4年間滞在していたため、インドネシアに親近感を持ち、ブッシュ前大統領のイラク侵攻後、イスラム教人口の多いインドネシアとの関係がぎくしゃくしたことを意識して、インドネシア大学での講演では両国は共に「多様性の中の統一」という共通の原則を持ち、統一された民主主義国家であるということを強調した上で、インドネシアを重視する発言をしている。インドネシアの国土は日本の約5倍、東西はアメリカと同程度で5150キロだ。資源は、石炭、石油、天然ガス、金、銀、銅、ニッケル、ボーキサイトなど、世界有数の埋蔵量である。また、国民の87%はイスラム教徒だが、イスラム国家ではない。インドネシアではキリスト教やヒンドゥー教、仏教など多様な宗教を尊重しており、すべての宗教の重要な祭日が休日となっている。
 インドネシアの2009年の国内総生産(GDP)は9390億ドルで、日本の10分の1程度、世界で18位で、G20の仲間入りもした。1人当たりの所得は2329ドルで、日本の17分の1程度だが、購買力平価は4380ドルで、日本の10分の1以上だ。ただ、ごく一部の富裕層から中間層、低所得者層まで社会の階層が大きく分かれている。実際に1日2ドル以下で生活する人たちが、まだ国民の半分程度を占める。ただ、ジャカルタの所得水準は、1人当たり6500ドル程度とかなり高い。
 スハルト時代の開発独裁政治と2004年のユドヨノ政権以降では、経済的に発展もしたが、根本的には政治体制が大きく変わった。メディアの自由度やデモを行う権利もでき民主主義が浸透した。また、2億人もいる国で、大統領選が直接投票であるのも稀で、混乱もなく選ばれていることは、注目すべき民主主義の発展であろう。

2. 日本との関係
 日本とインドネシアは非常に深く関係している。1967~2005年の直接投資を見ると、累積額では日本が一番で13%を占め、イギリス、シンガポール、香港が後に続いている。日本からの投資は1960~70年代ごろに始まり、当時は輸入代替の産業が中心で、東レや帝人などの繊維関係、松下電器や三洋電機、トヨタなどが進出し、80年代後半以降は政府の政策転換により、輸出志向型の産業が増えた。さらに90年代には、エレクトロニクスを中心とした輸出型の企業が、中小企業も含めかなり進出したが、その後のアジア経済危機で、撤退する企業も少なくなかった。アジア経済危機から回復した2000年以降は、特に二輪車、四輪車を含む自動車関係、その周辺部品関係の投資が増え、近年は製造業だけでなく、外食産業や小売産業、サービスなどに裾野が広がってきている。
開催風景 政府開発援助(ODA)では、インドネシアにとって日本は最大の2国間援助提供先である。日本に次いで多いのは、オーストラリア、ドイツ、アメリカだ。日本のインドネシアへの援助は戦争の賠償以外に、第一に石油や液化天然ガス(LNG)、石炭、銅、ニッケルなどの豊富な資源・エネルギー確保がある。第二には、マラッカ海峡はインドネシア領域の近くで、中東から日本へ石油を運ぶルートにあり、ここが封鎖されると石油の輸入ができない。また、マラッカ海峡は水深が比較的浅く、大型タンカーは通りにくいため、ジャワ海からロンボク海峡を通り、北へ上がるルートもある。このように、日本にとってインドネシアは、地政学的に中東からのシーレーンを確保する上で非常に重要でもある。第三に、北朝鮮問題である。インドネシアは北朝鮮と外交関係を持つ数少ない国の1つだ。1955年にインドネシアでアジア・アフリカ会議が開かれ、スカルノ大統領がリーダーを務めた。会議の参加国は、第一世界の西欧国家、第二世界の共産圏国家のいずれにも属さない非同盟諸国であった。インドネシアは共産国ともコネクションがあり、当時、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)政権とも国交関係を結んでいる。北朝鮮との間で拉致問題などを抱える日本が、北朝鮮の友好国であるインドネシアと良好な関係を保つことは、重要な外交戦略でもある。今後も日本からのODAはインフラ分野などを中心に国際協力銀行(JBIC)などを通じて実施されていくだろう。

3. 順調な経済成長
 インドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国で、名目GDPは世界で18位、ASEANでは36.45%を占めている。またインドネシアの人口はASEANの39%を占める。マクロ経済は最近、順調に成長しており、リーマン・ショック後には周辺国が軒並み低成長になったが、インドネシアは2009年に4.5%成長し、今年も半期で5.9%、年間を通じて6%程度の成長が見込まれる。
