平成22年度 第4回 国際情勢研究会 報告「経済制裁と軍事攻撃の隘路を往くイラン」 (財)日本エネルギー経済研究所 中東研究センター理事 兼センター長 田中 浩一郎【2010/10/07】

日時:2010年10月7日、場所:(財)貿易研修センター

平成22年度 第4回 国際情勢研究会
報告「経済制裁と軍事攻撃の隘路を往くイラン」


(財)日本エネルギー経済研究所 中東研究センター理事 兼センター長
田中 浩一郎

1.米国によるイランとの対話路線の頓挫
田中 浩一郎 イランの核疑惑に関し、米国とイランとの対話がなぜ途絶えたかというと、ある部分、最初からそれは決まっていた。オバマ大統領に与えられた時間は限られており、その下でイラン側が応じることがなければ、いつまでも付き合うつもりはなかったと思う。
 2月に3.5%から約20%のウラン濃縮に転じた段階で、オバマ大統領の中では完全に制裁モードに変わった。そして9月に米国を訪問していたアフマディネジャード大統領が、国連総会で米同時多発テロ事件(9.11)に関し、ショッキングな発言をしたことで、オバマ大統領の反応は一層厳しいものになった。これによって対話は、ほぼ消滅したと思われる。
 アフマディネジャード大統領は、米同時多発テロ事件の背後関係について「アルカイダなどではなく、アメリカ国内に浸透した別の国のエージェントなどによって仕組まれたことだ」と疑問視した。アメリカではアフガニスタン攻撃は、「正しい戦争」と位置づけられているが、その正統性自体を問おうという訳だ。オバマ大統領は翌日、英国放送協会(BBC)のペルシャ語放送でインタビューに答え、これを不快として厳しく批判した。

2.制裁レジームと軍事攻撃の信憑性
 イランへの制裁は現在、様々なところにかかっている。イランは核武装の意志について特に否定しているが、意志があるのかないのか本当のところについてはわからない。イランが黒だ、あるいは黒に限りなく近い灰色だというアプローチをとる側は、イランが行っている活動は平和利用目的ではないと推定し、結論づけることになる。これを規制する、あるいは思いとどまらせるための制裁としては、まずウラン濃縮、使用済み燃料の再処理などについて安保理制裁、そして各国の独自制裁がある。また弾道ミサイル開発についても、平時であればミサイル技術管理レジーム(MTCR)のようなものがあるが、1929のようにミサイル開発の禁止も規定するものが今回出された。次に核分裂物質のストックの部分があり、分裂物資が一定量なければ兵器化はできないため、ストックとして蓄えられないようにする。1つは安保理制裁によって、濃縮をやめようということがあるが、昨年10月、そして今年5月に改めて別の形でつくり変えられたウラン・スワップはここに相当する。技術面、能力面ではこういった制裁が効くが、最終的に意志をどうするかとなると、軍事攻撃の脅しを含むあらゆる圧力行使になる。この圧力行使の中には当然、経済制裁も入る。
 制裁強化の流れから見れば、軍事攻撃は少し先の話、ないしはより極端な手段で、水平線の彼方にあるかないかというように考えても良いかもしれない。しかしイランの場合、アメリカとの敵対関係もあるが、イスラエルとの敵対関係が問題になる。以前から、イスラエルがイランに先制攻撃するのではないかといわれており、イスラエルの指導者たちもそれを隠さず、あえて誇張しているところがある。イスラエルの攻撃について軍事関係者などと話をすると、大体、出てくる結論は、「能力的にはできるが、軍事的には行わない」、つまり被害も大きく意味がないということだ。ただ、そういう計算が成り立たないのがイスラエルの安全保障観だと思う。

3.イランが探求する活路
 このような中、イランがどのような道を求めていくのかというと、少なくとも外交上では、中ロにどの程度頼れるかが問題になる。安保理の常任理事国なので当然無視はできないのだが、イランを守ってくれる、あるいは弾除けになってくれるという点では頼りにならない。一方、経済では、彼ら自身は輸入代替で輸入依存から脱却するとしてきた。しかし実際にはなかなかできず、食糧面も含めて問題が残っている。また金融制裁について特にいえることだが、制裁の抜け道とされるものは時間と共につぶされていく。
 ではイランにとって唯一できることは何かというと、これは代償が大きいのだが、現在行っていることを続けることだ。今のイランにとって、問題は2つある。1つは代償が大きいことで、もう1つは現在の状態を止めようと思ってもブレーキを踏む、あるいは舵を切る人がいないことだ。
 エンドゲームがイランにとってどのように見えるのかというと、NPT加盟をずっと維持する一方、「核兵器開発を行う」と宣言することはおそらくない。NPT加盟を続けることによって、イランが言ってきた「平和利用目的」に対する護符を得ることができる。
 ではイランが兵器開発能力を兼ね備えた「平和利用国家」になれば、どうなるか。核武装を宣言することはなくても、確実に核武装能力を保有することになる。当面のところはNPTに入っているというお守りが必要で、兵器化の意図や計画は否定しながら、能力としては保有するに至るだろう。ただ同時に現在の濃縮活動を続けることになるため、経済制裁はやまない。仮にイランのエンドゲームが核兵器開発能力を持った平和利用国家という姿であるとすれば、今後数年のうちにそこに到達することは可能で、成功するであろう。ただし、それをもって経済制裁がなくなるかというと、全く別の話だ。当然、これは国内経済に大きな打撃を与えることになり、経済制裁が長引けばイラン国内で耐乏生活により困窮する国民が増えると予想される。そして、国内ではやはり、大きく分けて2つの考え方が支配するだろう。これは昨年夏の大統領選挙の際に出た流れで、「孤高のイスラーム共和国」として外に何を言われようと自分たちがやろうとしていることを続けていく唯我独尊のような考え方の人たちと、そうではなく普通の国になって普通に生活をしたいという人たちだ。
 イランはまた、北朝鮮のモデルは全く信用しておらず、北朝鮮と比較されることには強く反発している。しかし、こういうことを続ければ、外から見た場合には、次第に北朝鮮を模したような姿に変わっていくことになるだろう。最終的に、制裁と軍事攻撃の間をうまくかいくぐり、核武装能力を持つことに成功したとしても、外からはますます、北朝鮮のような国家として見られていく。そういう道を歩んでいるというのが、現状での私の分析だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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