平成22年度 第1回-1 国際情勢研究会 報告1「中国政治と日中関係の動向-上海万博の光と影」 東京大学大学院 法学政治学研究科教授 高原 明生【2010/05/31】

日時:2010年5月31日、場所:(財)貿易研修センター

平成22年度 第1回-1 国際情勢研究会
報告1「中国政治と日中関係の動向-上海万博の光と影」


東京大学大学院 法学政治学研究科教授
高原 明生

高原 明生  中国の報道では最近、所得格差に関するものが目立つ。総工会という労働組合の全国組織が行った調査によると、全国の従業員の23.4%は過去5年間、賃金が増えていないという。その一方で、一部の人たちは大変所得が増えている。 収入については最高の10%と最低の10%の格差が1988年には7.3倍だったのが、2007年には23倍にもなった。そして中国の1%の家庭が、中国全体の41.4%の富を掌握しているという調査結果もある。
 主にいくつかの突出した格差問題があり、1つは都市農村間の格差である。そして昨今、特に問題になっているのは、国有企業がほぼ独占している業種がいくつかあり、そこが特に高い給料を出していることだ。5月13日には国務院が意見を発表し、国有企業がほぼ独占している業種に民間資本を入れるべきだと言っている。これは実は、政治制度等を考えると非常に重要な意味を持つ。以前はこの国民経済の要の部門だけは公有制で死守すると言っていたのだが、そこへ民間資本が入ることになる。こういう部門に民間資本が入ると、ますます社会主義の色彩が薄まっていくことは目に見えている。それから同じ独占業種であっても産業の中の格差、企業間の格差があり、また1つの企業の中でも格差があるというデータを最近よく目にする。また、地方の財政赤字も大変大きい。
 そうした政治社会状況が、外交や安全保障問題にどう跳ね返っているのかが気になる。中国メディアでは最近、激しく、攻撃性の高い言葉遣いが増えているが、かつてはなかったことである。1つの背景としては国内の不満増大があり、それがある種、反映されているのではないか。例えばどういう言説かというと、中国では「核心的利益」という表現がよく使われるようになった。これは台湾問題やチベット問題のような、主権絡みの問題についてだけではなく、経済的な安全保障のような考え方で、経済問題もこの「核心利益」に含めて考え始めている気配がある。こういう表現をすると、その問題については絶対に譲れないということになるので、外交政策の幅を狭めることになり、われわれにも影響のあることだと思う。そしてアメリカやインドを相手にした激しい言説も増えており、一体、中国はどうなっているのかと、やや心配される。
 責任ある立場にいる人、指導的な立場にある人がそういう激しい言説をしている訳ではなく、これらが必ずしも政策になっている訳でもない。しかし、これらの言説は統制もされていない。その1つの背景として、2年後の党大会を控え、文民の指導者間の権力闘争が激しくなっていることが指摘できると思う。軍を敵には回したくない、味方にしておきたいので、軍関係者がこのような発言をしている場合、それに対してものが言いにくい状況があると思う。もう1つ、軍の側ではどうかというと、今は次の5ヵ年計画を確定しようという段階になっているので、予算の分捕り合戦の文脈でこうした言説を展開している面があると推測できる。しかしそれ以上のことはわからない。
 中国では外交路線をめぐっても、いろいろな意見の違いが出てきているようだ。今申したような話がどう影響してくるのかについては、現段階ではよくわからない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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