 インフレ率は一時期、非常に高かった。90年代以降は10%以上、20%程度と高インフレが続いてきたが、2010年に入って5%程度となった。失業率は10%程度で推移してきたが、現在は7%強だ。ただ実際には、公表されている数字の2~3倍程度の失業者がいるだろう。「失業」の定義にもよるが、1日2時間ほどしか働いていないオートバイの運転手やお手伝いさんなども入れた場合、高い失業率になるはずだ。為替は、アジア経済危機以降、一時は1ドル=15,000ルピアになったが、現在は1ドル=9,000ルピアほどで安定しており、今後は中長期的にルピアも上昇するだろう。金利は元々高い国だが、昨年から緩和して、現在は6%程度である。インドネシアの輸出依存度は21%と周辺国と比較すると低く、タイ、マレーシアの50%、シンガポール200%など先進国への輸出が多い国々では、リーマン・ショックの影響が大きかったが、インドネシアの場合、元々内需に依存していたため、その影響は限定的であった。
 インドネシアの今年や来年の経済成長の予測は、インドネシア政府は5.8%としているが、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)は6%以上の成長を予測しており、プライスウォーターハウスクーパースの試算では、2050年にはインドネシアが中国、アメリカ、インド、ブラジル、日本に次いで世界第6位の経済大国になるとしている。日本が少子高齢化の問題などにどの程度対処できるかにもよるが、少なくとも2050年には、日本と同程度の経済規模になるとの見方で一致している。  投資動向をみると、アジア経済危機以降、落ち込んだ投資は回復し、2008年には過去最高の150億ドル程度の投資が流入している。2009年にはリーマン・ショックの影響で落ち込んだが、2010年には2008年以上の投資があると予測され、分野的には、通信、輸送、サービス関係、化学関係が中心で、2010年は不動産関係への投資が多くなっている。日本からの投資は1996年の76億ドルが最高で、2009年には10分の1程度になっている。ただ、件数をみると一時期は減っていたが、現在はかなり回復し、日本はインドネシアへの第3位の投資国になっている。またJBICによる日系企業が中長期的に投資をする際に有望と考える国に関するアンケート調査で10位以下に落ち込んでいたインドネシアは、2009年度は8位と上昇傾向にある。インドネシアでは、年間所得が5000ドルから1万ドル程度の中間層の人々が2000年には470万人程度だったが、2008年には7000万人と急速に増えている。インドネシアの中間層の数は、マレーシアやフィリピン、タイ、ベトナムと比べても、圧倒的に多く、BOP(bottom of the pyramid)という中間層の予備軍といえる準中間層の人たちは8800万人を数え、BOPビジネスも有望である。
 また、インドネシアでは、二輪車が急速に増加しており、2009年は585万台と中国の約2000万台、インドの約800万台に次ぐ世界第3位で、2010年は700万台以上と予測される。シェアは、過去ホンダが圧倒的であったが、ヤマハがシェアを伸ばし、現在はホンダとヤマハが同程度で4割程度のシェアを持ち、そこにスズキも入っている状況だ。韓国の家電がインドネシアを席巻しているのも同様の理由からだと思うが、ヤマハは現地の人たちの嗜好に合ったデザインや機能を持つ製品を開発し、受け入れられた。四輪車は70万台程度の販売が見込まれ、増加傾向ではあるが、それに伴うインフラ整備が急務である。
 四輪車や二輪車が増えている背景には、中間所得者層が増えている以外に、金利が下がっているという理由もある。金利の低下傾向により、オートファイナンス、二輪のファイナンスも急激に伸び、現金ではなく月賦で買う人たちが増えている。あるオートファイナンスの日系企業は、5年前に従業員が500人だったのが、今では5000人になるほど成長した。中長期的に見ても、二輪、四輪はまだ増えるだろう。現在インドネシアでは、27.9人に1台の自動車があり、タイでは6.9人に1台、中国ではインドネシアと同様、ブラジルでは7人に1台だ。
 今後有望な産業では、二輪、四輪、消費型産業が中間所得者層の増加により伸びることは間違いない。他にはサービスなどで、外食小売産業が相当伸びていくと考えられる。ジャカルタの飲食店数や納税額の推移は、非常に増えている。安全志向、健康志向が強くなって、回転寿司も賑わっておりインドネシア人の嗜好に合った寿司も出している。他に日系ではモスバーガーが進出し、ライスバーガーや和牛を使ったハンバーグなどが人気だ。セブンイレブンも昨年からジャカルタに進出し、積極的に展開している。おにぎりやおでんなど、日本の商品も人気だ。ジャカルタなど都市部では、徒歩圏内にコンビニエンス・ストアを求める人たちが増えている。外食小売産業は、今後も大きく伸びるだろう。
 また保険・医療関係では、ドイツの生命保険会社Allianzの売上げは、過去3年で3倍ほど伸び、現在の売り上げは約3兆2370億ルピアで、約300億円の保険収入を得ている。保険業界は年20%程度の成長で、市場規模は5000億円弱で現在の生保の加入者は国民の1割強程度しかいないが、AllianzではBOPビジネスで急速に加入者を伸ばし、日系では明治安田生命が、最近、地場にマイナー出資をした例もある。
 他には今後、医療関係、病院ビジネスも伸びると考える。インドネシアはアジア最大の医療途上国で、人口10万人当たりの医師の数はわずか13人で、ベッド数も非常に少ない。しかし最近は中・高所得者向けの病院が急拡大し、シンガポールの病院なども増えているが、CTスキャナー、MRIなど、医療機器もまだ不足している。
 この他、インフラ関係も有力で、中でも水ビジネス、特に上水、下水、排水の市場は、2005年は8億ドルぐらいの規模だったが、2020年ごろには50億ドル程度になると予測される。現在、排水は一部を除き、汚水処理はほとんどなく垂れ流しの状態であり、上水も漏水率が高く、インドネシアは「ボチョール・エコノミー」だといわれる。ボチョールとは「漏れる」という意味で、漏水はするし、電気は盗電されると揶揄される。このような問題を解決するため、今後市場は拡大していくだろう。

4. 今後の課題
 現在好調なインドネシア経済であるが、課題も多い。ジャカルタでは交通渋滞がひどく、来年には車とオートバイの面積が、道路の面積を超えてしまう危機的な状況で、インフラ整備を早急に進めなければならない。投資環境上の大きな課題は3つあり、第一はインフラの問題で投資環境、道路、電力、水の問題、港の問題などである。第二に、政府の様々な許認可関係にかかるコンプライアンス・コストが高い。第三に、法的確実性が不足しており、法の運用が不透明である。
 インフラにはユドヨノ政権も力を入れている。今後約5年間で約14兆円が必要だとし、政府だけでなく民間の資金も活用するとしている。ただ、実際は計画通りに投資されるケースは少ない。日本政府もJBICを強化して、東南アジアでのインフラ事業は積極的に後押しする方針だが、大きなビジネス・チャンスである一方、リスクも大きい。
 世界銀行による、事業を運営する際の容易さに関する調査では、インドネシアは世界183ヵ国中155位で、非常に操業し難い国となっている。たとえば創業には多くの手続きが必要で、所要日数もかかり、コストも高い。ここでのコストには、アンダー・ザ・テーブルは入っていないため、実際にはもっとかかる。また事業撤退でも、時間やお金もかかり、ビジネスがやりにくい。ちなみにタイは世界で19位、マレーシアは21位と高く、シンガポールに至ってはほとんどトップに近い。
 法の確実性という問題は、省庁間、中央政府と地方政府間で異なった解釈がなされたりする。地方によっては、国の労働省に納めるべき外国人雇用のための基金について、地方政府が独自に法令を作り、地方政府にも納めるよう強制されることもある。また商業省と工業省の間、関税局と商業省の間で輸入手続の見解が齟齬していることも少なくない。さらに同じ省庁の中でも、異なった解釈が生じたりする。司法でも、判例主義でないことがあり、過去に同種の事例があっても異なる判例が出る。このほか裁判官の汚職問題や、法令が出てすぐ施行になり、周知期間がないこともある。最悪の場合、今日出された法令が、さかのぼって1ヵ月前に適用されたりする。
 最後に結論だが、インドネシアの強みはまず民主主義が発展し、政治的に安定してきていることである。また膨大な人口があり、特に若年層が多いため、インドネシアは現在、消費市場大国になりつつある。さらに今後の機会としては、経済成長に伴い貧困層の所得水準が上がってくるためBOPビジネスも有望である。一方、投資環境、インフラと法整備、コンプライアンスに関するリスクは改善する必要がある。また製造業の競争力は、裾野産業が未熟、物流コストが高い、人材の質も未熟練という弱点がある。
 最後に、インドネシアでは、昔からルーツが深い汚職のカルチャーがあり、最近は中央政府、高官レベルでは少なってはいるが、地方に至っては、昔のスハルト政権時代以上に悪化している事が懸念される。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部